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2-1

「み……ず……ここは?」

 

 喉の渇きに目を覚ますと何処か見知らぬ薄暗い部屋で、ゆっくりと上半身を起こし寝る前の状況を思い出す。

 

「異世界に飛ばされた……夢じゃ無いんだな」

 

 クラミの左手を愛おしそうに両手で握るリトスの寝顔をぼーっと見つめて、昨日の出来事が現実だったと判断する。

 美しい寝顔を何時迄も見ていたいが、それよりも水が欲しい。昨日から水を飲んでおらず、喉のを潤すためにベットから出ようとするがリトスの両手がそれを遮る。

 

 もぞもぞとクラミが動いたせいか、リトスが目を覚まし気怠そうに、何処か艶のある動きで上半身を起こしクラミの目を見つめて――

 

「おは……よ、クラミ」

「おはようございます、リトス様」

「うん」


 挨拶を交わすと、笑顔で頷くリトス。クラミがその笑顔に見惚れていると目が合い、リトスが軽く首を傾げ聞いてくる。


「そんなに見つめてどうかしたの?」

「いえ……そろそろ手お離して欲しくて」


 ふかふかの白いベッドの上に、胸元の少し大きめのリボンが印象的な、白いネグリジェを着たクラミと、レースの模様の下に肌が見える、ピンク色のネグリジェを着たリトスが手を握り見つめ合っている状況だ。


 名残惜しそうに手を離すリトスに、クラミは水を一杯欲しいとお願いし、ベッドの脇に置かれている柱脚テーブルの上から、陶器の水差しを取り、銀色のコップに水を注ぎクラミに渡す。


 クラミは一礼して、一気に飲み干す。ヌルい水が体に染みこんでいく―――足りない。渇ききった体には物足りない水の量で、水差しを空にするまで飲み続けた。

 顎を上げ水をのむ度にコキュリ、コキュリと音を立てながら動く喉元に、口の端から溢れて水が一筋の線になり垂れてくる。


 リトスがタオルで押すように優しく拭き、口を開く。


「慌てないで飲みなさい」

「すいません。昨日から水を飲んでなかったもので」

「そうだっとの……御免なさい気づかなくて。おかわりは?」

「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「そう。それじゃ、寝ましょうか」


 そう言うと、クラミに抱き付き、有無を言わせずベッドに押し倒し、左腕に抱き付く。


「リトス様!」 

「まだ日も昇らない時間ですよ」

 

 リトスの視線の先を見ると大きな窓があり、その先は闇に包まれていた。深夜に起こしてしまったんだろう、申し訳ない気持ちになる。

 リトスは窓を見つめるクラミに、眠たいのを堪え話しかける。

 

「クラミ」

「はい、何で――」

 

 名前を呼ばれた方向に顔を向ければ、リトスの顔があった。

 

「おやすみなさい」

「おやすみ……なさい、リトス様」

 

 額と額が軽く触れ合う。まるで唇と唇を優しく触れ合わせるかのように。

 リトスはそのまま静かな寝息を立て、クラミは静かに窓の方向に視線を変える。首筋に吹きかかる暖かな吐息と理性がせめぎ合う中、ポツンと、一言漏らす。

 

「お腹すいたな……」

 

 呟きと共に可愛らしくお腹がなり、眠れぬ夜を過ごしていく。


 


「ふぁ~~」

「眠そうねクラミ」


 必死に欠伸を噛み殺そうとするが少し漏れてしまい、手で口元を隠すクラミ。それをリトスに笑われる。

 

「食事中に申し訳ございません。」

「いいのよ、それよりもベッドが合わなかったのかしら?」

「いえいえ! 今後の事を考えていたので。それで気づけば朝に。」


 嘘ではない。90%は、リトスの薄っすらと肌が見えるネグジェリを観察してみようか、少し触れてみよう等と考えていたが、残り10%は、まじめに今後との事をどうするか考えていた。


「クラミさえよければ、家で働いてみない? 侍女が高齢で王都などの長旅に連れて行けなくて……どうかしら?」

「侍女ですか……どんな仕事か分かりませんので、ご迷惑をお掛けしてしまいそうで不安です」

「今すぐ決める必要は無いわ。クラミの中の選択しの一つとして覚えていて頂戴。それよりも冷めないうちに、食べましょう」


 二人の目の前に置かれた料理は、スープとハムのような肉に目玉焼き。バケットに盛られたパンである。日本人が描く洋風の朝ごはんって感じだ。リトスは、小さくパンを千切り小さく開けた口の中に入れていく。クラミのそれを真似目の前のパンに手を伸ばす。

 

(温かい)

 

 茶色の丸いパンを手に持ち半分に千切る。フランスパンのように周りが固いが、中は白く軟らかい。半分は皿の上に置き、もう半分を一口大に千切り口の中へ運ぶ。


(…………意外とありかな?)


 味は素っ気無いが、パンの固い部分は噛めば噛むほど溢れ出てくる麦の香ばしさに、ほんのりと感じる甘さを堪能する。

 パンを皿に置き、スープを掬い一口飲む。


(コーンスープ? 優しい味だな。)

 

 牛乳をベースにコーンの甘さと触感に胡椒の辛味がその味をより引き立て、いくらでも飲めそうだ。

 メインのハム? は、野性味あふれる味……少し臭みがあるが、以外に柔らかく肉汁が、味気ないパンと優しい味のスープを牽引する力強さがある。


(ご飯と一緒に食べたいな。それにしてもリトス様食べる仕草も可愛いな~もきゅ! もきゅ! って感じか。)


 ご飯を食べつつ、リトスも堪能するクラミ。

 

「どうかした? お口に合わなかったかしら?」

「いえ!とっても美味しいですし、それに――」

「それに?」

「いえ、何でも無いです」 

「……?」

(ご飯食べてる姿可愛いですね! とか言ったら、失礼になるのか?)


 などと考えるくらい心に余裕が出来る。昨日食べれなかった分のエネルギーを補給する為、御代わりをして朝食を堪能するクラミ。

 

 

 

「いっぱい食べたわねクラミ」

「ここの料理が美味しくて、それに昨日から何も食べていなかったもので」

「言ってくれれば、夜起きたときに準備させたのに」

「リトス様と一緒にご飯が食べたかったので」

 

 朝食後、茶を楽しみながら和やかに会話し今日の日程を聞かれる。


「私は、領主の仕事があるのですが、クラミはどうするの?」

「街の見学と、冒険者ギルドに言ってみようと思います」

 

 クラミの言葉に顔を顰めるリトス。


「……ギルドには、明日行きなさい。ブレ家から紹介状と人を出すから、今日は止めときなさい」

「わざわざありがとうございます」

 

 にっこり微笑むクラミに微笑み返し、


(こんなに可愛い妹を、クラミを……野獣の巣窟に送るなんて出来ない! 何か方法は…………)


 一人っ子で、家族のいないリトスの中で、クラミは妹にジョブチェンジしていた。妹(脳内限定)の為に悩むが、一向にいい考えが浮かばない。

 そんな中、執事がお盆に何か袋を乗せて部屋に入ってくる。

 

「お嬢様。クラミ様にコアの代金を」

「ああ! そういえば、そうね。クラミこれを受け取りなさい」

「何ですかこれ?」

 

 執事から袋を受け取ると、何か硬いもの同士がぶつかり合う音がする。


「それは、クラミが倒したゴブリンのコアの代金よ。街道に放置されてたゴブリンから抜き取った物と、一緒に倒した時の合わせて21個分のお金、銀貨5枚と銅貨25枚。勝手に買い取ってごめんなさいね」

「むしろ、ありがたいです。本当に貰っても良いのですか?」

「もちろんよ。これでしばらくギルドに行かなくても平気よね!」

「……ありがとうございます」

(そうは、言ってもこのお金の価値が分からないし……いまさら聞けないよな。街で確かめるか?)


 ご満悦なリトスに対して悩むクラミだが、(何か買っり、値段聞けば良いだろう。)と、楽観的に考えで行動することに。

 

「リトス様そろそろ街に行って来ます。」

「……分かったは。お昼はどうする? 正午の鐘が鳴ったら家で食べられるわよ」

「せっかくお金貰いましたので、外で食べてきます」

「…………分かったわ。夕方の鐘が鳴ったら帰ってきなさい。それとディナーは、一緒に食べましょ?」

「はい! 絶対一緒に食べます。行って来ます、リトス様」


 お昼を拒んだのがいけなかったのか、少し不機嫌になるリトス。何か怒らせる事でもしたか考えるが、思いつかずこれ以上、藪を突かない様にこの場を去るクラミ。




「お嬢様が怒るから逃げてしまわれましたね」

「後でちゃんと謝るわ。それと仕事の準備をして頂戴。一息入れてからいくわ」

「畏まりました。それでは私はこれで」

「…………はぁ。なにやってるだろ」


 温くなった紅茶を一気に飲み干し、少しして、席を立ち窓辺に寄る。クラミが笑顔で門番に挨拶しているのを眺め、仕事をしに食堂を後にするリトスであった。

 

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