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5-4 ③

 先ほどまでの下卑たる雰囲気から一変した森の中、赤い鮮血で汚れた落ち葉をグチャ、グチャと、音を立てながら歩いて行くる黒髪の少女。

 周りに四散した臓腑や肉片の異臭を嗅げば、少女は色めき立つ。

 頬を赤く上気させ、ゆっくりと地面を踏みしめながらソフィアの元へと歩いてくる彼女を只呆然と眺めている男達。

 そんなか、ひょろ長の男がいち早く気を取り直す。

 

「……ッ! な、何をしているのですか、相手は女一人ですよ!」


 檄を飛ばされ、腰に剣を携える男達は抜剣し、弓を持つ者は腰に提げている袋、クイーバーから矢を引き抜き、弦にあてがうと矢尻を目一杯引き絞る。

 次々と男達が臨戦態勢をとっていく中、ひょろ長の男は両目を閉じ、ブツブツと独り言を呟くと、徐々に彼の体を赤い光が覆っていく。

 その隣に居る丸い男は、後ろに佇む二匹の(オーガ)の太ももを叩き、クラミを指差して叫ぶ。


「おい、デカブツ共! あの女を――」


 叫ぶ男目掛けてクラミは左手に持つ鉈を投げつけた。

 ソレは空を切り裂き高速回転しながら丸い男に吸い寄せられ、喋っている最中の丸い男の頭部と鳩尾辺りを抉り取り、地面に突き刺さる。


「貴様ぁぁー! 殺せ! そいつを殺せぇぇぇぇ!」


 まだ生きているかのように、ビク! ビク! と、体を動かしている丸い男を見て、ひょろ長の男は叫ぶ。

 怒気の孕んだ声が森に木霊すると同時に、矢を番えていた二人の男はクラミ目掛けて矢を放つ。

 矢が当たるのを確認するまもなく、直ぐに次の矢を取り、次々と矢を射る。


「化け物かよ……ッ」


 一人に男が呟く。

 彼の目に映ったのは幾重にも放たれる矢を棍棒の盾で防ぎながら、黒髪を靡かせて走って来る少女。

 足取りの悪い森のせいでバランスを崩し、棍棒からはみ出た肩に矢が当たるのだが、(オーガ)の皮で作った外套を貫くことはでき無かった。

 ――でき無かったのだが、生き物を殺すために作られた物が当たって只ですむはずがない。


「ッツ! アァァァ、クソがぁぁぁ!」


 肩から全身に駆け回る衝撃を歯を食いしばって堪え、耐えきれない痛みを叫びと共にはき出した。

 そんなクラミを見て、矢では埒があかない。そう感じ取った男達は散り散りに動きだし、二人の男はクラミを真正面から迎え撃つ。


「ウオォォォォォ!」


 剣を構える男二人組に雄叫びを上げながら突っ込むクラミ。攻撃が届く距離に入ると、右手に持つ棍棒を両手で握り締めて高々と掲げ、地面を蹴り上げ空を舞い、体ごと二人組目掛けて棍棒を叩き付ける。

 ――が、予備動作が大きすぎるその一撃は、二人組の男が左右に飛ぶことで躱されてしまう。

 地面を大きく抉ったクラミはすかさず体を右に捻り、少し間を置いて棍棒がその動きに追従してくる。

 

「な、クソが――」


 地面に足がつくよりも早く追撃がきた。

 普通の棍棒とは違い、長さ三メートル余りの巨大な棍棒の間合いから飛び跳ねただけで逃れるわけもない。

 男は身動きが取れない空中で悪態を漏らして、先ほど肉塊になった男たちの事を思い出す。

 時間の流れが遅く感じる最中、脇腹にクラミの一撃をもらうと、血反吐を吹きこぼし、地面に幾度となく体を打ち付けて転がっていく。


「くそったれがぁぁ!」


 逆方向に飛んだ男は地面に着地すると同時に地面を踏みしめ駆け出し、隙だらけのクラミの背中に剣をたたきつけた。

 不意の衝撃に仰け反るクラミ。肺の中の空気は一気に外へと出て行き、呼吸をするため息を吸おうとするのだが上手くいかずに、口をパクパクと開くだけだ。

 

「死ね、化け物が!」


 男は叫びながら剣を振りかざす。背後の状況が分からないクラミだが、男の怨憎を孕む声を聞けば呼吸どころではない。直ぐに体を捻り、間合いが近すぎて役に立ちそうもない棍棒を離して、右手を振るう。

 丁度、振り回した右手が男の顔の位置にあるので、そのまま顔を掴むと指先に力を込めていく。


「アギャァァッァ!」


 ミシミシと音を立てながら食い込むクラミの指。余りの痛さに男は振りかぶった剣を地面に落として、クラミの右手を両手で掴み、外そうと必死にもがく。

 しかし、力の差は歴然で外れない。

 クラミは静かに立ち上がると、右手を――男の頭を岩が見える地面に叩き付ける。


「ハァッ、ハァッ、ハァ……」


 動かなくなった男から手を離し、必死に酸素を体に取り込むクラミ。

 その間に散り散りになった男達がクラミを包囲する。

 未だ荒い呼吸のクラミは口元から涎を垂らし、肩を大きく上下させながら伏見がちに男達を睨む。

 男達は慎重にクラミを囲む包囲網を狭めつつ、様子を窺う。なにせ相手は隙を見せれば一瞬で人を肉塊に変える化け物だから。


「相棒の仇だ! 死ね」


 そんなか、ひょろ長の男が叫ぶ。顔を憤怒の形相で歪めて、片手をクラミに向ける。

 すると、男の体を覆っていた赤い光は消え――と、同時にクラミの足下には、彼女が一人分収まるほどの赤い円と、見慣れぬ字が浮かび上がり、火の粉が舞い上がってきた。


 突然の事態に身動きが取れないクラミは、この現象をただ黙って見ている。火の粉程度問題無い。それよりも今、下手に動けば剣を持っている男達に何をされるのか分からない。そう思えば、呼吸を整えるのが先だ。

 その様子を見ていたソフィアは「……ん! ぅぅんん!」と、必死に藻掻きながら叫ぶ。

 

「え!?」


 ソフィアの慌てふためく様子を見て、足下のモノが危険と判断するが――遅かった。

 魔方陣から浮かび上がる火の粉が消えると同時に、天にも届きそうなほどの火柱が渦を描きながらクラミを飲み込む。


「そのまま消す炭になっちまえよ!」


 ひょろ長の男は吐き捨てるように言う。クラミを取り囲む男達は彼女が火柱の中から、のたうち回りながら出てきた瞬間にトドメを刺す準備をしている。

 しかし、一向にクラミは出てこない。不思議に思うが、火柱の中に入って確認するなんて事は当然のことでき無い。

 このまま、火柱が消えるのを待っていると、何かが飛び出してきた。


 直ぐさま男達は剣を叩き付けようとしたのだが、出てきたのは銀色に輝く長い物体だ。よくよく見るとソレには刃が付いている。

 男達は困惑気味に見ていると、一人の男が「これって、剣か?」と、口にすると同時に、ソレは勢いよく動き出す。男達の体を二つに引き裂き、周りの木をなぎ倒し、風圧で火柱を吹き飛ばした。

 触れるもの全てを破壊するソレは、一周して止まる。


「な……なんだよ……お前は!?」


 ひょろ長な男は尻餅をつき、震えた声をもらす。

 彼の視線の先にはクラミが立っている。落ち葉や土で汚れていた外套は炎で焼き飛ばされ、綺麗な紅を取り戻し、巨大な銀色の剣を肩に担ぎながら歩いてくる。

 

 クラミと目が合うとひょろ長の男は震えながら後ずさり、何かを思いだしたように懐に手を入れて長い筒を取り出す。

 それを、震える手で握りしめてクラミに向けて――。


 静かな森の中に何かが破裂したような乾いた音が木霊し、ひょろ長の男が持つ筒から一筋の煙が立ちのぼる。

 

「あ、あぁぁ! くそがァァ!! 知っているのかよ! お前もコレをしているのかよ!」


 錯乱した男は何度も何度も、クラミ目掛けて筒を向けては乾いた音を響かせるのだが、クラミは巨大な剣を盾にしてにじり寄る。


「お前らも手伝え――」


 切り札も通用せず、ひょろ長の男は藁にも縋るように弓を持つ二人の男に振り向く。

 そこには、二匹の(オーガ)が突っ立っている。それぞれが男の生首を手に持って。


「クソが、クソが、クソが! 魔獣の使役が解けたのガァァっァ!」


 (オーガ)は、悪態をつくひょろ長の男の肩に爪を食い込ませて持ち上げる。もう一匹の(オーガ)は生首を投げ捨てて、ソフィアに手を伸ばす。


「んんんー! ッツ!?」


 足下にはポタポタと、ひょろ長の男の血が滴れ落ち、身動きが取れないソフィアは身をよじり、何とか逃げようと試みるのだが、そんなことを(オーガ)が許すはずもなく――。

 

「汚い手で人のモノに触るなよなぁぁぁ!」


 嫉妬の炎に身を焦がすクラミは叫びながら森を駆け抜け、(オーガ)がソフィアを触れるよりも早く剣を横薙ぎに振るう。

 二匹の(オーガ)の体を真っ二つに裂き、ひょろ長の男の両足を切り落とす。

 叫び声を上げてのたうち回る男を無視して、クラミはソフィアの元に歩み寄り、猿轡を外すと頬を撫でながら微笑む。


「大丈夫ですか?」


 青い血で身を汚したソフィアは無言で肯くのであった。

今月中に終わらせるはずが(゜д゜)

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