5-4 ②
本日最後の8/7回目の更新でございます。
「で、これは一体なんのつもりなの?」
体の自由を奪われ、複数の男達に取り囲まれている状況にもかかわらず、ソフィアは強気な態度を崩さない。
幼少の頃は男に怯えて過ごして彼女だが、一人で生き抜くためには他人に弱みを見せる事はせず、逆に相手を威嚇するように攻撃的になる。
それが、彼女が出した答えなのだ。
「随分とまぁ、余裕ですね? 自分の置かれた状況が分からないのですか?」
ひょろ長い男はソフィアの態度が気に入らず、苛立ちを含んだ言葉を叩き付ける。
それを隣に立つ丸い男が咎めながら言う。
「大事な商品なんだから、な?」
「商品?」
「ああ、どっかの貴族様がエライオンの街の有名な女冒険者を欲しているらしくてな」
下卑た表情で口を開く丸い男に、ソフィアが睨み付けながら言う。
「こんな事が、人身売買が許されるとでも思っているの」
その言葉を聞くと、丸い男とひょろ長の男は顔を見合わせて笑い出す。
「あはは、許されるに決まっている!」
「私達のバックにコミティス公爵家が付いているんだから。まぁ、詳しいことはお前を買い取ってくれる、公爵家の人間に聞いてみて下さい」
「ベッド上でな!」
二人の会話を聞いてた後ろにいる武装した男達は思わず笑い声を上げるのだが、ソフィアは別のことを考える。
昨日リトスから聞いた、エライオンの街に出入りする商人や近隣の村で畑仕事をしている娘などが襲われたり、攫われたりする事件のことを。
犯人はきっとコイツらで、丸い男の能力『魔獣使い』の力で、後ろに佇む鬼の様にモンスターを操って犯行におよんだのではないか?
そう推測するソフィアは口を開く。
「ここ最近の商人の襲撃や、娘が攫われる事件も――お前達か」
「ええそうです! 本当は貴女一人だけだったんだが、商人のポリティスがそれでは勿体ない。だとさ」
「自分の思い通りにできる女が売られていれば、そりゃあ買いたくなるってもんだからな」
「ホント、男ってクズばかりね」
吐き捨てる様に呟くソフィアの言葉を聞き取った二人は、激高しながら近づいてきた。
「売る前に、ここにいる私達で商品の点検でもしましょうか?」
自分の方が圧倒的に有利なんだぞ! と、思わせる様にひょろ長い男が口を開くが、ソフィアは動じることない。それどころか余裕の笑みを見せて言う。
「できるものなら……やってみろよ!」
「お前……ッ!」
「ふふ、貴族様が欲しがる体をお前達がどうにかできるのか? 私の口は軽いぞ」
自分が大切な商品なら相手は乱暴な真似はできないし、取引相手が貴族ならなおさらだ。そう判断したソフィアは強気の態度を崩さない。
いくら凸凹コンビがAランクの冒険者とは言え、相手が貴族なら分が悪すぎる。
それに貴族が女を欲している理由を男として察すると、ソフィアの告げ口次第では自分たちの立場がどうなる分からない。
歯がみする男達を見てソフィアは興味なさそうに空を仰ぐ。
先ほどまで一緒にいたクラミは無事だろうか? 今ここに居ないから無事なんだろうけど、ちゃんと一人で森から帰れるだろうか? それよりも居なくなった自分を探して遭難するなんて事になったら――。
そちらの方が心配になるソフィアの思いが通じたのか、遠くから聞き慣れた声が木霊する。
「…………フィア…………ソフィア…………」
その声が聞こえたのはソフィアだけではなく、周りの男達にも無論聞こえていた。
丸い男はニヤニヤと笑いながらソフィアの肩に手を置く。
「相棒が探しているぞ? 助けを呼ばないのか」
「とりあえず、彼女を使って憂さ晴らしでもしますか。いいですか皆さん!」
「クソッ! この卑怯……モガ!」
騒ぐソフィアが余計な事を言わないように、口の中に布を詰め込む。
今までの余裕のある態度から一変した彼女を見て、ひょろ長い男は満足げに肯き、段々と近づいてくる声の主を捉えるために、周りの男達に檄を飛ばした。
(クラミ、来ちゃ駄目!)
何とかこの危機をクラミに伝えたいのだが、声を出すことができ無い。
この何もできない状況の最中、昔の事を――母親に覆い被さる男の事を思い出せば、ソフィア表情は絶望に染まる。
そんな彼女の状態を知らないクラミは、「ソフィアー、ソフィアー」と連呼しながら近づいてきて、等々その姿を現した。
「ああ、本当にソフィアさんがいた! さすが神様って言ったところか」
縛られているソフィアを見ても慌て様子を見せないクラミに、ソフィアは訝しげな視線を送る。
「おいおい、お嬢ちゃん。こんな所を一人で歩いてきたら危ないぞ?」
丸い男がにやつきながら話しかけてくるが、クラミは無視して一歩一歩近づいてくる。
「何がしたいのか分かりませんが、取敢えず確保しましょう。彼女を捕まえた人が最初って事で」
ひょろ長の男の言葉を聞き、二人の男がすかさずクラミに駆け寄ってくる。
クラミはゆっくりと歩きながら魔法の袋から武器を取り出す。右手に棍棒を持ち、左手には鉈を。
二人の男が間近に迫ると、鉈と棍棒を高々と天にかざして、一気にったきつけた。
鉈をぶつけられた男の頭は原形をとどめることなく潰され、胴体は歪な形で二つに分かれる。
棍棒をぶつけられた方はもっと酷い。もはやソレが人間だったと呼べるものが一切無い。男だった者がいた場所にはクレータができており、それほどまでの力を込めて叩き付けたのだ。
余りの陰惨さ出来事に言葉をなくす男達。彼らに代わってクラミが口を開く。
「待ってて下さいねソフィア。直ぐに全部殺すから」
そう言うと口元を三日月のように引き攣らせてて笑うクラミであった。
おやすみなさい。