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5-3

本日5/7回目の更新でございます。

 エライオンの街から森へとやって来たクラミとソフィア。

 二人は今、前回(オーガ)の襲撃を受けた開けた場所で休憩していた。


「相変わらず……モンスターが出ませんね…………ンク」

「そうね、普段なら嬉しいんだけど……今は試し切りしたいな」


 鉈を足下に置き、切り株に腰掛けるクラミは革袋の水筒で喉を潤し、辺りを警戒するソフィアは(オーガ)の骨で作った短剣で幾度となく空を切る。


「まだまだ余裕そうだねクラミ」

「そう言えば前に比べて余り疲れてませんね」 


 落ちてくる葉っぱを何度も切り裂くソフィアの動きを驚嘆の眼を見開いて見ていると、彼女は背中を見せたまま尋ねくる。その言葉を聞き改めて自分の体力がまだ余裕がある事に気が付くクラミ。

 

 それもその筈、ここ最近のクラミは『将 軍』(ストラティゴス)が使っていた規格外の棍棒や全長一メートルの鉈を魔法の袋に入れて仕事をしていた。

 それらの重さを全身で受け止めている内にどんどん筋力が付いたいったのだ。

 

 筋肉は大きく別けて二つある。

 速筋線維(そっきんせんい)遅筋線維(ちきんせんい)だ。

 

 速筋線維(そっきんせんい)は見た目が白いことから白筋とも呼ばれ、瞬間的な力とスピードを発揮するが、持久力に難があり、直ぐに疲れてしまう。

 ちなみにこの筋肉はダンベルトレーニングなどで負荷を与えると肥大化していく。

 要するにマッチョになるのだ。


 逆に遅筋線維(ちきんせんい)は瞬発力に難がある代わりに、持久力にすぐれている。

 こちらは見た目が赤いことから赤筋とも呼ばれ、普段の生活ではこの筋肉が使われており、鍛えても余り肥大化しない。マラソン選手が良い例だ。

 

 筋肉の話しはともかく、今のクラミの膂力は『 王 』(ヴァスィリャス)が使っていた大剣を軽々と片手で持ち上げる事ができ、険しい道も余裕で歩けるほどスタミナも成長している。見た目は加護のお陰で変わらないのだが。


 しかし、その事に気付いていないクラミは「森に馴れた感じです!」と、的外れなことをソフィアに言うのである。

 

「そろそろ行こうか?」

「こっちは大丈夫です」


 葉っぱでは物足りない。と、言いたげな顔をしてるソフィアが尋ねてきたので、鉈を手に取り立ち上がるクラミ。森の奥深くを見つめて鼻をひくつかせるが、特に異臭はしない。

 その様子を見ていたソフィアは短剣を握り締めて腰を落として聞く。


「何か……居るの?」

「あ、いえ……あの時の奴が居るかなと、思って……」


 ばつの悪そうな顔をするクラミを見て、ソフィアは臨戦態勢を解くが警戒心は残したまま言う。


「同じ場所に一週間以上どとまるとは考えにくいかな?」

「それもそうですね……」

「まぁ、でも……ここから先が本番だから、警戒するに越したこはないよ」


 ソフィアの言葉を聞き、大きく息を吸い込むクラミ。緊張を解すように深呼吸し、右手に持つ鉈を握り締める。

 

「もし何か異変があれば直ぐに言うこと。それじゃ、いくよ」


 薄暗い森の道なき道を歩いて行くソフィア。その進行スピードは遅い。まだ森に馴れてないであろうクラミの事を考えているが、単純に歩きづらいと言う理由でもある。

 邪魔な枝やツタなどを短剣で打ち払い、鬱蒼と生える草に足を絡まれない様に踏みつけて、ソフィアは軽く地ならしをしながら歩く。その為、後を歩くクラミは比較的楽に進むことができる。

 

 ゆっくりと、安全を確保しながら歩き続ける事一時間。段々と勾配がきつくなってくるにつれて、太い木から細い木へと変わり、木々が生える間隔が広がってくる。

 そのおかげで真上から太陽の日が差し込み、森全体が明るくなってきた。

 

「この辺りで探すよ」


 十メートルほどの急傾斜が目の前に迫るとソフィアは足を止めて、後ろを振り向いて言う。


「……は、はい。ここからが本番で……帰りも……何でもないです」


 両膝に手を乗せて腰を折るラミは、荒い呼吸を落ち着かせるため深呼吸をしながら憂鬱な気分になる。

 それを見たソフィアは、苦笑しながらアイテムボックスから水筒を取り出しクラミに手渡す。「あ、ありがとうございまう」と、噛みながらお礼を言い、喉を潤し呼吸が落ち着くと、クラミは自分の外見を――買ったばかりの紅い外套を見て落ち込む。


 ソフィアが打ち払った枝にぶつかったり、足に絡みつく草やツタのせいで何度か転ぶが、外套に傷は付いてない。ただ葉っぱなどの汚れが付いていた。それも酷く沢山。

 クラミは外套を脱ぐと、大きく振りかぶって自分の足に打ち付けて落ち葉などを払いのける。


「こら、静かに」


 静かな森の中を、外套が叩かれる音が三回ほど木霊したあたりで、ソフィアはクラミの背後に素早く回ると、後頭部にチョップを叩き付けた。

 不意の衝撃に、思わず外套を地面に落とし、頭を押さえて蹲るクラミ。彼女は涙目で落ち葉が更に付着した外套を手に取り立ち上がる。


「いきなり叩かなくても……」

「装備が汚れるのは当たり前。そんな事で魔物を呼ぶ真似をしない。解った?」


 後頭部を摩りながらクラミが抗議するも、ソフィアは人差し指で彼女の鼻を突っつきながら正論を吐く。

 

「注意が足りませんでした……すいません」 

 

 そう言いながら頭を下げ、汚れた外套を身に付けるクラミを見てソフィアが近づき、襟元周辺の落ち葉を指で摘まんで取り除く。

 

「どうせ汚れるから今はこんなものね。仕事が終わったら一緒に綺麗にしよっか?」

「あの……なんか、本当にすいません」 


 大人な対応をするソフィアを見て、クラミは申し訳ない気持ちで一杯になり頭を再度下げる。その頭をソフィアは優しく撫でて「ほら、子供達にお土産の山菜も採らないといけないから、早く薬草を探すよ」と、言い残し急勾配を登っていく。

 軽々と登っていくソフィアを見て、慌てるクラミは四つん這いで急勾配をのっそりと登る。


 五メートルほどの登った辺りでソフィアは背中を細めの木にもたれ掛かりながら、辺りを警戒していた。

 そんな彼女の元にようやく辿り着いたクラミは、おぼつかない足取りで近くの木にしがみつき、下を見て息を飲む。


「ほら、この辺に生えている草が薬草だよ。採った、採った」

 

 足下に生える草を千切って見せるソフィア。余裕のある彼女の真似をして、クラミは左腕を木に巻き付けると様に絡めて、震える足を折り曲げて薬草を採取する。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫ですよ……それより採った薬草はどうすれば?」

「この箱に入れてね」


 クラミの言葉を聞き、ソフィアはアイテムボックスから青いモンスターコアが付いた箱を取り出す。大きさは内容量三十ℓほどの小さめのキャリーバッグほどだ。

 中身が空っぽで軽いからなのか、その箱を持つソフィアの腕は前後に振られ「いくよー」と、クラミに話しかける。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 思わず大きな声を出すクラミは、「しまった」と、言わんばかりに顔を顰めてて、片手で集めた薬草を手放し口元を押さえる。

 余裕のない彼女を見て、ソフィアは軽々と急斜面を渡り歩き、クラミがしがみつく木の根元に箱を寝かせて置く。


「あ、ありがとうございます。それと、この箱って何ですか?」

「これは薬草とか、鮮度を保つための箱だよ。ここの空いている窪みにコアを填め込めば、冷気が生まれて鮮度が保たれるわけだよ」


 ソフィアが空いている窪みにコアを填め込むと青いコアが光りだし、蓋を開けると冷やかな空気がこぼれてくる。

 その箱の中に先ほど採った薬草を入れるクラミ。説明を終えたソフィアは元の場所に戻り、薬草採取に精を出す。

 

 黙々と採取しては次の木を目指して登り、あらかた採り終えると、また次の木を目指して登っていく。

 気が付くと何時のまにか急勾配を登りきっており、そこから先は木々が密集するように生えているために薄暗い。日の光がギリギリ差し込む境界線でクラミはじんじんと痛む腰を摩り、そんな彼女の元にソフィアが歩み寄る。

 ソフィアはクラミの足下に置かれた箱をアイテムボックスに仕舞い、代わりに水筒と干し肉を差しだしながら言う。


「お疲れ様。それじゃ、山菜を探しながら帰ろうか?」

「そうですね―ソフィア!」

  

 静かな森にクラミの鋭い声が木霊する。

 

 水筒を手放したクラミは両手で鉈を握り締めて森の奥を睨み付け、ソフィアも両手に短剣を持ち腰を落とす。

 クラミとソフィアが気付いたように、森の奥にいる何かも二人を捕捉した証拠に複数の雄叫びを上げる。

 段々と近づく足音と鼻につく臭い。緊張感が高まるにつれて口の中が乾き――無理矢理絞り出した唾液をゴクリと、クラミが飲み込むと同時に木々を揺らしながら三匹の(オーガ)が飛び出してきた。


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