5-2 ③
本日4/7回目の更新でございます。
紅い外套を羽織るクラミとソフィアの二人は今、西区のメインストリートを歩いている。
鮮やかな色合いに興味を引かれた人達の視線が集まるのを実感しながら、クラミは呟く。
「みんな見てますね。流石、金貨三枚と銀貨八十枚しただけはあります」
「見た目が綺麗なのは分るけど……値段は関係無いでしょ?」
「まぁ、そうでけど……大変でしたね」
「ええ。アルも困惑していたわね」
沁沁と語るクラミに同意するソフィア。
先ほどまで革専門店の店主とやり取りを思い出せば、クラミは力無くため息を漏らす。
心優しいアルも店主の豹変した姿とクラミとソフィアの交渉を目の当たりにし、物陰に隠れてどん引きしていた。
そんな彼女は広場で別れる際に「ひ、非常に……個性的な――方でしたね」と、引き攣った顔で言っていたのが印象的だったな。と、思い出している内に、次の目的地が見えてきた。
「ソフィアは新しい武器を注文したんですよね?」
「うん。今度の武器なら鬼でも切り裂ける、筈だよ」
会話しながら見知った建物――鍛冶屋のスディラスに入っていく二人。
扉に取り付けたベルが鳴り響く店内にはお客の姿が見えず、クラミは(このお店、儲かってないのか?)等と、失礼なことを思いながら歩く。
「お! 嬢ちゃん達か、久しぶりだな」
頭に白いタオルを巻いた親父が暖簾を押しのけ、クラミとソフィアを見ると笑顔で挨拶してきた。
「依頼品はできている?」
「二人の分ばっちし出来ているぞ。まずはソフィアからだな、今から持ってくるから少し待って――いや、店の裏に出ててくれ」
そう言いながらカウンターの扉を開けて、親父は一人作業場へと向う。
親父の意図がよく分らない二人は取敢えず言われた通りにカウンター内に入り、作業場を通り抜けて裏口からお店外へと出る。
裏手の広場に出て最初に二人の目に入ったのは、無造作に置かれた大剣だ。
これはゴブリン・『 王 』が使っていた大剣で、柄の長さ一メートル、刃渡りに至っては三メートルという、ふざけた様な武器だが、鉄の精錬が未熟なため、全体的に黒ずんでいた。
しかし、目の前の大剣はクラミが知っている物とは違い、刃が銀色に輝いている。いるのだが、柄の部分が細い。
前の柄は両手を使っても届かないほど太かったのだが、今はクラミが片手で握れるほど細く、持ち上がればそのまま折れてしまいそうな印象だ。
クラミは大剣の元に歩み寄りると、柄を人差し指で突っつきながら言う。
「これって……失敗作ですかね?」
「失礼な、そんな訳あるか!」
後ろから怒鳴られ、クラミは毛を逆立てながら飛び上がり声の方へと向き直ると、親父が睨んでいた。
親父は大股で歩いてくると、両手に持つ包みをソフィアに押しつけ、クラミに言う。
「いいか、この柄に使っている物はだな、鉱山都市オリキオで取れる希少なアダマンタイト鉱石なんだよ!」
唾を巻き散らせながら叫ぶように説明する親父。そんな彼を見て狼狽えるクラミは、助けを求める視線をソフィアに向けるが、彼女は新しい武器を眺めており気付かない。
親父はよそ見するクラミの顔を両手で掴み語る。
「このアダマンタイトの特徴はな、軽いんだよ! 軽くて、恐ろしいほど頑丈なんだよ!
たとえ鉄の刃が砕けても、このアダマンタイトの真は絶対に折れないし、曲がらない!」
げんなりとした表情で親父の説明を聞くクラミは、先ほど自分が言った失言に後悔する。
革専門店の店主も、この親父も自分が作る装備に絶対の自信と誇りを持っており、それを貶められれば黙ってはいられない。まさに職人なのだ。たとえ変態でも職人なのだ――。
永遠と説明する親父を止めたのは武器を一通り眺め、試し切りまでしたソフィアだった。彼女は満足そうな笑顔で親父の頭を叩き、正気に戻す。
解放されたクラミはタオルで顔を拭き、親父から距離を取ると、歯を剥き出しにして威嚇する。
「そのな……すまんかった。まぁ、武器の説明はあんな感じだ」
冷静になった親父は頭を掻きながらクラミに詫びを入れる。
「この大剣が凄いのは分りましたが……それをこんな場所に放置していいのですか!?」
顔を汚された意趣返しのつもりでクラミが言うと、親父でなくソフィアが反応した。
「こんな大剣を持てるほどの実力があれば泥棒なんてしないし、もし盗んだとしても目立ちすぎるからね」
「…………」
「さ、受け取ったし、早く森に行きましょうか?」
まさかのソフィアの裏切りに、クラミは只黙って大剣を片手で持ち上げて魔法の袋に収納する。
それを見ていた親父は感嘆のため息を吐くと、腕を組み何度も肯く。
「……相変わらず……凄い。しかし、只の鉄ってのも……味気ない」
「親父さん! お会計要らないの?」
独り言を呟く親父にソフィアが尋ねてお会計を済ませると、クラミとソフィアの二人はやっと森へと目指して歩いて行くのであった。