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本日2/7回目の更新でございます。
「今日は別のお仕事するのですか……」
食堂を後にしたクラミとソフィアの二人はアルがお世話になっている孤児院へとやって来ており、今日の予定を彼女に伝えた。
ここ最近、年の近い同性と一緒に仕事をする喜びを感じていたアルは少し寂しそうに納得する。
それを見ていたクラミは、リトスやソフィアから弄られるのを避けるために予定を代えた事に対して罪悪感を覚えながら口を開く。
「その、お土産……お土産見つけてきますよ。山菜とか?」
自分で口にしながら首を傾げる。
今まで住んでいた地域に山や森など無く、テレビでしか山菜という物を知らないクラミは探りを入れるようにソフィアの顔を窺う。
「山菜のお土産を取れるかは、クラミの頑張り次第だね」
ソフィアの言葉を聞き、罪滅ぼしのために燃え上がるクラミはシャドーボクシングを行なうように素早くエア山菜を採る素振りを見せながら言う。
「頑張ります! 薬草も山菜も頑張って取ってきますよ」
「お怪我などしないように、気を付けてください」
訳の解らない行動をするクラミを見て、アルは苦笑を浮かべながら心配し、周りにいた子供の一人が彼女の真似をしながら騒ぐ。
騒ぐ子供を見て隣の子供も共鳴し合う様に同じ動作を行なえば、次第に周りにいた子供達は皆、クラミと同じ奇行を行ないながらやんちゃに暴れ出す。
それを見ていたおばちゃんシスターは手を二回打ち鳴らして言う。
「ほらほら、静かにしなさい。それと、クラミちゃんにソフィアさん、無理はしないようにね?」
微笑みながら騒ぐ子供達に優しく一喝を入れ、クラミとソフィアの二人には心配そうな顔を見せる。
「大丈夫ですよ。無理はしませんし、ソフィアも一緒ですから」
「ええ、お土産はともかく、怪我は無いように気を付けます」
クラミはどん! と、自分の胸を叩き、ソフィアは軽く頭を下げながら答えた。
「そうかい? それでも……本当に気を付けるんだよ」
「はい! それじゃ、そろそろ行きますか?」
「そうね、整備に出した武器や防具の受け取るもあるし」
「あ、途中までご一緒してもよろしいですか?」
談笑を切り上げクラミとソフィアが立ち上がると、慌ててアルも立ち上がり二人に尋ねる。
別段、断る理由も無いので了承すると、周りの子供達も「つれっててー」「いっしょにいきたー」「もっとあそぼー」と、騒ぎだし、おばちゃんシスターが雷を落とす。
その光景を苦笑しながら見ているクラミは「お土産に期待しとけよ」と、子供達に手を振りながら言い、その場を後にした。
南区にある孤児院から東区に向けて三人は歩く。真ん中にはクラミがおり、両脇にはソフィアとアルが挟み込む形だ。
三人で談笑しながら歩いていると、クラミが疑問を口にする。
「そう言えば、どこに向っているんですか?」
「うん? まずはクラミの新しい装備品を受け取りに行くよ」
「ここから近いんですか?」
「クラミも知っているお店だよ?」
ソフィアの言葉を聞きクラミの足が自然と止まる。彼女が知っている防具店は一件しか無く、その防具店の店主のことを思い出せば――。
苦虫を噛み潰した表情のクラミを見て、訝しげにアルが尋ねる。
「クラミさん、どうかしたのですか?」
首を傾げながら聞いてくる彼女を見て、(可愛いなぁ)と、現実逃避した感想を抱く。
「はは……何でも無い――じゃなくて、ソフィア! まずは、アルさんを送りましょうよ!」
無垢な彼女を、あの店主と会わせることに忌避感を覚えたクラミは慌てて行き先を変えるように促す。
「そうですか……」
が、アルは仲間はずれにされたと感じて、少し寂しげな表情になる。
「違うんです、今から行くお店に問題があるんですよ。ね、ソフィア!」
「別に平気でしょ? それより、アルが可哀想だよ。ね、クラミ!」
「あの、お邪魔になるのでしたら、その……遠慮しますが」
助けを求めるようにソフィアに話しを振れば、予想外の返しが来た事にクラミは焦り、二人のやり取りを見ていたアルは、触れれば割れてしましそうな笑顔を見せる。
その表情は卑怯だ。と、思いながらクラミはアルに言う。
「本当に碌でもない人と会うのですが……その、覚悟はいいですか?」
クラミの脅し文句を聞きアルは悩む。もし、ご一緒して迷惑を掛けてしまったら……。そう思えば今から一人、踵を返そうとするが、背後からソフィアの手がアルの両肩に置き、動きを封じるようにして言う。
「クラミが守れば良いじゃない」
悪戯っぽく笑うソフィアを見ながら、クラミの脳裏には、冷やかな視線を浴びて恍惚の笑みを浮かべる店主が「ありがとうございますぅぅぅ!」と、挨拶をする。
(あれから守るのか?)と、目を糸のように細めていると、アルは両手をお腹の前で組んでもじもじと身をよじっている。
クラミに守ってもらえると思えば、嬉しさと共に、恥ずかしさを感じているアルが口を開く。
「ご迷惑なら、ほんと――」
「――ります」
アルの言葉を遮るようにクラミがボソリと言葉を洩らす。
「へ?」
その声が聞こえなかったアルは訝しげにクラミを見ると、彼女は糸の様な目をかっと開き叫ぶ。
「守りますとも! さ、行きましょう、ソフィアにアルさん!」
急にテンションが上がったクラミに付いて行けないアルは、「は、はぃ~!」と、気の抜けた返事で同意する。が、彼女の後ろに居たソフィアは厳しい眼差しをクラミに向けて言う。
「どこ見ていたの?」
「アハハハ……さ、行きましょ! 薬草採取の時間が無くなりますよ!」
「やっぱり、大きな胸が好き――大好きなんだね」
呪詛を吐くようにポツリと洩らす言葉をあえて無視してクラミは歩き出し、自分の胸が話題になったことに対してアルは赤面する。
「ほんと……大好きだよね」
今のソフィアの顔を見るのが怖い。そう思えば、後ろから言葉のナイフが背中に突き刺さるのを我慢して、クラミは防具店を目指して歩く。