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5-1

本日、1/7回目の更新でございます。

 寝返りをしたくてもでき無い状態に、ストレスを感じたクラミは目を覚ます。

 微睡みの中、仰向けの状態から右に寝返りをうとうとするが、左腕が重い。

 違和感のある左腕を確認する為に、逆方向に体を捻るが、今度は右腕が動かず、覚醒しきってない頭は混乱に陥る。

 

 もぞもぞとクラミが体を動かせば「う……っん」と、熱い吐息が首筋に吹きかかる。

 反射的にその方向に首を動かせば、リトスが体を密着する形で腕にしがみついていた。

 この状況から昨晩の事をうっすらと思い出す。昨日は確かソフィアと一緒に眠っていた……。と、思い出して首を捻れば、ソフィアが腕を両手で掴みながら、丸くなっている。


 まさに両手に華の状態だが、両腕が動かせない

 改めて自分が動けない状態でいると解ると、次第に背中が痒くなってきた。

 痒くても腕が動かせない。

 仕方ないので、背中をベッドに擦り付ける様に動かせば、左腕に柔らかな感触が伝わってきた。

 大体何の感触か想像できるが、念の為クラミは柔らかい物を確認することに。


「不可抗力……腕が動かせないから……しかたない……な」


 リトスの胸に挟まっている腕を見つめながら、そう言い訳をする。

 寝ている相手に不埒な真似はでき無い。そう思えば、まだ背中は痒いが我慢することにしたクラミ。

 我慢すればするほど、痒みを意識してしう。

 少しでも動けば、色んな意味で幸せになれるが――理性を総動員して、反対のソフィアを見つめる。


 右腕には異常は無い。彼女の寂しい胸元なら致し方ない事だ。

 しかし、豊かな胸なら絶対にない――寂しい胸元ならではの事故がある。

 ソフィアのだぼ付いた襟元は無謀に開き、薄い胸故に色々と見えてしまう。


「これも……不可抗力……」


 右を見ても左を見ても天国な状況の最中、クラミは天井を見つめて瞼を閉じる。


「寝よ」


 ポツリと言葉を洩らし、高まる鼓動を押さえつけるように深呼吸する。

 どんなに落ち着こうと思えど、一度意識してしまえば中々に忘れられないものだ。

 静かな部屋に二人の美女の寝息が聞こえ、吐息が吹きかかる。

 目を閉じたせいで、余計に感じる肌の感触に、思い出す記憶。

 

 メイドが起しに来るまで、一人悶々としているクラミであった。




「それにしても、二人とも寝過ぎじゃないですか?」


 広い食堂の椅子に腰掛けるクラミは朝食に出された肉をナイフで切りながら、対面に座るリトスに話しかける。 

 

「色々とソフィアと話していたのよ」


 そう言いながらフォークに刺した野菜を頬張るリトスはソフィアに視線を向け、隣に座るクラミも肉を口に入れて見つめる。


「リトス様と一緒にお喋りして、夜更かししたから……」


 柔らかなパンを一口サイズに千切り、口に放り込んでクラミを見つめるソフィア。昨日のような緊張した態度ではなく、どこか打ち解けたようだ。

 そんな彼女の変化に気付いたクラミは、咀嚼していた物をゴクリと喉を鳴らし飲み込んで訝しげに聞く。


「何の話しをしていたんですか?」


 その問いに、リトスとソフィアの二人はお互いの顔を見合わせて、同時に口を開く。


「クラミのことよ」

「クラミのことだよ」


 一体全体、自分のどこに夜更かしするまで話す事があるのか? と、クラミはユニゾンする二人の声に首を傾げる。


「……どんなことを話していたんですか?」


 肉を切りながら尋ねるクラミに、リトスは微笑みながら言う。


「ここ一週間のクラミの話しを聞いていたわ」

「例えば、アルの胸を見ていたとか、胸を見比べられたとか、かな?」

「っえ!?」


 思わず肉を切るナイフの手が止まるクラミは間抜けな表情でソフィアを見ると、彼女は悪戯ぽっく笑っていた。

 錆び付いた扉のように重たい首を動かし、視線をリトスに向けると彼女も微笑んでおり、お茶を一口飲んで口を開く。


「大きいのが好きなの?」

「ちが! わない――じゃなくて……その」

「違うよねクラミ、好きじゃなくて、大好きなんだよね」


 二人掛かりで弄ってくるので、どう対応したらいいのか分からないクラミは、ナイフを皿に置き、オロオロと焦る。 

 それを見てリトスは口元を隠すように指を添えて笑い、ソフィアは無防備なクラミの脇腹を突っつきな笑う。


 和やかにクラミを弄りながら朝食を摂り終え、お茶を飲みながら食休みをする三人。

 リトスは優雅にお茶を飲み、ソフィアは高そうな陶器のカップを両手で持ちながらまじまじと見つめ、クラミはテーブルに『の』の字を書きながらいじけていた。

 お茶を飲みきったリトスはカップをテーブルに置き、苦笑しながらクラミに問いかける。


「クラミ、今日の予定は?」

「予定です……か」


 光を失った、弱々しい瞳をソフィアに向けるクラミ。

 その視線を受けたソフィアは、やりすぎたかな? と、少し反省するが、直ぐにクラミがアルと自分の胸を見比べた事を思い出せば――。


「アルと! 一緒に仕事だよね」


 アルの部分を強調して言う。

 すかさずリトスが「胸の大きな子ね」と、言うと、クラミは涙目を隠すように両手で顔を隠しながら肩を小刻みに震わせる。

 

「ふふ、どうしたのクラミ? お仕事が嫌なの? だったら……うちで働く?」


 テーブルに頬杖を付きながら妖艶な笑みを見せるリトスに、クラミは思わず唾を飲み込んで一瞬迷うが、直ぐさま断りを入れる。


「いえ――」


 断りを入れる前に気付く。もしここで断れば「やっぱり大きな胸の所に行くのね?」「アルの胸は大きいからね」等と茶化されるのでは? そう思えば言葉が続かない。

 目を糸のように細めて悩んでいると、リトスは先ほどは違ってニヤニヤと笑っている。 

 それを見て、彼女の行動に確信を持ったクラミは無理矢理話題を変える事に。


「――そう言えば! あ、アレですよね! 薬草採取……そうです! 薬草採取の依頼って、まだ終えてませんよね!」


 両手の平でテーブルを叩きながら立ち上がる必死なクラミを見て、リトスとソフィアはこれ以上彼女を弄るのは可哀想だと結論を出し、適当に相づちを打つ。


「そうだね、薬草採取にいこうか」

「頑張ってらっしゃい、二人とも」


 思惑通り話題が変わったことに、クラミは内心でニヤリと笑う。

 しかし、よほど嬉しかったのか心の内で隠しきれずにいて、表情に出てしまうが彼女は気付かない。

 リトスとソフィアは微笑ましくクラミを見つめていると、食堂のドアがノックされ執事が入ってきた。


「お嬢様、そろそろお時間でございます」

「そう、分かったわ」

「それじゃ、私達も薬草採取にいきますか。ソフィア! 薬草採取にいきましょう!」

「ちょっと待って、落ち着いて」


 上機嫌で立ったままのクラミが、ソフィアを急かして食堂を後にする。

 その二人の背中にリトスは苦笑しながら手を振り、執事は訝しげに首を傾けながら聞く。


「何かあったのですか?」

「何でもないのよ――それより」


 柔らかな雰囲気を打ち消し、目を細めて言う。


「兵の準備を急がせなさい」


 主の命令を受け、その場で頭を垂れる執事を横切ったリトスは一人執務室へと歩を進めていく。

 

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