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4-5 ③

「私、何か不味い事でも言ったのかな?」


 ベッドに腰掛けるソフィアは背中を反らしながら天井を見つめ、言葉も洩らす。


「ポリティスの名前を出した途端に急変したから、アイツの所為(せい)ですよ」


 椅子に腰掛け腕を組むクラミの発言に、ソフィアは「だよねー」と、言いながらベッドに仰向けで倒れ込む。

 適度に体が沈み込む感覚に思わず、心安の声を漏らす。


「自分の部屋で寝ないんですか?」

「だって、部屋もベッドも広すぎて落ち着かないし」


 この客室の間取りはソフィアが借りている宿の四倍ほど広い。クラミとソフィアにあてがわれた客室は、主に重要な来賓を歓待する為の場所なのだ。

 ちなみに今現在、二人が寛いでいる部屋は以前クラミがお世話になった部屋である。

 いくら来賓が居なかったとはいえ、身分の低い者がそう易々と泊まれる場所ではない。もっとも、身分の低い者が入れる場所でもないのだが。


「それよりソフィア、どうするんですか?」

「今はその話しは無しで!」


 依然として侍女になるかどうかの決心か付かないソフィアは、近くの枕を抱きしめ俯せになる。

 無防備に向けられるお尻から意識を逸らす様に、クラミはテーブルに置かれている水差しを手に取り、コップに視線を向けた。

 

「水、飲みますか?」

「のむ」

 

 両手で上体を持ち上げ、背中かを反らしながら起き上がるソフィア。ゆったりとした動作でベッドに腰掛け、クラミからコップを受け取り「こくり、こくり」と、小さな音を立てながら喉を潤す。

 飲み終わったコップをクラミに返すと、またベッドに仰向けで倒れ込む。


「クラミ……侍女になるのが、賢い(・・)選択かな?」

「どうなんでしょうかね……。そもそも、ソフィアはリトス様の下で働くのが嫌なんですか?」

「嫌じゃないけど、不安なんだよね」


 教養のない自分が貴族の――それも、ブレ家当主の身の回りの世話をするなんて。そう考えれば、首を縦に振れない。

 今の自由気ままな冒険者暮らしは楽でいいが、将来のことを考えれば侍女になるべきだ。

 しかし――けれど――でも――やっぱり――悶々と悩み続けるソフィアは、重いため息を吐く。


「リトス様は本当にいい人ですよ」


 一人で百面相をしているソフィアを見ていたクラミは、苦笑しながら言う。

 その言葉を聞いたソフィアは両足を持ち上げて、床に振り下ろし、その反動を利用して起き上がる。


「だったら何でクラミは侍女をやらないの?」


 開いた股の間に両手を置き、身を乗り出したソフィアが聞いてきた。

 もし、彼女の胸がもう少し豊かであれば、両腕に挟まれ大変な事になっていたかも。等と見当違いなことを考えるクラミ。

 そんな彼女の不埒な視線に気付くソフィアは、眉を顰めて尋ねる。


「ク・ラ・ミ・は、なんで侍女をやらないの!」


 真剣な話題の最中に茶化されたと感じたソフィアの語気は荒い。

 否が応でもなく、彼女の機嫌が悪くなってきてることを察知したクラミは焦りながら答える。


「お、俺は、やりたいことがあるので、このまま冒険者を続けたいんですよ」

「クラミって時々口調がおかしくなるよね。それに、やりたい事ってなにかな?」

「え……っと。ひ、秘密かな?」


 まさか、自分の玉と棒を探すために冒険者を続けるなんて言えないクラミは頬を引き攣らせ、左目を閉じて、右手の人差し指を口元にあてる。

 動揺の余り、訳の解らないポーズを取るクラミに、ソフィアは冷やかな視線を向けて言う。


「別に、いいけどね」

 

 ふて腐れたように言葉を洩らし、クラミに背を向ける形でベッドに横になる。

 枕を抱きしめるソフィアは大きな窓を見つめ、ため息を漏らす。うっすらと窓に映るクラミは困った表情をして頬を人差し指で掻いていた。

 それを見ていたソフィアは無言で背を向けたまま端により、すこし体を捻り空いたスペースを叩く。

 

「早く寝ないの?」

「そうですね……」


 窓に映るクラミは椅子の肘掛けに手を置き立ち上がり、ベッドの端に腰掛けて横になる。

 ソフィアと間には人、一人分の以上のスペースがあり、彼女はクラミの方向に向き直ると、無言でベッドを叩く。

 怖ず怖ずと這いずるクラミは、シーツに皺を付けながら近づく。


「言えないことなの?」

「言えないことです」


 吐息が掛る距離にいるクラミに、枕を抱きしめながら尋ねてくる。

 それに対してクラミは仰向けでお腹の上で手を組み、目を瞑りながら素っ気なく返す。

 普段は勝ち気な少女ソフィアが見せる、弱気な姿を見たクラミの胸は高まる。

 コレがギャップ萌えかな? と、思いつつも、顔には出さないようにクールに振る舞う。

 

「…………」

「…………」


 あれからソフィアは言葉を発せず、只黙ってクラミの横顔を見つめていた。

 その視線に気付かないクラミは、段々と忍び寄る睡魔の手に掴まり、深い眠りへと誘われる。

 規則正しく胸を膨らませては、萎ませるクラミの横に誰かが座ってきた。


「……クラミは…………眠った……の?」

「……リトス……様……眠った……みたい……です」


 片腕を掴まれながら耳元で二人が会話をしており、その内容が気になるクラミだが、眠気には敵わずそのまま意識を手放した。


何時も読んで頂きありがとうございます。

本当はこの話を4-5 ②の一部だったのですが、あの雰囲気を壊さないように別々にしました。

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