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1-6

  

 揺られる馬車の中で頬を朱に染めたリトスに、撓垂れ掛かるクラミ。

 リトスはクラミの肩に手を回し、艶のある黒髪を撫でる。空いた手でクラミの手の甲を察すたり、指と指を絡ませ握ったりして遊ぶ。

 

(細い指ね。それにぷにぷに。私の手とは全然違うのね)

 

 幼少の頃より剣を握り振り回していたリトス。そのせいで掌には幾つのもマメができては潰れ、ゴツゴツとしていて、とても貴族のご令女の手には見えない。

 

 しかし、その御蔭で両親の敵討を出来たのだから後悔は無い。無いけれども女の子らしく、ぷにぷにとしている手が羨ましくもあり、クラミが魅せた先ほどの痴態に興奮冷めやらず、触っていた。

 

「……ん……リト……ス……様?」

「おはよ、クラミ」

 

 目を覚ますクラミは、上目遣いにリトスを見る。

 そして先ほどの痴態を思い出し全身を朱く染め、恥ずかしそうに顔を伏す。

 そんなクラミの火照る体を抱きしめ、その熱が自リトスにも伝染ったかのように、体の芯を熱くさせる。

 クラミは抱きしめられた事により、アタフタとし、離れようとすがそれを許さないリトス。

 

「あの……すいません。すぐにどきますので」

「いいのよクラミ。それよりも汗をかいてるのね」

 

 リトスが抱きしめているせいか、馬車の中が暑かったのか、少し汗をかいてるクラミの為に、握っていた手を外して何も無い空間から30㎝四方の箱を取り出しす。その中から白いタオルを取り、クラミの汗を押すように優しく拭いていく。


 クラミは、先程も気になったその箱について聞いてみる。

 

「あのリトス様、その箱って何ですか?」

「箱って、このアイテムボックスの事?」

 

 微笑みながら、アイテムボックスを取り出す。

 

「アイテムボックスですか? 物を収納する……ま……魔法ですか?」

「ええ。行商人や冒険者、旅をする時に必須の魔法ね」

「小さな箱なのですが、何でもはいるんですか?」

「見た目は小さいな箱だけど、生き物以外なら中の容量にあった分だけ大きさ重さ問わず入るのよ。魔力を込めれば込めた分だけ中の容量が増えるの。けれど魔力を込めて24時間以内に同じ量か、それ以上込めないと中のスペースが最小になり、中身を外に放出してしまうの。沢山の物を入れて行動中にモンスターに襲われて、撃退するために魔力消費しすぎてアイテムボックスに魔力を回せなくなると……悲惨よね」

 

 アイテムボックスの能力は分かったが、そもそも、その箱自体が気になるクラミ。


「そもそも、その箱何処から出したんですか?」

「この箱自体が、魔法陣なのよ。つまり箱の形をした魔法陣を展開して自分専用の異空間に物を入れてるの」

「魔法……陣ですか?」

「知らないのかしら? クラミは魔法使えないの? 肉体強化系の魔法を使っていたみたいだけど? 確かに、強化系なら、魔法陣を展開せずに直接魔力を――」

 

 アイテムボックスと言う魔法をも見て興味を持つが、それよりも自分自身が魔法を使っていた事に驚愕し、納得する。

 この華奢な体でゴブリン相手に戦えてたのは、肉体強化系説いう文字道理の魔法のおかげだったのかと。

 そして、肉体強化系魔法が使えるなら、アイテムボックスや、その他魔法が使えるでは? と一つこの世界でやってみたいことが出来た。―――魔法を覚える。

 早速、魔法の習得について恐る恐る教えて貰う。

 

「リトス様。私もアイテムボックスを使えるようになりますか。魔法を使った事が無いんですが?」 

「今すぐには無理だけど、私の街に有るギルドに、アイテムボックスといった他の魔法も教えてくれる場所があるから、大丈夫よクラミ」

 

 その答えに喜ぶクラミだが、街に行っても知人は居ないし、お金も住む家もない。

 ―――働かなきゃ! 魔法よりもまずは、目先の生活が大事である。その事も聞いてみる。 

 

「リトス様の街で何か仕事ってありますか? 誰にでもできる様な仕事とか」

「仕事……ね」

 

 少し考えるリトス。クラミの出来そうな仕事といえば冒険者という仕事が合う。いや、それしか無いのかもしれない。

 よそ者がいきなり違う土地に畑なんて土地持てないし、商売するにしても場所の確保だってままならない。


 その点冒険者は、街の外に出てモンスターを狩ったり、素材を取りに行ったり、街の中で雑用など、その身一つで出来る職業なのだ。だが、モンスターを狩ったりする職業の為厳つい男が多いし、中には下衆な事をしでかす奴もいる。

 

(私のクラミには、冒険者になんてなって欲しくない! けど……)

 

 いつの間にかクラミは、リトスの物になっており(リトスの中では)、話し方も崩れてきている。

 リトスのクラミに対する思いは恋愛感情ではなく、只、甘えたい気持ちである。小さい子が親に抱き付くことで安心するように、クラミに抱きつく事で安らぎを感じていたのだ。

 

 そのクラミに嫌われたくない。その思いで、冒険者の事を渋々話した。


「リトス様、冒険者の仕事にモンスター狩りがあるんですが、倒せばお金が貰えるですか? 誰がそのお金をだすんですか?」

「モンスターを倒すだけじゃダメなのよクラミ。倒した後にモンスターの体内にある魔力を生み出す石、モンスターコアを抜き取ってそれを街の領主に、ここでは私に売ってお金を稼ぐの。けど直接私に売るのではなく、間に冒険者ギルドを挟んで行っているの」

「モンスターコアですか? ゴブリンにもあるんですか?」

「もちろんゴブリンにも有るわよ。そういえばクラミ、モンスターコア抜き取ってなかったわね。ゴブリンのモンスターコア一個で、銅貨25枚もするのよ」


 いきなり銅貨25枚と言われてもお金の基準が解らず、生返事で返すクラミ。

 因みに、街の平民(畑仕事)の一日の平均収入は、銅貨50枚。ゴブリンを2体倒せれば、一日分の稼ぎになる。 


「そうなんですか? 所でモンスターコアって何に使うんですか?」

「それは、魔道具の燃料ににするためよ」

「魔道具? ですか」

「…………クラミ、魔道具を知らないのかしら?」

「すいません」

「気にしないで。魔道具っていうのは、モンスターコアから魔力を吸い魔法を発動させるの。私の街には水を生み出す魔道具を設置してあるわね。ゴブリンのコアで大体水10リットルを生み出すわ。

 個人でも魔道具を持つことはできるけど、水の魔道具だけは領主か、領主が認めた場所以外に設置、所持したらいけなの。最悪死刑ね」 

 

 水の魔道具以外にも、モンスターコアを冒険者が個人で販売するのも最悪死刑になる。コアの価格を安定させ満遍なく街の住民に売るため、領主買い取り後、在庫を管理し、固定価格で販売するのだ。例外的に、冒険者個人が使うならその限りでは無い、他にも例外はあるが、割愛。

 

「クラミ?」

 

 リトスの話が長くなってか、それとも今日一日で色々あり疲れたからなのか、クラミは船を漕ぐ様に体を揺らしていた。

 それを見て自分の膝にクラミの頭にを置き、窓の景色を見る。

 

「この景色を見せたかったのに……」

 

 そこは、緑の草原から一変し、小さな花が咲き乱れる黄色の絨毯が広がり、段々と落ちていく日差しにやかれ、赤く彩りを変えていく。

 そして、その先には街が見える。


 ここはすでにリトス・ブレ・エライオンの治める領地。特産品は、辺り一面の小さな黄色の花。菜の花だ。

 クラミの頭を撫でながら、リトスは静かに歓迎する。


「豊かさと快活と小さな幸せを込めて、私の街エライオンへようこそ」


 クラミの頬に唇をそえる。

 

 

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