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ギルドを後にした二人は酒場を目指して歩く。
仲の良いはずの二人には会話はない。未だ腹の虫が収らないのかソフィアは黙り込んだまま歩き、その後ろで眉間に皺をよせ、難しい顔をしたクラミが悩んでいた。
ギルドで護衛依頼の危険性を聞いたので、ポリティスの露骨な勧誘に疑いを持つのは分かる。分かるのだが、いきなり短剣を取り出すのはどうなのだろうか?
もしソフィアが言っていた例え話の通り、ポリティスが卑怯な手を目論んでいたとしても、流石に人の目があるギルドで事を及ぶことはない。なら会話で――そう感じるのは、法治国家で色々なものに守られて生きてきた温い考え方なのか? と、クラミは思う。
クラミは昨日の事を思い出しながらソフィアの背中を見つめる。
お互いに生まれたままの姿で、肌の温もりを感じた――ではなく、早朝のギルドで凸凹コンビの冒険者と揉めたときも、短剣を取り出していた。
やはり、過剰防衛ではないのでないか?
それとも、過剰防衛にならざるお得ない事情でもあるのか?
ギルドマスターと仲が悪い事とも関係しているのか?
などと悶々と為ていると、不意にソフィアが振りかえる。
「さっきから、何を唸っているの?」
「え……っと」
人のプライベートな事を聞いて良いのか悩むクラミ。
ただでさえ機嫌が悪いのに、これで地雷でも踏んだとしたら、今後の生活に支障が出そうだ。主に、寝床の関係で。
「何でもないです」
最も、寝床よりもソフィとの関係にヒビが入る方が怖い。
怖いし、自分の本当の性別、男である事を隠したまま聞くのはフェアではない。
そう思えば、つい聞きたい事を濁してしまう。
まだまだ子供のクラミ――元い、青さの抜けない善十郎には、難しい話しである。
そんなクラミに、ソフィアは首を傾げながら言う。
「ほら、酒場に着いたけど……大丈夫?」
「大丈夫です!」
悶々とした悩みを元気な声と共に吐き出し、クラミはとりあえずギルドで受けた依頼に意識を切り替える。
「…………?」
意識を切り替えて、建物をよく見ると、どこかでみた覚えがあった。
しかし、思い出せない。建物の周りをよく見ると、同じ建物が並んでいる。そのため既視感を覚えたのであろう。と、結論を出し、ソフィアと一緒にお店に入る。
店内を見渡すクラミは首を傾げた。店の中は四人掛けのテーブルが六卓、L字型のカウンターの前に椅子が五脚。総座席数が二十九席もある。
やはりどこかで見覚えがある既視感と、嫌な思い出が込み上げてくる感覚。
お店の入り口で佇むクラミに、ソフィアが心配そうに話し掛けると同時に、店の奥から声が聞こえてくる。
「申し訳御座いません。ただいま準備中でし……っげ!」
「あ!」
白のシャツに黒のベストを着た老紳士が、潰れた蛙のような声で唸っていた。