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4-2

 太った男は愛想良く笑いながら、クラミとソフィアに話しかける。 

 興味が無いのかソフィアはチラリと彼を一瞥すると、直ぐさま受付嬢の方向に視線を戻して言う。


「クラミと私、誰に護衛依頼の指名が来ているのか知らないけど、お断りよ」

「畏まりました」


 ソフィアがきっぱりと依頼を断ると、受付嬢は引き留めたりせずに、直ぐさま受理する。

 そんな彼女達の行動を見ていた太った男は笑顔で引き留める。心なしか、その頬は少し引き攣っているようだ。


「まぁ、まぁ~。まずは私の話しを聞きませんか? 私は王都でコミティス公爵家ご用達の商人をしております、ポリティと申します」


 自慢げに語りながら懐から黒い筒を取り出し、中に入っていた紙を自慢げに見せ付けてきた。

 紙にはこの世界の文字で『コミティス公爵家 御用達商人ポリティス』と書かれており、そのバックにはでかでかと赤いインクで三つの流れ星の判が押されている。

 

「そうなんだ。それじゃこの依頼の受付をお願い」

 

 ポリティスという商人を無視して、ソフィアは先ほどの酒場で働く為の依頼書を指で叩く。

 受付嬢は笑顔で「承りました」と、言ったところで再度ポリティスが話しに割り込んでくる。


「良いですか、ワ・タ・シ・は、公爵家ご用達商人なんですよ? 護衛報酬も弾みますよ」


 愛想良く笑顔で話しかけるのだが、その態度はどう見ても上から目線で、二人の事を見下していた。

 これまで鼻を押さえて口を閉ざしていたクラミの目元は細まり、今にも男に殴り掛かりそうだ。

 そんな剣呑な雰囲気を察してのか、受付所が割り込んでくる。


「確かに、その星降る紋章はコミティス公爵家の家紋でございます。

 ですが、お二人は依頼はお断りになってので――」

「下っ端が出しゃばるんじゃありませんよ」


 笑顔を崩さずに受付嬢に食ってかかるポリティス。

 冒険者の中には荒くれ者も居て、それらを相手にする受付嬢にとってポリティスの一言はたいしたことない。

 ないのだが、それを見ていたクラミは我慢の限界に達したのか、一歩前に出て、ポリティスを睨み付ける。


「お前、いい加減に――」

「そろそろ黙ろうか?」


 ドスを聞かせた声で威嚇するクラミよりも先に、ソフィアがアイテムボックスから短剣を取り出して、ポリティスに向き直る。

 

「な、なんの真似ですか!? 貴女、自分が何しようとしているのか解っているんですか!?」

「それは、こっちの台詞でしょ? 何で私達が見知らぬ奴の護衛依頼を受けないといけないの?」

「ですから、私は公爵家ご用達の――」

「王都から来たなら、その時の護衛に依頼すれば良いでしょ?」

「彼らは別の依頼を受けるとかで――」

「普通の護衛依頼は往復で受けるものでしょ?」

「少々、食い違いがありまして…………」

「はぁ~~」


 一歩前にでたクラミは見せ場を全てソフィアに奪われ、少し猫背気味に二人を見つめている。

 受付カウンターに座る受付嬢は「普通の護衛依頼は往復で受けるものでしょ?」の辺りで、何度も肯いて、内心(ざまあみろ!)と喜んでいた。


 ため息を漏らしたソフィアは、クラミに視線を向けて言う。


「いいクラミ、護衛依頼は基本、受けちゃ駄目なの」

 

 その発言にクラミは首を傾げる。


「例えば、コイツの護衛依頼を受けたとして、道中で野盗が襲ってきたらどうする?」

「え? 護衛何だから倒しますけど?」

「その野盗を手引きしたのが、依頼主だとしたら?」


 そう言いながらソフィアはポリティスに睨み付けるが、彼は涼しい顔で受け流す。

 二人のやり取りに気付かないクラミは、腕を組んで悩み、疑問を口にする。


「そんな事して意味があるんですか?」

「例えば、依頼を受けた冒険者が高価な装備をしていたら?」

「……あ!」


 納得したようにクラミは声を上げ、ポリティスを睨み付ける。

 

 この世界の冒険者にとって護衛依頼は二重の意味で危険が伴う。

 商人にとっても、護衛依頼を出した冒険者に襲われる危険だってある。

 お互いに信頼のおける者で無いと護衛依頼を受けないし、出さない。

 その為、先ほど受付嬢の口から『護衛依頼』の単語が出たときソフィアは苛つき、執拗に依頼を受けるように催促してくるポリティスに懐疑的なのだ。


 ソフィアとクラミの二人の視線を浴びて、ポリティスは白々しくため息をこぼして言う。


「すっかり悪者扱いですね。私がそんな事をするとでも?」

「知らないから、受けないって言ってるんだろ!」


 語気を荒らげて突っかかるソフィアに、やれやれと、ポリティスは首を横に振る。


「もう、面倒くさいので仕事に行きましょう!」


 これ以上は不味い。そう感じたクラミはソフィアの腕を取り、ポリティスを押しのけて出口に向う。

 ギルドから出る際にポリティスに視線を向けると、彼は相変わらず愛想良く笑っていた。

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