4-1
窓の上に付けられた魔道具が冷気を生み出し、部屋の温度を下げていく。
丁度真下に備え付けられたベッドの上では、肌を露出して横向きで眠るクラミが寒さで震え、無意識に毛布を手に取り深々と被る。
彼女が身動ぐと、「うんん……」と、唸り声が聞こえてきたために、ぼんやりとだが重たい瞼が開く。
微睡みの心地よさを感じると共に、胸元に温かさを感じる。
「リト、ス……?」
何時もの手を握って一緒に眠っているリトスが抱きついてきたと思い、毛布をまくる――と、そこに居るのは青い髪の少女ではなく、ピンク色のショートの少女が体を丸めて、クラミに寄り添っていた。
今の状況を飲み込めないクラミの頭は次第に覚醒しだし、昨晩のことを思い出す。
「うわぁぁぁぁ!」
燦々と輝く太陽が空の真上に差し掛かる頃に、クラミの声が宿に響き渡る。
「何、何、なに!? どうしたの!?」
流石、高位の冒険者と言うべきか。クラミの叫び声が耳に入ると、熟睡していたはずのソフィアは直ぐさま飛び起き、アイテムボックスから予備の短剣を取り出し、忙しなく首を振りんがら周りの状況を把握しようと必死だ。
「クラミ、何があったの?」
周りに危険が無いと確認を終えると、ベッドに力無く横たわるクラミに話しかける。彼女は顔を両手で押えて震えていた。
「何でも……無いです、けど」
「けど?」
雪の様に白いクラミの肌が段々と赤みを帯びてきたので、心配そうに肩を撫でる。
そると、肩を――全身を大きく震わせるクラミは、枕に顔を埋くめて「夢だ、夢だ、夢だったんだ」と、足をばたつかせながら、悶えていた。
「もしかして……嫌、だった?」
弱々しい声で尋ねながら、恐る恐るクラミに触れてくる。
冷気を生み出す魔道具のせいで、すっかり冷え切った肌からソフィアの温もりが伝わってってきた。
その温かさを感じ取りつつも、枕に顔を埋くめたまま言う。
「嫌じゃ無いです」
短い一言だが、それだけでも充分ソフィアの心を満たしてくれる。
その証拠に顔を綻ばせるソフィアは、嬉しそうにクラミの事を覆い被さるように抱きしめてきた。
「ちょぉぉ、ソフィアさん! せめて服を着てください!」
枕を両手で掴みながらクラミが叫ぶ。
二人ともいつの間にか生まれたままの姿になっていた。クラミに言われて、その事に気付いたソフィアに羞恥の色は無い。
何時も通りの表情でアイテムボックスから服を取りだし、クラミの直ぐ近くで衣服に身を包んでいく。
「…………ッ」
耳から入ってくる布の擦れる音が、耳から伝わり脳に届くと、昨日手に入れたばかりの情報を元に、着替えている最中のソフィアが思い描かれる。
「着替え終わったけど、クラミはそのままなの?」
そう言いながら脇腹を人差し指で突いていくる。
堪らず飛び起きるクラミは「ヒャイ!」と、悲鳴を上げながら飛び起きた。
痛い訳でも無いのだが、突かれた場所を摩るながら、クラミが口を開く。
「お風呂借りてもいいですか?」
「大丈夫だよ。はい、これモンスターコアね」
お湯を沸かす魔道具の燃料になるモンスターコアを手渡すソフィア。
彼女にお礼と頭を下げ、お風呂場に入っていく。
クラミが風呂場に入ったのを確認したソフィアは、大きく息を吸い込む。
何時もと違って、空気が甘く感じた。
その甘さを感じながらベッドに倒れこみ、クラミの様に枕に顔を埋くめて、バタバタと足をばたつかせ、埃が舞い上がる。
「何やっていたんだ、私は」
決して、クラミの残り香を「クンクン、スーハースーハー」と、堪能しようとしたわけでは無く、単純に恥ずかしいからである。
クラミと居るときはあんなにも浮ついた気持ちだったのだが、次第に火照った体の熱は部屋の冷気と混じり合いながら引いていき、昨晩の自分の態度を思い出せば――。
「別に、女の子が好きって訳でも無いんだけどな……」
仰向けにな寝返りを打ち、枕を強く抱きしめながら独り言を漏らした。