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3-3

「ほら、街が見えたよ」


 帰りの道のりで魔物に襲われる事は無かったが、クラミの足取りは重く、行きの倍以上の時間を掛けて森を抜けた。

 

「あと少しですね……」


 肩を落として遠目に見える街を眺めながら、覇気の無い声を漏らす。魔力の無いクラミにとって魔法の袋は便利なのだが、内容物の重さが全身にのし掛かるデメリットに内心辟易していた。


(神様がくれた物なのに、本当は呪いのアイテムなんじゃ? そう言えば、中に汚いキノコが……)

「あと少しだから、頑張れ!」


 両目を糸のように細めてウンザリした表情のクラミに激励を飛ばすソフィア。彼女の声援を受けて、気力を振り絞って、剥き出しの地面を踏みしめる。




「街に着いたのはいいですけど……ギルドは反対側ですよね」


 無事に西の門から街に入り一息付くが、反対側の東区に移動することを考えると気が滅入る。

 

「大丈夫だよ。ほらあそこ」


 ソフィアが肩を叩き、門の近くの建物を指差す。初めて見る建物の筈なのに、どこか見覚えがあり、クラミは顎に手を当てて考え込む。


「冒険者ギルドの建物に似ていますね?」

「似ているんじゃなくて、冒険者ギルドだよ」

「へ!? でも、ギルドなら反対の東区に……?」

「正確に言えば、西区支店だよ。わざわざ西から東に行くのは大変だから建てられたみたいだよ」


 エライオンの街が大きくなりすぎたために、ギルドが二カ所に建てられたのだ。

 東のギルドは冒険者登録、依頼の持ち込み、モンスターコアや、魔物の素材を商人に下ろしたりなど、様々な仕事を管理している。


 反対の西区のギルドはモンスターコアや、素材の買い取りだけを取り扱っている。

 受付する業務は圧倒的に少ないのに、建物が大きい理由は、魔物を解体するためだ。


 クラミはソフィアの後ろを歩きながら西区のギルドに入る。

 ギルドに入るとソフィアは直ぐさまカウンターに行き、話し込む。その後ろ姿をボケッと眺めているクラミにソフィアが声を掛けてきた。


「さっ行くよ」

「ご案内いたします」

 

 ソフィアと受付嬢と一緒に、別の部屋へと移動する。

 前を歩く二人の足が止まるり、クラミはソフィアの横から顔を出し前を見ると、大きな石造りの扉が目に入る。

 重そうな扉を受付嬢が必死に押し開けようとするので、クラミが横から助け船を出す。


「あ、ありがとうございます!」


 受付嬢は重い扉を楽々と開けるクラミに驚くが、直ぐさま気を穫りなそして、頭を下げてお礼を言う。

 クラミとしては当然のことをしたまでなので、そこまで畏まってお礼を言われるのも――悪くはないと。と感じながら、ニヤケ面で頭を掻く。

 そんな彼女にソフィアが冷やかな視線を向けているのに気付き、クラミは肩を震わせる。 


「寒! 何ですかこの部屋は? 何も置いてないですけど……」


 ソフィアが何故、冷たい視線を送っているのか解らないクラミは、とりあえず話題を振ってみる。


「ここは魔物の素材を剥ぎ取る場所なんだよ」


 ソフィアの言葉を確認するように、クラミは改めて部屋の中を確認する。

 広々とした部屋の中は薄暗く、光源は天井に取り付けられている、電灯のような魔道具から淡いオレンジ色の光がこぼれている。

 四方の壁の上には、ソフィアが泊まっている宿でみた魔道具が取り付けられていた。


「剥ぎ取る素材が痛まない様に、この部屋の温度は低くなっております」


 両肩を摩るクラミに、受付嬢が壁に掛っているコートを取り、後ろから羽織らしてくれた。


「寒い理由は解りましたが……暗くないですか?」


 解体作業をする部屋にしてあまりにも暗すぎる。その事をクラミが聞くと、受付嬢は手の平を見せると、白い魔方陣が浮かび上がる。

 受付嬢はその魔方陣を、目を輝かせて見ているクラミに押しつけてきた。


「うわ! 光っている!」

 

 そう言い放つクラミは光り輝いていた。蛍光灯の様な白い光が、クラミを中心に半径五メートルほど照らし出す。

 一歩動けば、光も動く。それを確認するとクラミは歩き出し、段々と足取りは速くなり、ついには部屋の中を走りだし、光を放ちながら一人だけハイテンションになる。


「あの、そろそろ……魔物を確認したいのですが」

「クラミ! 遊んでないで、こっちに来て」

「す、すみません……つい」


 光り輝くクラミの頬は赤く染まり、顔を俯けて、ソフィアと受付嬢と顔を合わせようとしない。そんなクラミを見て、二人がクスクスと笑っている声が聞こえ、ますますクラミの顔は赤くなる。


「……ふふ。それでは、こちらに出して頂けますか?」

「あ、はい……」


 腰に下げている魔法の袋に手を入れて、頭の半分と、片腕の無い(オーガ)を取り出す。

 その(オーガ)を確認すると、先ほどまでは笑顔だった受付嬢は、険しい表情でソフィアに話しかける。


「確かに、(オーガ)を確認しました。東側にはこちらから連絡を入れますが――もし、宜しければギルドマスターにも直接、説明をして頂けると……」


 恐る恐るといった感じで、受付嬢がソフィアの顔色を窺いながら言う。

 両腕を組むソフィアは、眉間に皺を寄せて肯く。


「わかった。ちゃんと報告するから、そんな顔で見ないで」


 ソフィアの言葉を聞くと、受付嬢は胸をなで下ろした。

 その様子を不思議そうに見つめるクラミに、ソフィアが話しかける。


「さてと、報告も半分すんだし……解体でもやってみる?」

「へ!?」


 間抜けな声を上げて、(オーガ)に視線を向けるクラミ。

 一応、ゴブリンのコアを抜き取る作業はやったことはあるのだが、解体となると…………。

 クラミは青い顔でソフィアを見つめた。


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