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3-2

「ガァァァァァァァ!」


 足を踏み出したクラミに対して(オーガ)は雄叫びを上げて威嚇し、腰を低く落とす。

 ゴブリンとは違って余裕を見せたりせずに、全力で目の前の得物を狩る気でいるようだ。


「クラミ! オーガのモンスターランクはゴブリン・将軍(ストラティゴス)と同じBランクだよ!」


 (オーガ)から目を離さずに注意を呼びかけるソフィアは、最初から全力を出すようで、二本の短剣と、ブーツからは緑色の光を放っている。


「何ランクだろうと全力で行きます!」


 疲労からくる汗とは別に、(オーガ)の雄叫びと睨み付けにより冷や汗を掻くクラミは、ソフィアに虚勢を張るように大声を出す。

 

「わかった。それじゃ、私から行くね」


 その言葉を残してソフィアは疾風と共に消える。否、消えた様に見えるほどのスピードで(オーガ)に向って移動したようだ。その証拠に緑色の残光が(オーガ)に向って伸びている。


「硬いな!」


 (オーガ)の全身を緑色の残光が取り巻いたと思ったら、いつの間にかクラミの隣にソフィアが息を切らして片膝をついていた。

 圧倒的なソフィアの攻撃速度に、為す術なく(オーガ)は両手で顔を守るように地面に蹲る。が、「硬い」と、言っている通りに幾重にも切りつけた傷はあるものの、そこから血は流れていない。

 

 それでも戦いの素人からしたら、ソフィアの圧勝に見えた。


「ソフィア一人でも、大丈夫そうな……?」


 完全に出遅れたクラミは、改めてソフィアの実力に舌を巻く。


「そんなことないよ! 硬くて全然切れないし。それに――」


 ソフィアは地面に着けていた膝を上げて中腰になり、また装備から緑色の光を放ちながら、(オーガ)に向って指を差す。

 

「向こうは、クラミを殺す気満々みたいだよ?」

「へ!?」


 「グルルルル」と、低い唸り声を上げる(オーガ)は、素早いソフィアを仕留めるのは骨が折れると判断したのか、クラミを睨み付け――地面を蹴り上げ一気に駆け出す。


「お前をクラミに触れ差すわけないじゃん!」

「ギャァァァァァ!!」


 ソフィアの冷たく低い声が聞こえたかと思えば、(オーガ)は地面に転がりながら顔を両手で覆い、青い液体を垂らしながら立ち上がり、天を仰ぎ絶叫していた。

 その叫んでいる(オーガ)の後ろには、何時のまにかソフィアが立っており、右手に持つ短剣から青い液体がこぼれ落ちている。


「グゥゥ……ガァァァァ!」


 (オーガ)は自分よりも小さな存在、それも雌に虚仮にされた事が許せず、顔を覆う両手を離し青い涙を流しながら怒りの咆吼をクラミにぶつける。

 異様な形相と大気を震わせるほどの声量を浴びて、クラミは肩を震わして萎縮してしまう。

 

「クラミ!」


 叫ぶと同時にソフィアは(オーガ)の肩に跨がり、角を掴んで何度も目に短剣を突き刺す。


 ソフィアの最大の武器はスピードだ。しかし、(オーガ)に跨がる事により、最大の武器を捨てたようなもので――(オーガ)は走る速度を緩めずに、ソフィアを楽々と片手で掴み、投げ捨てた。


「ギシャァァァァ!」


 鬱陶しい蠅を払った(オーガ)は鼻をひくつかせ、クラミの匂いを捕捉して叫ぶ。


「逃げて!」


 放り投げられたソフィアは空中で器用に態勢を整え、地面に着地すると直ぐさま装備から緑色の光を放ちながら、悲鳴を上げる。


 ソフィアの悲鳴を背に、(オーガ)は両手を上げてクラミに襲いかかり押し倒す。が、全長一メートルの鉈で両手を受け止めて押し止める。


(何時も、何時もビビるな! 俺!)


 クラミは自分がビビり萎縮してしまったせいで、ソフィアが(オーガ)に投げられるのを見て、気を取り直していた。


「グルルル、シャァァァァ!」

「フンッ、ガァァァァァァ!」


 (オーガ)は焦る。体格差で勝っており、楽々に倒せると思っていた相手がまさか自分と同じ膂力を擁していたなど露ほども思わず――。


 クラミは右手に握る鉈に力を込め、地面を蹴り上げて、左手で刃の腹を一気に押し上げた。


「ガァ!?」


 その結果、間抜けな声を上げて、(オーガ)は両手を天に上げる。万歳のポーズだ。

 隙だらけな状態を逃すべく、クラミは鉈を両手で握り空目掛けて伸ばし、力いっぱい振り下ろした。

 己が持つ全力を腕に込めて、(オーガ)の右腕に鉈の刃を叩き付けて、硬い皮や肉、骨を断つ――と、言うよりも、引き千切りながら腕をもぐ。


「ギャァァァァァ!」


 堪らず(オーガ)は、青い血が噴出する右腕の切り口を押えながら地面に片足を付く。(オーガ)の頭の位置が丁度クラミの腰と同じ高さだ。

 クラミは静かに近寄り、鉈を両手で握り締めて、片足を持ち上げる。


「死ね」

「アアァァァァァ――」


 裂けそうなほど口を大きく開きながら叫ぶ(オーガ)の顔に、クラミは躊躇なく鉈を叩き付けて、上顎から上を吹き飛ばした。



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