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2-5 ②

「いらっしゃ……って、嬢ちゃんか」


 水の補給を済ませた二人は鍛冶屋のスディラスに入ると、店主の頑固親父が挨拶をしてきた。


「大剣の鍛錬と、買い取り金の準備はまだなんだが――」

「あ、今日のお客はこっちですよ」


 申し訳なさそうにする頑固親父に、ソフィアを見るように促す。

 

「武器を取りに来たのだけれど、できている?」

「ああ、ソフィアか。武器の整備はとっくにできているぞ」

「だったら昨日で言ってくれればいいのに……」


 ソフィアの切り返しに親父は苦笑を漏らし、顎を親指で掻く。

 昨日はクラミが突然来訪したことによりテンパり、そんな余裕など一切無かった。

 

「すまん、すまん。今持ってくるから、ちょっと待っていてくれ」


 忘れられていたことを気にする素振りを見せず、ソフィアは店の奥に引っ込む頑固親父の背中を見送った。

 どの位待つか解らないず、只立っているのは時間の無駄なので、クラミは興味深そうに既成品を見る。


「何か買うの?」

「うーん。欲しいんですけど……」


 歯切れ悪く答えるクラミの表情は暗い。ゴブリン騒動の時、老騎士から剣の才能は無いとハッキリ言われて落ち込んだことを思い出していた。

 お店に並んでいる武器で一番目に付くのは剣だ。剣以外の武器を見てみようと思うが、何を選べば良いのか解らず、ソフィアから知恵を借りることに。


「私に合う武器って何だと思いますか? あ、剣以外でお願いします」

「クラミに、ね」


 ソフィアは迷うこと無く歩き出し、部屋の隅に置かれた物に指を指す。

 

「コレですか……」


 それは、棍棒だった。

 ゴブリンが使うバットの様な棍棒よりも三倍ほど太く、日本の昔話に出てくる鬼が持つ金棒を彷彿させる。


「力が強いから、鈍器が合うと思うんだよ」

「鈍器ですか」


 周りの武器もハンマーやメイス等が並んでおり、どれも仕上がりが良いのだが、クラミ的には鈍器はマイナー感が否めない為に、渋い顔で腕を組む。


「それじゃー、コレとかは?」


 ソフィアが指差したのは、鈍器の間に交じって一本の刃物が立て掛けられている。

 それは全長一メートルに及ぶ鉈だ。鉈と一口で言っても、剣鉈、枝打鉈、竹割り鉈、等と色々な種類があるが、ここに立て掛けられている鉈は、『へ』の字の様に少し曲がっている両刃作りの腰鉈だ。

 

 鉈は山道の枝打ちや、雑草の切り払いに使われ為、扱いやすい二十センチから六十センチメートル程なのだが――クラミは異様な大きさの鉈をマジマジと見つめていた。


「嬢ちゃん、その鉈を買うのか?」


 急に後ろから声を掛けられ、ビクリと肩を震わせてクラミが後ろを振り向くと頑固親父が布に包まれた二本の短剣を手に持っていた。


「もし良かったら、裏で試し切りでもしてみるか? ソフィアも確認するだろ?」


 そう言いながら二本の短剣をソフィアに手渡す。

 それを両手で受け取ると、ソフィアは一本の短剣を左脇に挟み、もう一本の布を解き、革製の鞘から刀身を引き抜く。

 刀身は普通の刃物と一緒で銀色に輝き、ソフィアは角度を変えたりして睨めっこをしながら口を開く。


「そうだね、クラミも一緒に行こうよ」


 頑固親父とソフィアからの誘いを断り切れず、別に欲しくも無い鉈を掴み店の裏へと回った。



 裏口から広場に出ると、子供達が追いかけっこしたりして遊んでいる。

 その光景をソフィアと一緒に見ていると、頑固親父が声を掛けてきた。


「こっちの準備はいいぞ!」


 声のする場所に向き直ると、粗末な鎧を着せられた丸太が二本並んでいる。クラミは訝しげに見つめながら近寄る。


「ゴブリン達が使っていた鎧だ」

「鎧を着せるのですか……刃こぼれしたりしないのですか?」


 気を利かせクラミの疑問に頑固親父が答えるが、クラミとしては何故鎧を着せるのかが解らない。


「強いモンスターの皮は、鉄よりも硬いからな。こんな鎧ぐらい楽に切れないといけないし、刃こぼれなんてもっての外だからな」


 鎧を小突きながら頑固親父が言う。クラミは納得するが勿体ない精神が働き、その事を聞く。


「どうせ潰す予定だから平気だ」


 (俺の戦利品かよ!)と、内心突っ込みを入れるが、頑固親父に売る物だから何も言えずにいた。


「先に使って良いかな?」


 頑固親父とクラミが話している間にソフィアは体を軽くほぐし、両手には短剣を逆手に持って立っている。


「すいません。どうぞ、どうぞ」


 鎧付きの丸太からクラミが離れると、腰を落として短剣を強く握り締めた。

 すると、短剣の柄に付いている丸い石が緑色に光りだし、刀身も同じ緑色に変色していく。


「何ですかアレは!?」

「まぁ、待て。まずは見てみろ」


 見上げてくるクラミに、ソフィアの方を指差す。言われるがままに目線を向けると、ソフィアのニーハイブーツからも緑色の光が漏れ出し――本人は消え、残光が丸太の方に伸びている。

 クラミは慌てて鎧付きの丸太を見ると、そこには既にソフィアが立っていた。


「良い切れ味だね」


 そう言いながら丸太を小突くと同時にバラバラに崩れ落ちた。

 

「…………」

「アレは魔剣ていってだな、柄に付いているモンスターコアから魔力を吸って、剣が魔法を発動させているんだよ。魔道具と一緒でだな――」


 頑固親父が得意げに話しているのだが、クラミの耳には入ってこない。


(剣も凄いけど……ソフィアさん自体が、かっこいいな!)


 目を少年の様に輝かせて、二人の元に歩いてくるソフィアを見つめていた。


「次はクラミの番だよ」


 クラミの表情を見て満足げなソフィアが言ってきた。

 先ほどのソフィアの動きを思い出し、気合を入れて手に持つ得物を見る。

 無骨な鉈を見た後に、ソフィアが持つ短剣を見て、再度鉈を見て肩を落とす。


「…………行ってきますね」


 力無く言い放つクラミにソフィアが手を振って激励をしてくれるが、先ほどのソフィアの動きを思い出すと――。

 鉈を肩に担ぎ、ゆっくりと歩くクラミは丸太に辿り着くと、鉈を持つ右手を大きく振りかぶって地面に叩き付けた。


「ソフィアさんと比べると、地味だな……」


 遠巻きに見ていた子供達が手を勢いよく叩いたり、叫んでいるな中、砕け散った丸太と鎧を見て、寂しそうに独り言を漏らした。




「代金の方は、鎧代から差し引いとくから」

「お願いします」


 試し切り? をした後、クラミは鉈を買うことにした。

 一応、ゴブリン将軍(ストラティゴス)が使っていた黒い棍棒を持っているのだが、森では使いにくいだろうと思ってのことだ。全長一メートルの鉈が使いやすいか疑問に残るが。


「それじゃ、また後日来てくれ。それまでには大剣の方を仕上げて置くから」

「わかりました。それではまた今度」


 クラミは一礼をしてスディラスから出る。その後に続いてソフィアも店を後にした。


 ソディラスで武器を購入し、次は非常食を買いに西区のメインストリートを歩いていると、クラミはチラチラとソフィアを盗み見る。

 ソフィアを見ていると言うよりも、腰の後ろに装備した短剣を凝視していた。


「どうかしたの?」


 当然、その視線に気付き声を掛けると、クラミは慌てて目線を逸らす。


「コレに興味があるの?」

「あっ…………!」


 ソフィアは振り返り、腰を突き出してくる。

 二重の意味で目が離せないクラミは生唾を飲み込んで肯く。


「使ってみる?」

「え? いえいえいえ」


 物凄い勢いで首を横に振り、煩悩を振り払いながら拒否した。

 もしも、握って壊したりしたら――それよりも、魔力測定の時のように反応しなかったら。そう思えば、使うことが怖い。

 

「ふふ、冗談だよ」


 その言葉に、胸をなで下ろすクラミ。

 しかし、煩悩を振り払うことができず、チラチラと盗み見てしまう。ソフィアは子供のような反応のクラミを見て微笑みながら歩き、道沿いにあるお店で非常食の硬いパン・干し肉・干した果実を購入して、西区の門を抜け、森を目指して歩いて行く。



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