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2-4 ②

「ソフィア、森に行く前に準備とかしないんですか?」


 頬を赤く染めたクラミが質問と飛ばすが、返事は返ってこない。


「ソフィア?」


 怪訝な表情でソフィアを見上げれば、心ここに在らず。と、言った表情で呆けていた。

 クラミは心配そうに袖を掴むと、軽く引っ張ったり押したりして、ソフィアの体を揺らしながら名前を呼ぶ。


「ソフィア!」


 今度はちゃんと聞こえたようで、肩が一瞬跳ね上がり、驚いた表情で見下ろしてきた。


「な、なに? どうかしたの?」

「おはようございます。ソフィア」


 冗談めかしたクラミの言葉に、ソフィアは空いている手で頭を掻き、申し訳なさそうに口を開く。


「ごめんね、ちょっと……寝ていたかも」


 クラミは、その言葉を聞くと「おはよ!」と、笑いながら声を掛け、ソフィアも戯けながら「おはよ」

と、返した。


「それで、何か話しがあるから起したんだよね?」

「森に入る前に準備とかしないんですか」

 

 ソファアはその問いに答えるべく、クラミと組んでいる腕を外し、アイテムボックスを展開すると、右手をかざし目を瞑る。

 すると、ソフィアの暗い瞼の裏には、アイテムボックスの中の物が文字でリストアップされ表示される。

 瞑目したまま、左手の人差し指を上に弾くよに動かせばリストがスクロールし、ソフィアはリストの読み取りに意識を集中させ、独り言を漏らす。


「薬草採取に必要な道具は……あるけど――非常食と、水の補給はしないとダメだね」

「…………?」


 魔法の事をよく知らないクラミからすれば、目を瞑って人差し指を動かすソフィアが変人――元い、おかしな行動をしだしたので、訝しげに見ていた。

 

「どうかしたの」 


 アイテムボックスのチェックが終わったソフィアは、クラミの表情が曇っているのに気付き、声を掛けるが、


「い、いえ。何でも無いです」


 歯切れ悪く答えるクラミは、大げさに頭を横に振り、問題が無いことをアピールした。

 そんな彼女を見れば、今度はソフィアが怪訝な視線を突き刺してくるが、「早く行きましょうか!」と、クラミは話題を強引に変えるべく、手を引っ張り歩き出す。


 数メートル歩いた辺りで、クラミは隣のソフィアに疑問を投げ掛ける。


「それで……何処に行くんですか?」

「…………とりあえず、整備に出している防具から取りに行こうか。直ぐ近くだし」


 何か言いたそうなソフィアは、言葉を飲み込み、腕を絡ませて歩き出す。

 クラミは為すがまま引っ張られながら、思い出す。ソフィア御用達の防具店の主人を――。

 嫌な事を思い出していると、ソフィアが立ち止まり、慌ててクラミも立ち止まって、お店を確認する。


 そこは二度ほどソフィアと来た、店で間違いない。

 ゴクリッ! と、唾を飲むクラミを余所に、ソフィアは組んでいる腕を解き、店の中に入っていく。

 その背中を追うため、意を決してクラミも足を踏み込む。

 店の中はゴブリン騒動の時とは打ってかわって、色々な革の素材や、数点の既成品が並んでいた。

 商品は充実しているが客は居らず、二人の足音が響き渡る。


「整備はできている?」


 他の商品には一切目もくれずに、一直線にカウンターに向ったソフィアは、ぶっきらぼうに声を投げ掛ける。

 その声を聞くと、カウンターの奥で作業していた店主が手を止めて立ち上がり、近づいてきた。


「いらっしゃい。ソフィアさんね――整備の方は問題無いよ。ちょっと待ってな」


 カウンターに置かれている帳簿を確認して店の奥に引っ込む。

 

「…………普通の対応だな」


 店主の背中を見送り、ポツリと独り言を漏らす。

 その声が隣にいるソフィアの耳に入り、疑問符を浮かべながら見下ろしてきた。クラミはその視線に気付き、ソフィアと視線を交えた後、店の奥を見つめながら口を開く。


「何て言うか……ここの店主って、変態じゃないですか? だから、普通の対応をしているのが――」


 自分の胸の内を聞いて貰っていると、店主が戻ってきたので話しを打ち切り、クラミは胡乱げな表情で見つめる。

 

「おまちどおさん。早速、確認してくれ」


 カウンターに置かれたのは、黒いジャケット一着と、革製の手甲と脛当てが二個ずつ。

 ソフィアはジャケットを羽織ると、腕を振ったり、上体を捻ったりして違和感が無いか確認する。


「ジャケットの方は傷が大したことない。が、脇の擦れが目立つな。補修するには同じ革か、無ければ袖の部分から賄えるぞ。

 それか、こちらで革を注文するとなると、時間が掛かるな。

 残りの手甲と脛当ては問題無い。」


 シャドーボクシングの様に、高速で何かを切る動作をしているソフィアに店主が整備内容を報告する。

 ソフィアは動きを止め、脇を上げて確認するので、釣られるようにクラミの目線も脇に行く。


「確かに、すり減っているね。ほら」


 何度も脇を摩り、クラミに見せてきた。

 その仕草がまるで「触って確認してみて」と、言っている様で、クラミの心臓は激しく脈打ち、頬を赤く染めて手を伸ばす。


「料金はザッと、銀貨二十枚だな」

「たっか!」


 ソフィアの脇まで数センチの所で、店主の言葉に手が止まった。


「そんなこと無いぞ。大体、モンスターの皮は硬いから専用の道具がすぐに刃こぼれするんだよ。それの補修代やら、縫い合わせるのだって…………だから良い革ほど整備の料金が高くなるんだよ」


 真面目な顔で話しかけてくるが、クラミは別の方向を、今は閉じられたソフィアの脇を名残惜しそうに見つめており、店主は話しを無視されたことに怒らず、逆に鼻息を荒くして、クラミを見つめていた。


 そんな変態二人を無視してソフィアは、アイテムボックスから銀貨十八枚取り出し、カウンターに並べる。


「あの……銀貨二十枚ですので、後二枚たりませ――」


 店主が言い切る前に、ソフィアは人差し指を銀貨に置き、自分の元に引き寄せると、アイテムボックスの中にしまう。

 ゴクリッと周囲に聞こえるほど喉が鳴る店主は、抗議の声を発する。


「いえいえ、これじゃ足りませんよ! 足して下さいよ」


 しかし、ソフィアは足すこと無く、更に一枚銀貨を減らした。

 その有無を言わさぬ態度に、すっかりと鼻孔を拡げ、鼻息を荒くして、カウンターに並べられた銀貨十六枚を見て、クラミに視線を向けて話しかける。


「さすがに、これは。……さすがに、これは」


 期待に満ちた眼差しをクラミに向ける。

 クラミは胸焼けを起したような強烈な不快感を感じつつも、銀貨に人差し指を載せると、店主は両腕でカウンターを掴み、歯を食いしばって指先を凝視している。


 少し銀貨を動かすと、「……あ、ああ!」と、気持ち悪い声を上げながらクラミに笑顔を見せてくる。

 これ以上、この声を聞きたくないクラミは、一気に銀貨を引っ張り、ソフィアに手渡した。


 



「ありがとうございましたぁぁぁぁぁ!」


 お店から出ると店主が力一杯、お礼の声を上げる。

 クラミはその声を無視して、げんなりした表情でソフィアと歩き出す。

 あの後、ソフィアが更に銀貨を減らそうとしたが、クラミが必死に止めた。あれ以上は――。


「お店変えた方が、他のお店とか無いんですか?」


 他のお店を切実に求めるクラミに、ソフィアは首を傾げながら口を開く。


「気持ち悪いけど……腕は良いし、値切りやすい……うん……でも気持ち悪いな」


 気持ち悪い。クラミはその言葉に安堵のため息を漏らす。

 店主と対応しているときも表情を崩さぬ姿に、自分の方が変なのか? それともソフィアはこんな変人がタイプなのか? 等と、大変失礼なことを考えていた。


「でも、クラミと一緒に来てから値切りやすくなったよ。前まではあんな露骨じゃなかったし」

「え!?」

「クラミの事が好――」


 クラミはリトスの腕を引っ張り、首を横に振る。

 無言で、虚ろな瞳で、首を横に振り続けた。


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