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(青色の髪とか、ファンタジーだな。)
クラミは改めて、リトスと名乗る少女を惚れ惚れと眺める。
肩まで伸びたミディアムボブの髪は群青のラピスラズリの様に輝き、スラリと伸びた手足にクラミと同じ程の背丈。
先ほどまで凛々しい表情で馬に乗り、剣を振り回してのが別人だったのか見間違うほど、儚げで抱きしめたくなる雰囲気を醸し出す。
「どうかなさいまして?」
「い、いえ……ただ、綺麗な髪だとおむいまつて」
「クラミ、そんなに固くならずに」
吃り、噛み噛みのクラミに優しく微笑むリトスは、自分達が来た方向を眺め、馬車が近づいて来るのを確認して、口を開く。
「もし良かったら、私の街までなら馬車でご一緒にいかが?」
「本当にですか! 助かります。何分、迷子でずっと一人で歩きでしたので」
「そ……そうなんですか」
(高位の魔法使いなら一人でも大丈夫なのかしら?)
リトスは、クラミの華奢な体でゴブリンの頭を潰したり、片手で振り回せていたのは、魔法を使っていたと判断する。
魔力を自分自身に浴びせ内外共に強化する肉体強化系の魔法を、それも王族近衛兵級の強化術を使っていたと、心の中で分析し、気になることを聞いていく。
「それでクラミ。ゼンッジュ……ロゥ? って街なのかしら? それとも村?」
「街? 村? 善十郎って私の名前ですよ?」
その答えに訝しげな表情になるリトス。
この世界では、家名を持てるのは王族、貴族だけである。名乗り方も貴族の場合はリトス・ブレ・エライオンとなり、平民はクラミ・ゼンジュウロウとなる。
困惑するクラミに、リトスは問いただす。
「ゼンッジュロゥが名前なら、クラミが村か街の名前?」
「クラミは、家名です」
その発言に、リトスは悩む。クラミの自己紹介で平民だと思い接していたが、相手は家名持ち。貴族だったのだから。なぜ街の名前を言わないのかと思うが、訳あり何だと勝手に納得して直ぐ様に謝罪しようとするが、
「遅くなりました、女伯爵様」
「いえ、それよりも客人を馬車に。それとお湯の準備を」
馬車の到着に謝罪のタイミングを逸らす。馬車に案内してそこで謝罪する事に決め、クラミをエスコートする。
「大変失礼いたしましたクラミ様。馬車が到着しましたので中へどうぞ」
「あ、有難うございます。リトス……様。それと様は、要らないです! ホントに!」
「いえ、そうも行きません。それよりも馬車へ」
突然、敬語で話し掛けるのでパニックになるクラミ。
リトスという美少女が様付けで呼んでくれるのは嬉しいが、相手は護衛の騎士達を連れ女伯爵様呼ばわり。むしろ自分のほうが様付けで呼ばないと行けないと思うが、慣れない言葉は、すぐに口から出る事は無く吃ってしまう。
馬車のに案内され、リトスと対面で座るクラミ。リトスが深々と頭を下げ謝罪してくる。
「ゼンッジュロゥ様。先程は大変失礼な物言いをしてしまい申し訳御座いません」
「いえ! いえ! 全然失礼じゃないです! 本当に様付けは入りませんので呼び捨でお願いします。こちらは平民ですので!」
慌ててクラミも深々と頭お下げ、お願いする。
「ゼンッジュロゥでよろしいでしょうか? それに家名もちで平民ですか?」
「はい。私の住んでた街では、平民も家名持ちでして。あと……善十郎が言いにくければ、蔵美とお呼びください、リトス様」
「分かりましたクラミと呼ばさせてもらいます。それと平民でも家名をもてるなんて……そのような場所聞い事も無いのですが……何処からから来たのですか?」
「それは……ですね――」
クラミは悩む。本当の事を言っても信じてもらえるのか? 神様に無理矢理にこの地に飛ばされた。と言ったら、自分なら関わり会いたくないと思う。
このまま黙り続けるのも、はぐらかすのもマズイ。そう思い神の事は伏せ、話すことに。
「私が住んでいた場所は、○☓県□△市。海に囲まれた島で、そこで学生をしていました。そこに通う友人が悪戯をし、そしたら光りに包まれ、気がついたらこの草原に居ました……です。」
(無理だろ! 適当にも程がある。なんだよ悪戯って!)
自分で言ってアホ過ぎる話だと思うクラミ。しかし友人と言う事以外、全部真実である。リトスを見つめると、目を瞑り悩み重たい口を開く。
「転移魔法……失われた魔法だと聞いたことがあります。」
「転移……ですか?」
「はい。別の場所から、遠く離れた別の場所へ一瞬で移動する魔法だとか。もしかしたら御友人は、偶然それを発動なされたとか? 御免なさい専門じゃないから解りませんわ。」
リトスの話を聞き改めて、自分の置かれた状況をこれからの事を考える。
(いきなり死んだとか言われ、女性にされ黄金の玉と新品の棒を捨てられ、探して来いとこの世界に魔法で飛ばされる。
しかも、その魔法は失われていて、地球に帰れない。帰れたとしても死んでるんだよな……この世界で生きていくしか無いのか?
モンスターがいて、人の死体が草むらにある世界に?)
「クラミ?」
この世界に飛ばされて、いきなりゴブリンに襲われ考える余裕も無かったが、落ち着いてこれからの事考えると気持ちが沈んでしまう。
リトスは、自分の話を聞いてからクラミの顔色が悪くなったことに、「余計な事を言ってしまった。」と、思うがどうすればいいのか悩む。
「…………」
「…………」
しばしの静寂に、馬車をノックする音が響く。
「お嬢……女伯爵様。湯を持ってまいりました」
「入りなさい」
リトスと執事のやりとりの後に、騎士の一人が長形50㎝程の木製のタライを持ってきた。
それをクラミと対面に座るリトスの間に置き一礼して去る。
木製のタライからは湯気が上がり、お湯で入ってることが分かるが、「何故に馬車の中に? 異世界の儀式でも始めるのか」と、タライを見つめるクラミ。
それに対してリトスは立ち上がり、クラミのそばに腰を下ろし窓を締め、口を開く。
「湯の準備が出来ました。汗もかいていますし、汚れておりますので……まずは体を拭きましょうか?」
異世界の謎の儀式がクラミを襲う。
<加護-色欲-が発動しました>