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冒険者ギルドから出たクラミとソフィアは赤いレンガで造られた道、メインストリートの端を横並びで西区を目指して歩いている。
「薬草採取がCランクの依頼なんですか?」
「そうだよ。森の中に入って、周辺警戒しながらの採取だから中級以上の実力が必要なんだよ」
クラミの質問にソフィアが答えた。
ギルドでのゴタゴタの後、ソフィアは周りの視線を気にせずに席に着こうとするが、「すいません、すみません。お騒がせして申し訳ありません」と、忙しなく頭を下げるクラミを見て、適当にこの薬草採取の依頼を受けた。一刻も早くギルドから出るために。
「あんなに謝る必要は無いと思うんだけどね」
「……そですか?」
両腕を組み、眉間に皺を寄せて首を傾げる。
その額をソフィアが人差し指で軽く二度突っついて言う。
「難しく考えないの」
片目を閉じ額を擦りながらクラミは、ソフィアに向き直って口を開く。
「でも、悪いのは私でしたから」
「あのね、クラミ」
声量を大きくしたソフィアは急に立ち止まり真剣な表情になる。
数歩先に行ったクラミは隣に誰も居ないのに気づき慌てて振りかえると、ソフィアが近寄って来た。
「私――いや、女性は舐められたら終わりなの!」
額と額が触れ合いそうなほど近づくソフィアに、頬を赤く染めてクラミはたじろぐ。
「ちょっと……近いかな?」
「私は真剣に話しているの! アイツらだけじゃ無くて、男なんてすぐに弱みにつけ込んで――」
「ソフィアは落ち着いて! 少しだけ声を落として」
感情的になり、かなりの声量で話すソフィアの声が周囲の視線を集める。
それに気付いたクラミが指摘したのだが、
「……何よ」
と、目を細めドスの効いた声で威嚇すれば、蜘蛛の子を散らしたように野次馬達は動き出す。
それを見ていたクラミは、ソフィアの背中を押して歩き出す。
「ちょっと! 押さないでよ、クラミ!」
いきなり背中を押され、つんのめるソフィアが抗議の言葉を言い、クラミは押すのを止め横に並び立ち、謝罪の言葉を発する。
「すみません。でも、この話しの続きは静かな場所でしましょ」
その言葉に、「はぁ~~ぁ」と、ため息を漏らすソフィアは、自分の頬を軽く両手で挟むように叩き、クラミの顔を見て話す。
「それじゃ、お説教は依頼が終わった後で、タップリと。だね!」
そう言いながら、クラミの腕に自分の腕を絡めて、引っ張るように歩き出す。
突然の行動に、今度はクラミがたたらを踏み、ソフィアの肩に頭をぶつけた。
「痛。じゃなくて、すみません」
「気にしなくていいよ。それよりも――」
ソフィアはクラミの謝罪を軽く流すと、腕をさらに深く組み、体を密着させてきた。
「あの、これは?」
体同士が触れ合い、クラミは心臓の鼓動を早めてソフィアの顔を見上げる。
「こうすれば転ばないでしょ?」
上目遣いに質問をしてくるクラミの腕を強く抱きしめて答えた。
クラミは納得したような、けれど、何か言いたそうな顔で肯く。それを見てソフィアは自然と頬を綻ばせて歩き出す。
先ほどまで平常心を乱し苛々した心は、肩をくすぐる黒髪の香りと、腕から伝わる温もりに安らぎを感じ――懐かしい記憶が甦る。
「母さん……」
ポツリと漏らした声は誰の耳に入ることも無く、街の喧騒に溶け込み消えていく。