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2-3

「クラミ~、こっち、こっち」


 城に別れを告げ、冒険者ギルドにやってきたクラミ。中に入って、テーブルなどが置かれたスペースの奥から聞きなれた声で名前を呼ばれる。


「おはようございます、ソフィア」

「おはよ」


 小さく手を振るソフィアの元へ歩み寄り、頭を下げた。


「すいません、待ちましたか?」

「ううん、私も今来たところだし。それより今日の予定は――」


 ソフィアの言葉に(デートの待ち合わせみたいだな)などと思いながら正面の椅子を引き、座ろうとするが、何かを思い出したように声を掛ける。


「ソフィアちょっとごめん。先に冒険者カードの更新をしてきていいですか?」


 クラミの言葉に首を傾げるソフィア。その仕草を見つめながらランクが上がったことを言う。


「凄いね! 登録したばっかりなのに、もう、同じランクか」

 

 後頭部を掻きながら照れ笑いを浮かべるクラミ。そんな彼女とは対照的に、ソフィアは思案顔で口を開く。


「う~ん、今日の予定は変更だね。クラミがBランクだから・・・。あ、先に更新してきていいよ! それまでに考えておくね」


 (いつも甘えてばっかりで申し訳ないな。)と、思いつつ深々と頭を下げ、お礼を言ったクラミは、受付カウンターを目指す。


「おはようございます、クラミさん」


 受付嬢がクラミに気づき、元気よく挨拶をする。その彼女と挨拶を交わし、冒険者カードを机の上に置いた。


「カードの更新お願いします」


 そのカードを手に取り、受付嬢はカウンター越しから椅子に座るように手でジャスチャーをする。

 それに従いクラミが椅子に座ると、朗らかな笑みを見せて、


「はい、承りました。少々お時間かかりますが、クラミさん今日の予定は?」


 予定を聞かれた。クラミは顎に手を当てて首を傾げて、質問に、質問を投げ掛ける。 


「これから依頼を受けようかと。もうBランクの仕事って請けれるのですか?」

「はい、大丈夫です。カードの方は、お昼には更新出来ますのでそれ以降、依頼完了後にお渡しいたします」


 「依頼選んできますね」と、受付嬢に言い、ソフィアの元に向う。


(何だアイツら?)


 視線の先にはソフィアが座っているテーブルの筈が、黒いローブを着た凸凹な男二人組のせいで見えない。クラミは怪訝な表情を浮かべて歩を急かす。





「なぁ~、一緒に仕事しようぜ~」


 まん丸とした背の低い男がソフィアの正面の椅子を引き座る。


「私達コンビと組めるなんて滅多に無いですよ?」

 

 そう言いながらひょろ長い男が、ソフィアの右向かいに座り、ニタニタと笑みを浮かべる。


「…………」


 ソフィアは目の前には誰も居ないと言わんばかりに無視を決めこみ、クラミが早足で向ってくるのを眺めていた。

 しかし、二人組はめげずに纏わり付く。


「なぁ~、なぁ~。俺達の事知ってるだろ? 損はさせないぜ?」

「そうですよ、そうですよ?」


 ひょろ長な男はテーブルに置かれたソフィアの右手を握ろうと、手を忍ばせる。

 それを横目で確認したソフィアは、二人組に見えないようにアイテムボックスを展開して、ナイフを二本取り出す。


 男の手が数センチ手前に近づくと、二本のナイフを握る左手をひょろ長い男の甲目掛けて振り下ろそうとするが――。


「ぐぎゃ……ぁ」


 丸いテーブルが勢いよく、ひょろ長な男の鳩尾(みぞおち)にぶつかった。


「あ~すいません。大丈夫ですか?」


 膝を擦りながら、謝るクラミ。彼女はソフィアを助ける為に走っている最中に、ひょろ長が狼藉を働こうとしてるのを見ると無性に腹が立ち、声を掛けるよりも先にテーブルに軽く膝蹴りを入れたのだ。

 自分自身が悪い事をしたのは解っているのだが、何故か謝る気がせずに、棒読みで軽く顎を引いた。


 クラミのぞんざいな態度を見た丸い男は、テーブルを両手で叩き立ち上がる。


「なんだお前の態度は! 見てみろ、俺の相棒の苦しみ様を!」


 丸い男の指の先には、ひょろ長の男が鳩尾を両手で押えて唸っていた。


「可哀想に……一体どう責任――」


 顔を顰め睨み付ける丸い男は、クラミの容姿をマジマジと見つめて、下卑た笑みを浮かべる。


「責任を取ってくれるよな? その体で――」


 言い終わるよりも早く、鼻先にナイフの先端が刺さる。


「図に乗るなよ?」


 ソフィアが腕を伸ばし、睨み付けていた。

 

「女のクセに…………そっちこそ図に乗るなよ!」


 ひょろ長の男が、先端に丸い水晶が埋め込まれている杖を握りながら吐き捨てた。

 それを見たクラミは魔法の袋に手を入れて、ドス黒い棍棒の柄を握り、何時でも叩き潰せる態勢を取る。

 

 一触即発。

 

 冒険者ギルドに重い空気が漂い、他の冒険者達は四人を固唾を呑んで睨み付け、受付嬢はオロオロと心配そうにしていた。

 そんな中最初に動いたのは、


「お前ら! 何しているか!」


 喧しく怒鳴り散らす落ち武者事、ギルドマスターだ。

 高ランク同士の諍いの為、職員では対応できないので、わざわざ顔を出したのだ。


「お前には関係ない、ハゲ」

「誰が禿げか!」


 ギルドマスターは、唾を飛ばしながら歩み寄り、口を開く。


「取敢えず、お前達……喧嘩するなら街の外でやれ!」


 その言葉に、丸い男は肩をすくめて言い放つ。


「先に手を出したのは、そっちのお嬢ちゃんだぜ?」


 クラミをゆび指しながら、ギルドマスターに言うが、


「何度も同じ事を言わすな。喧嘩がしたいなら外に出て行け!」


 眉間に皺を寄せ、ギルドマスターは中腰で丸い男の額に額を擦り付けて凄む。

 次第に鼻先が触れ、段々と顔が近づいてくる。

 丸い男は怯えた表情で、一歩後ずされば、ギルドマスターが一歩詰めよってきた。


「な、何なんだよお前は!」


 別の意味でビビってしまった丸い男は、声を震わせながら精一杯の威嚇を出すが、ギルドマスターには効果が無い。

 訳の解らない状況に陥った男の肩に手が置かれた。


「ひっっ!」

「俺だよ。そんな事より、もう行こうぜ」


 ひょろ長の男はクラミを睨み付けながら、そう促す。心が折れ掛かっている丸い男は反対する事などせず、潔く身を引いていく。

 二人組はギルドマスターを警戒しつつ、歩く。クラミの側を通った際に、ぼそりと、一言漏らした。


「……おぼえていろよ」


 ひょろ長の男が振り向いてニヤ付いていた。クラミは特に気にすること無く、ギルドマスターに向き直り、頭を下げる。


「ご迷惑をお掛けしました」

「まったく! 今度からは外でやれよ!」

「助けて貰って何ですが……アレで良かったんですか?」


 四人に出て行けと言いつつも、凸凹コンビを一方的に攻めていたことを聞く。


「いい年した男が、子供に絡むなって話しだ」


 そう言いながら、無い髪を掻きながら後ろを身を翻して歩き出す。


「本当に、ありがとうございました」


 クラミのお礼の言葉を聞くと、正面を向きながら手を振り部屋の奥へと引っ込んでいく。

 その背中をソフィアは難しい顔で見つめていた。






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