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リトスと食堂で別れた後、憂鬱な気持ちでクラミは借りている部屋の中で荷物を魔法の袋に収納していた。
「あ~……、どうしたしたら機嫌が直るかな」
もともと荷物は服しかなく、あっという間に出て行く準備が整うとベッドに腰を掛けて独り言を漏らす。
いざ出て行くとなると名残惜しく、更に、リトスと喧嘩別れの形を取りたくないクラミは難しい顔で考える。いくら頭を悩ませても、女の子の機嫌の取り方がわからない。
唸り声を上げながら朝から黄昏ていると、ドアがノックされた。
「執事のドリフォロスでございます。クラミ様、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
一瞬、リトスが来たかと思い肩を跳ね上がらせるが、執事だと判ると安堵のため息と共に、寂しさを覚える。
「はい! どうぞ」
頭を左右に振り、気を取り直して返事をすると、執事が白い袋を持って部屋に入ってきた。
それを見たクラミは「あッ!」と、声を上げて魔法の袋に手を突っ込み、中をまさぐる。
「お忘れ物ですよ」
執事は笑いながら白い袋を手渡す。クラミは「ありがとうございます」と、頭を何度も下げ、魔法の袋の中に収めた。
そして、歯切れの悪い口調で話しかける。
「あの……ですね――」
執事は急かすこと無く、静かな佇まいでクラミが話すのを待つ。
クラミは自分の頭の中を整理しつつ、一番に気になることを聞く。
「リトス様はどうしてますか?」
「リトス様、ですか――」
瞑目し、考え込む執事。このままクラミを焚き付けてリトスの元へ向わせれば、なし崩し的に機嫌を直せるだろうが、そのような事はせずに、
「今はお会いにならない方が良いですね」
敢えてリトスから遠ざける。
クラミはその言葉を聞くと、リトスから避けられていると勘違いし、ションボリと肩を落とすが、賺さず執事がフォローの言葉を掛けた。
「少し、時間が必要なのですよ。頭と心を冷ます時間が」
「時間ですか……」
執事の物言いに、(大人だなぁ~)等と感心し、自分はまだまだ子供だと実感する。
「それでクラミ様、ここを出た後のご予定は?」
物思いに耽っているクラミに執事が声を掛けた。
「取敢えず、今からギルドに行って仕事です」
「……宿泊先の当てはありますか?」
クラミは沈黙し考える。お金は沢山持っているし大丈夫。宿屋の事は――これから会うソフィアに聞くことにし、
「大丈夫です!」
自信満々に答える。執事は心配そうに「こちらで手配いたしましょうか?」と、声を掛けるが、クラミは断りを入れた。
今まで散々お世話になっており、これ以上甘えるの気が引けるので、感謝の念を込めて頭を深々と下げる。
「解りました」と、難しい顔で一応肯く執事。
クラミは「そろそろ行きますね」と、声を掛ける。その言葉を聞くと、執事は見送りのために城の玄関まで付き添う事に。
「リトス様に『ありがとうございました』と、伝えて下さい」
玄関で靴を履き、クラミは両手を揃えて執事に頭を下げる。
「承りました。それとクラミ様――」
クラミが執事を見上げると、朗らかな笑みを見せて続きを話す。
「城に来る際は、各城壁の門番に一言声を掛けてください」
「え……っと?」
「何時でも遊びに来て下さい。歓迎いたします」
執事の言葉に瞳を潤ませて「ありがとうございます」と、何度も頭を下げ、玄関から出た後も振りかえる度に頭を下げる。
そんなクラミに小さく手を振りながら執事は独り言を漏らす。
「こちらこそ、本当に有難う御座います」
城の門を抜けて姿が見えなくなったクラミに、深々と頭を下げる執事であった。
執事としては、リトスに街の領主を止めて欲しいのでしょう。良い意味で。
だけど、その考えが現実味が無いので、せめて自分本位で生きて欲しい。良い意味で。