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1-5

 ソフィアの横に並んで歩くクラミは、西区のメインストリートから中道に入り、北区を目指す。

 中道ということもあり、あまり人と会うことが無い。たまにすれ違う人はクラミの黒髪を見て、俯き逃げ出した。

 それを見たソフィアからは、怒りが滲み出すが――何も言えずにいる。


「別に、気にしてませんよ?」


 今朝のクラミなら、気分を害していただろう。しかし、変わらずに接してくれる人達も居るので、今は気にならない。

 それよりも、ソフィアの方が気になる。

 そんな心配そうなクラミの視線に気付いたソフィアは、申し訳なさそうに、薄氷な笑顔を見せた。


「やっぱり、笑顔が一番ですよ!」


 ソフィアの作り笑いを敢えて見えぬ振りをして、元気よく笑顔を振り撒く。


「うん、ありがとう」

 

 少しだけ明るい顔を見せるソフィア。

 それを見たクラミはソフィアと繋いだ手を力強く、急かすように引っ張りながら歩く。


「クラミ、道が違うよ!」

「あ、すいません」




「着いたよ」

「ここが……」


 鍛冶屋のスディラスを出て十分程で、ソフィアが借りている宿屋に着いた。

 北区は富裕層(平民の)が多いと言っていた割には――宿屋の外見はパッとしない。別に、見た目が悪いと言う訳では無い。ただ、鍛冶屋のスディラスの様に縦長で、三階建ての建物だ。


 クラミは顔には出さずに、心の中で高級ホテルのイメージを壊していく。

 宿屋を眺めるクラミの手を引っ張り、ソフィアは建物の端に付いたドアに手を掛ける。ドアを開けると、からんからんと鈴が鳴り、目の前にあるカウンターの奥から五十代くらいのおばちゃんが出てきた。


「お帰りなさい」

「ただいま。昼食を二人前、部屋にお願い出来る?」


 ソフィアが馴れた調子で声を掛ける。おばちゃんは快活な笑顔を見せて肯く。


「二人前ね! 直ぐに準備するから」


 お昼時にご飯の話をすれば、きゅるるるると、クラミのお腹が鳴き、顔を赤くして恥ずかしそうに笑う。

 それを見たおばちゃんは、


「お嬢ちゃんには特別に、大盛りで準備しよっか!」


 おばちゃんに目線を合わせて「ありがとうございます」と、頭を下げるクラミ。

 しかし、隣のソフィアが――


「この()のご飯は、麦粥でお願い。まだ、病み上がりだから」

「そうなの?」


 疑問符を浮かべながらクラミを見ると、落ち込んだ顔で肯く。おばちゃんは苦笑しながら優しく諭す。


「なら、消化に良い物がいいわね……ごめんね。その代わり、美味しい麦粥を準備するから!」

「はい! 楽しみにしてます」

「それじゃ、行こうか」


 ソフィアが歩き出し、その後ろをついて行く。カウンターの横の短い通路を抜けると食堂があり、その奥には二階に上がる為の階段が見える。そこから、二階の部屋へと登っていく。


 三階に登る為の階段もあるが、ソフィアは二階に着くと、狭い廊下を歩いて行く。

 二階には四室しか部屋が無く、その一番奥の扉を開けて、部屋の中へと入る。クラミは生唾を飲み、恐る恐る部屋に入っていっく。


 部屋に入り、一番最初にクラミの目に入ったのは、ソフィアのお尻だ。正確には、部屋の奥に一人用のベッドが壁際に設置されており、その上に小さな窓がある。

 その窓を開けるために片膝をベッドに付き、お尻を突き出す様な態勢を取っている。


「どうしたの?」


 いまだに部屋の入り口でぼけっと、しているクラミに問いか掛ける。


「な、何でもありません!」


 頬を赤らめて、俯き加減で歩くクラミ。部屋の中まで入ると、改めて辺りを見渡す。

 一人で生活するには、広めの長細い部屋で、部屋の真ん中には丸いテーブルと、椅子が一脚。

 ベッドの反対側には、鍵付きのクローゼットらしき収納スペースがあり、部屋の奥には扉があった。


 クラミがキョロキョロと見物しているうちに、ソフィアは丸いテーブルをベッドの近くに運ぶ。


「あ、手伝いますよ!」

「それじゃ~、椅子をお願い」


 「はい」と、返事をして椅子を運ぶクラミ。椅子をテーブルに設置すると、ソフィアはベッドに腰を下ろし、クラミに椅子に座るように進める。

 クラミが椅子に座ると、一拍間を置き、ソフィアが口を開く。


「あの……部屋の中、暑いね!」


 クラミを見ずに、壁を見ながら手を団扇代わりにして、扇ぐ。


「暑いですね」


 クラミも胸元の襟を引っ張ったり、閉じたりして空気を服の中に取り込む。


「…………」

「…………」


 それから会話が途切れた。クラミはソフィアを見つめているのだが、その相手は挙動不審だ。チラチラとクラミを見たり、視線を落としてテーブルを見つめている。

 クラミは意を決して、ソフィアに声を掛けるが、


「あの――」

「そうだ! いい物があった!」


 クラミの声を遮り、ソフィアは靴を脱ぎベッドの上に立つ。

 そして、アイテムボックスを展開して、ゴブリンのモンスターコアを取り出した。

 それを訝しげに見つめるクラミ。その視線を受けつつ、ソフィアは窓の上に設置されている物にモンスターコアを入れる。


 すると、ソレから冷ややかな風があふれ出す。


「これって!?」

「冷気を出す魔道具だよ」

「(エアコンか!)夏には便利ですね!」


 クラミは魔道具に興味津々と見つめていると、ソフィアがベッドに腰を下ろした。


「……がうの」


 ソフィアから意識が逸れていた為に、声を聞き漏らしたクラミは、申し訳なさそうに謝る。


「すいませんソフィア、聞いていなかった」


 首を横に振り、ソフィアは重たい口を開く。


「クラミが謝ること無いの」


 ベッドのシーツを握りながら、伏せていた顔を上げて、弱々しく話し掛ける。


「……ごめんなさい」

「えぇ、と。何かしたんですか?」

「クラミの事が……怖かった、の」


 クラミは目を見開き、言い訳を言おうとするが、ソレを飲み込み、聞きに徹した。


「ゴブリン騒動の時、クラミに声を掛けたんだけど……私は怖くて近づけなかった」

「心ない街の連中と同じだよ……」

「私は、辛そうなクラミを抱きしめてあげる事が……できなかった」


 天井を見つめて、何かを思い出すソフィア。

 ゆっくりと視線を落とし、クラミを見つめて、頭を下げる。


「ごめんなさい」

「そんな、謝罪が欲しい訳じゃ――」

「ううん。どうしても、謝りたいの。そうしないと私自身が許せない、から」


 クラミ自身としては、全然気にしいない――と、言うよりも、ゴブリン騒動のときの記憶が曖昧で、良く覚えていない。

 腕を組み、俯き悩む。何て言えば、ソフィアは何時も通りに戻るのか?

 目線をあげると、ソフィアが悲しそうな顔で見つめていた。


「ソフィア……」


 名前を呼ばれ、ビクッと、肩を震わせるソフィア。そんな彼女にクラミは、


「一週間、昼食をご馳走して下さい」

「え!?」


 ご飯を要求した。が、ソフィアは何を言われたのか理解できない。

 クラミは優しく、笑顔で答える。


「明日、前みたいに一緒に仕事をしましょう。それが終われば、お昼ご飯を奢って下さい!」

「クラミ、私は真剣に…………」

「俺も真剣ですよ! ソフィアは、少し意地悪なくらいじゃ無いと……」


 その言葉を聞くとソフィアは口を閉ざし、大きく息を吸い込み、クラミを見つめる。


「それじゃ、一週間麦粥をご馳走するね!」

「えぇ、麦粥以外がいいです」


 そう言いながら笑うクラミ。その笑顔に釣られて、ソフィアの顔に笑顔が宿る。

 それを見て、満足そうなクラミであった。


加護のせいで、ソフィアは情緒不安定です。

好きな人に嫌われたくない。って感じです。

厄介な加護……。

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