1-4 ②
クラミとソフィアは第二城壁をなぞりながら西区を目指して、手を繋ぎながら歩く。
言葉にすると仲が良さそうなのだが、二人には会話無く、ましてや、横に並んで一緒に歩いているわけでも無い。
ソフィアが一歩先を歩き、その後ろをクラミが早歩きで追いかける。
何時もならソフィアが自然とクラミの歩幅に合わせて歩いてくれるのだが、今日はそのよな事を気にしている余裕はないようだ。
そんなソフィアに、クラミは背中越しに話しかける。
「あの、ソフィア。えぇーと、いい天気ですね!」
「うん」
「そう言えば――」
「うん」
何を言っても生返事ばかりだ。クラミは空いている手で頬を掻き、困った表情で、その背中を見つめて考える。
(俺、何かしたかな? 何もしてない……筈だし。なんか食い付きそうな話題は……)
クラミも自分の世界に入り、無言のまま歩を進めていく。
そんなこんなで、気まずい空気を醸し出す二人は鍛冶屋のスィデラスに辿り着いた。
ソフィアが手を離し、ドアノブを回し中に入っていく。クラミも、その後ろをついて行く。
店内は、ゴブリン騒動の時と打って変わって、人っ子一人いない。そんな店内に靴の足音を響かせ歩けば、カウンターの奥の暖簾を押しのけ、大柄な男が現われた。
「らっしゃい……」
「あ、どうもです」
クラミが挨拶すると、如何にも頑固親父といった面構えの男、鍛冶屋のスィデラスの店主が顰めっ面のまま、ジャラジャラと煩わしい音を立てながらカウンターから出てくる。
そして、クラミの目の前に立つ。すかさず、ソフィアが二人の間に割って入ろうとするが、頑固親父が右手を伸ばし、その行動を止めた。
「ええーっと、ですね。戦利ひ――」
「すまなかった!」
頑固親父がクラミの言葉を遮り、深々と頭を下げる。
ギルドマスターの時もそうだが、自分の親と同年代ぐらいの人に謝られる。そういった経験など有るわけも無く、クラミはどうしたらいいのか分からず、オロオロと狼狽え、ソフィアに縋るような視線を送った。
「クラミが困っているよ。何に対して謝っているのか、ちゃんと言わないと」
「え!?」
「確かに――」
ソフィアの発言に困惑するクラミ。彼女は別に謝罪が欲しいわけではない。只、この状況を何とかして欲しかっただけなのだが……他人任せにした付けなのだろ。
そんなクラミを余所に頑固親父は身を正して、再度、深々と頭を下げる。
「見かけで判断して、防具を売らずに……本当に申し訳ない」
「いえいえいえ! 気にしてませんから! 頭を上げて下さい」
「しかしだな……」
クラミの言葉を聞き、申し訳なさそうに顔を上げる頑固親父。
「それよりも、報酬! そうです、戦利品を貰いに来ました!」
クラミは思い出した様に口を開き、話を逸らす。
頑固親父は手の平を叩き「付いてきてくれ」と、ジャラジャラと音を立てながら、カウンターの奥へと入っていく。
クラミとソフィアはお互いの顔を見て、困惑しながら、その後を追う。
暖簾の先には薄暗い廊下があり、その先に頑固親父が待っていた。
辺りをキョロキョロと、見渡しながら歩くクラミ。歩いて直ぐに、左右に大きめの部屋がある。その部屋には扉はなく、興味本位で覗いてみると、部屋の奥にすすけて汚れた炉と鞴が有り、部屋の中心には金属の加工を行なう台、金床が置かれていた。
反対の部屋にも同じように、炉と鞴、金床に大きなハンマーが置かれている。
その鍛冶部屋を通り越し、頑固親父の元へと向う。親父が立っている近くにも左右に部屋があるが、ここは確りとした扉と、大きく頑丈そうな錠前が付いていた。
その錠前を繁々と見つめていると、頑固親父が話しかけて来る。
「この中に、ゴブリンから取った鎧が置いたある」
そう言うと、腰に掛けているカギの束から一本のカギを選び、錠前を解錠した。
部屋の中は鍛冶部屋と比べ、狭い。普段ここは、金属のインゴットや、貴重な鉱石を置いとく場所なのだが、ゴブリン騒動で今は、置いとくべき鉱石などが殆ど無い。なので、倉庫代わりに使っている。
クラミが部屋の中を覗くと、黒く薄汚れた残骸が山積みとなっていた。
「はっきり言って……この鎧は使えない。鉄の精錬が甘く、一旦全部潰した方がいいのだが……」
頑固親父はクラミを見下ろしながら口を開く。
クラミは特に反論する理由も無く、「お願いします」と、頭を下げた。
「おいおい! 頭を上げてくれ。それと、潰した金属はどうする?」
「どうするとは?」
「使う用があるなら、そのまま持って行っても構わないし、ないなら此方で買い取るが」
「買い取りでお願いいたします」
クラミは迷うことなく、売却のお願いを出した。頑固親父は肯き、腕を組み瞑目する。
「どうかしたんですか?」
「いや、ちょっとな。それよりも……こっちに来てくれないか?」
頑固親父は部屋を出て、廊下の先のドアに手を掛けた。ドアの先は――出口だ。
建物から出て最初に目に付いたのは、二階建ての建物だ。クラミ達から十メートル先には長細い建物が櫛比の如く建ち並び、後ろを振り返ると、同じ建物が並んでいる。その間には、芝生の様な草が生えた広場だ。
広場の中央辺りには、細長い棒が刺さっており、反対側にも同じように刺さっている。そして二本の棒の先端は紐でつながっており、それが、等間隔で並んでいた。これは、洗濯物を干すための場所のようだ。
そして、建物の近くには、炉や金床が置いてあった。置いてあったのだが――大きさが違う。ぱっと見で、倍以上の大きさだ。その下には、『将 軍』が使っていた、どす黒い色の棍棒と、『 王 』が振り回していた巨大な剣が無造作に置かれていた。
鍛冶屋がある周辺について。
鍛冶屋のスィデラスは、西区のメインストリート沿いにあり、この辺の建物は、全部、長方形の形をイメージしてます。
メインストリート沿いは、一等地。
一階がお店兼、作業場。二階が住居スペース。
下で火を扱っているので……二階は大変そうです。
裏口の広場は、洗濯干したり、鉱石や素材の搬入の為に馬車などが通ったりする。
その裏口の前にあった金床は、大きい物を作る際の場所です。
洗濯物が干されている中で使ったら……。
反対側の建物は、宿屋など。
こんな感じです。