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1-4

 クラミは浮かれ気分で入り口のドアを押そうとするが、触れる前に勝手に開いた。


「うわ、っと、っと、ふんぐぅ!」


 予想していた抵抗が無かったために、たたらを踏みバランスを崩すクラミは、少し柔らかい板に顔をぶつける。


「きゃあ!」


 と、同時に可愛らしい悲鳴が聞こえ、顔を上げると――左右のもみ上げを肩まで伸ばしている、特桃色のショートヘアーの少女、ソフィア・オリキオが目を見開き、クラミを見下ろしていた。


「すいません……って、ソフィアさん! 奇遇――」


 クラミは笑顔で挨拶をしようとしたが、自分の手と顔が丁度、胸に置かれているのに気付く。


「す、す、すみません!」

「あ……」


 顔を引き攣らせ、慌てて離れるクラミ。ソフィアから一歩後ずさり、頭を深々と下げる。


「本当に申し訳ありません!」

「え……あ、そんな」

「お嬢ちゃん、ソフィアが困っているぞ!」


 そう言いながらギルドマスターはクラミの肩を叩き、助け船を出すが、そんな彼に無言で睨みを飛ばすソフィア。

 クラミはこわごわと顔を上げ、ソフィアを見つめると、再度、頭を下げる。


「違うわよ! クラミの事を睨んだじゃ無いから!」


 慌てて首を横に振るソフィア。

 ギルドマスターは、ため息交じりに声を掛けるが――


「おいおい――」

「うっさいハゲ! クラミ、こっち」


 ソフィアのヒステリックな声に遮られた。そして彼女はクラミの手を取り、ギルドから無理矢理連れだす。


「まったく……」

 

 ギルドマスターは髪の生え際を掻きながら、その背中を見送った。




「あ、あの、ソフィア!」


 手を捕まれ、引き摺られるように走るクラミ。突然のソフィアの行動に、困惑しながら声を掛ける。

 その声で正気を取り戻したのか、徐々に速度を落とし、広場の手前で手を離し止まった。止まったのだが、広場を見つめたまま、ピクリとも動かない。

 そんなソフィアの横を通り抜け、真っ正面で向き合い、深々と頭を下げる。


「あの……クラミ――」 

「本当に、申し訳ありません!!」


 クラミの大きな声を聞き、近くの人達の視線を集めるが、その黒髪を見ると視線を逸らし、拘わらない様にする。

 そんな周りの事などお構いなしに、頭を下げ続けると、ソフィアが握り拳を口元に当て咳払いをした。それを聞き顔を上げると、ソフィアが伏見がちに口を開く。


「何をそんなに……謝っているの?」

「え!? いや、あの、ぶつかって胸を揉んだことを――」

「女の子同士なんだから。謝ることでも無いし……」


 何か言いたそうなのだが、クラミはそれを察することができない。むしろ、怒ってないので安堵のため息を漏らす。


「それでも、こちらの不注意ですから…………そう言えば、ソフィアは冒険者ギルドに用事は無いんですか?」

「用事はもう済んだから大丈夫だよ」

「……?」


 ソフィアは、首を傾げる何時も通りのクラミを見つめて、自分の拳を握る。

 

「クラミは、どうしてギルドに?」

「ギルドマスターと道端で偶然会って、鍛冶屋のスィデラスに戦利品を置いてある話と、これを貰いました!」


 クラミは魔法の袋から、金貨の入った袋を取り出し、ソフィアに見せた。

 それを見たソフィアは、クラミの両肩に手を置き、真剣な眼差しで見つめる。


「あの……近い――」

「こんな所で、大金を見せびらかさない!」


 ソフィアの正論を聞き、自分が浮かれ気分だったと反省し、魔法の袋の中に入れ、肩を落とした。

 そんなクラミのしょんぼりした様子に、焦るソフィア。冒険者の先輩として、真っ当なアドバイスをしたつもりだったのだが――。


「あ、別に、怒っているわけでは無いんだよ!」

「いえ、私が……浮かれすぎでした」


 どうしたものかと悩むソフィアは、話題を変えるべく、クラミに話しかける。


「そうだ! スィデラス。鍛冶屋のスィデラスに行こう!」

「あ……でも」


 クラミは城に帰ってリトスに、心配を掛けたこと、看病をして貰ったことのお礼を言いたかったのだが、有無を言わさないソフィアの手に、また捕まり、引き摺られるように西区へと足を運んでいく。


(違うでしょ……こんな事がしたいんじゃ無くて、私は……ただ)


 住民達からの視線を無視して、クラミから伝わる手の温もりを感じるソフィアであった。


 

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