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1-3

「おはようございます」


 クラミはギルドマスターの元へ向い、軽く会釈をした。

 

「体の方は……大丈夫そうだな」


 ギルドマスターは頭を下げたクラミの肩を叩き、安堵の笑みを見せる。

 それに対してクラミは「ご心配、おかけしました」と、また頭を下げ様としたが――


「お嬢ちゃんが頭を下げる必要は無いぞ。それよりも、今からギルドに来れないか?」


 ギルドマスターが右手を伸ばし、止められた。


「今からですか……」


 クラミは頭を上げて呟き、悩む。リトスに心配を掛けないように、城に帰るべきなのだが、お昼までまだ時間がある。

 渋るクラミにを見て、ギルドマスターは「別に、今日で無くても……明日でも構わんぞ」と、いってきた。

 

「ギルドで何か……仕事でもするんですか?」


 クラミの中では、ギルド=仕事なので、仕事の依頼なのか聞いてみると、ギルドマスターは手を振り否定した。


「いや、少し話をするだけだぞ」

「話だけですか?」

「うむ……報奨金とかの話をだな――」


 『報奨金』その単語を聞くと、クラミの耳がピクリと動き反応する。元々、冒険者になったのも、自立して生活する為だ。『報奨金』が幾ら貰えるか分からないが、一人暮らしをする為の資金の足しにはなるだろう。

 そう思い、ギルドマスターに話しかける。


「時間が掛からないなら……今からでも平気ですよ!」

「おっし! それじゃ~行くか」


 クラミとギルドマスターの二人は、冒険者ギルドを目指して歩いて行く。




 冒険者ギルドに着き、中に入ると――閑古鳥が鳴いていた。


「今日は、お休みですか?」


 隣のギルドマスターを見上げながら聞くと、髪の生え際を人差し指で掻きながら、ため息交じりに答える。


「仕事をしないんだよ……」


 クラミはどう返して良いのか分らず、「大変ですね」と、適当に答える。ギルドマスターは両腕を組、無言で肯いた。

 そんな二人を見ていた受付嬢がやって来て「こちらへ、どうぞ」と、別室へと案内される。


 狭い部屋に案内されたクラミは、ギルドマスターと向かい合ってソファーに座る。少し間を置き、ドアがノックされ、受付嬢がお茶を持って部屋に入ってきた。

 クラミが受付嬢に軽く頭を下げると、はにかんだ笑顔を見せ、ギルドマスターの後ろに立つ。

 

「さてと……」


 ギルドマスターはお茶を一口啜り、身を正すと、両手で両膝を掴み、頭を深々と下げた。


「この度の、クラミ殿の活躍のお陰で、冒険者の人的被害が最小限で抑えられました。

 冒険者ギルドマスターとして、お礼申し上げます」


 いきなりの挨拶に、クラミの思考は一瞬止まり、慌てて両手を振る。


「いえいえ、そんな…………。それよりも頭を上げて下さい!」

「いや、これはちゃんとお礼を言うべき事だからな、素直に受け取ってくれ」


 クラミは無言で肯く。それを見たギルドマスターは、再度、頭を下げた。


「何ていうか……照れますね」


 自分の後頭部を掻きながら話すクラミ。その声を聞くと、頭を上げたギルドマスターが、笑いながら話しかけてくる。


「まぁー、堅苦しい挨拶もここまでだ。まずは、冒険者プレートの更新からだな。

 今、プレートを持っているかい?」

「いえ、持ってきてないのですが」


 その言葉を聞くと、首を横に振りながら答える。ギルドマスターは特に気にした様子も無く、軽い調子で会話を進めていく。


「うむ。今度、冒険者ギルドに来る時にでも持ってきてくれ。そしたら更新するから」

「更新ですか。ランクが上がるんですか?」


 後ろを向いて、受付嬢に何か言っているギルドマスターに質問を飛ばす。

 ギルドマスターが手を上げルと、受付嬢は一礼し、部屋を後にした。


「すまん、すまん。更新の話だな。

 今回の活躍により、お嬢ちゃんをBランクに上げる事が決まってな」

「Bランクですか、一気に上がりましたね……」


 どこか人事の様に答えるクラミ。ギルドマスターは、申し訳なさそうに話す。


「本当は、Aランクにでも昇級させたいのだが、俺の権限ではBランクまでなんだ。

 もし、王都に行く予定が出来たら言ってくれ。本部に推薦状をだせば……お嬢ちゃんの実力なら、Aランクになれるだろう」


 ギルドマスターなりの精一杯の感謝の印なのだが、クラミの反応は悪い。と、言うよりも、冒険者ランクの価値が解らないので、どう反応すれば良いのやら――悩むクラミ。


 お互い無言になり、気まずい空気が漂う。

 ギルドマスターは瞑目し、しばし考え、口を開く。


「そう言えば――」


 しかし、ドアがノックされ、話が遮られる。ギルドマスターが「入れ」と、言うと、受付嬢がドアを開け、入り口の近くに置かれている机から、お盆を持ち上げ、部屋に入ってきた。

 お盆の上には白い袋が置かれている。


「これが、先ほど道端で話した……報奨金だ」


 そう言うと、クラミの前にお盆が置かれた。

 クラミは白い袋を見て、次にギルドマスターを見る。それを何度か繰り返す。


「中身を確認してくれ、金貨が二十枚入っている筈だ」


 クラミの挙動に、笑うのを堪えるギルドマスター。その後ろでは、受付嬢も口元を押えていた。


「あ、開けますね……」


 恐る恐る、袋を開けるクラミ。中身は、五百円玉ほどの大きさの、金色に輝くメダルが入っている。

 初めて見る金に、思わず生唾を飲むクラミ。一つ抓み、手に取ってみると、意外と軽かった。それを一枚、一枚、丁寧に取り出し、お盆の上に並べていく。


「に、二十枚あります」


 クラミの事は今まで、街の領主――リトスの所に住んでいるので、貴族かもしれないと思い、(本人は平民と言うが)対応に困っていたのだが――震えるながら金貨を並べるその姿は、庶民が大金を手に入れた態度そのものだ。

 そんなギャップを見れば、思わず頬が緩むギルドマスターと受付嬢。


「こんなに貰っていいんですか?」

「もちろんだ! それだけの活躍をしたのだからな」


 クラミは、この金貨二十枚の価値を知らない。

 只、初めて見る『金』に動揺し、しかもそれが貰える。その事態に思考回路が止まっている。

 因みに、エライオンの街の平均年収入(農民)は、金貨二枚だ。クラミはたった1日で、農民の十年分の働きをしたのだ。



 金貨を見つめ、動かないクラミに対して、ギルドマスターが話しかける。


「ほら! さっさと袋に仕舞え。それとも、要らないのか?」

「え!? そ、そんなこと無いですよ!」


 クラミは慌てて白い袋に金貨を入れて、両手で握り締めた。


「冗談だよ。取ったりしないから、そう、警戒するな」


 笑いながら話すギルドマスターの言葉に、顔を赤くするクラミ。

 

「それと、だな……今度は戦利品についての話だが」

「まだあるんですか!」


 驚くクラミを余所に、ギルドマスターは淡々と話していく。


「今回、お嬢ちゃんが討伐した、『将 軍』(ストラティゴス)『 王 』(ヴァスィリャス)が持っていた、武器や防具、素材は、鍛冶屋のスィデラスに置いてある」


 鍛冶屋のスィデラス。その言葉を聞くと、顔を顰めるクラミ。ゴブリン騒動の時、防具を買いに行って、追い出された店だ。

 そんな、苦い思い出のある店だ。また行くのかと思うと……。


「まぁ、そんな顔をするな。スィデラスの親父さんが、どうしても謝りたい。だそうだ」

「……ワカリマシタ」


 力なく返事をして、温くなったお茶を一気に飲み干すクラミ。

 それを見て、ギルドマスターは立ち上がり、クラミの肩を叩く。


「冒険者ギルドからの報酬は以上だ。あの親父さんは悪い人じゃ無いから……許してやってくれ!」

「はい。それじゃ、行ってみますよ」


 力なく立ち上がるクラミは、自分の頬を両手で軽く叩き、活を入れる。

 そして、金貨の入った白い袋を、魔法の袋に入れて部屋を出た。


「それじゃー、今度来るときは冒険者プレートを持って来てくれな!」


 わざわざ、建物の入り口まで見送りに来たギルドマスターが、そう言ってくる。

 

 「はい! 今日はありがとうございました!」

 

 クラミは元気よく答え、頭を下げて冒険者ギルドを後にした。



時間が出来たので、更新です。


中世ヨーロッパの金貨の大きさって、一円玉と同じで、厚さは、その半分。

らしいです。

何て言うか……以外と小さいです。

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