1-2 ②
孤児院の建物の前で佇むクラミ。
彼女は悩んでいた。もし、孤児院でも街の住民達と同じ反応をされたら…………。
しかし、何時までも悩んでいる訳にもいかず、大きく息を吸い込み、
「おはよーございまーっす!」
元気よく挨拶をすると、「ドタドタドタ!」と、複数の足音が響き、勢いよくドアが開いた。
「あ、クラミのおねえちゃん!」
「おねえちゃんだ!」
「どうしたの? あそびにきたの!」
クラミの悩みを吹き飛ばすかの様に、元気よく声を掛けてくる子供は、クラミの腰に抱きつき、上目遣いで質問を飛ばす。
「アルさん……アルお姉ちゃんは居る?」
「いないよー!」
「いないよねぇー!」
「おしごとが、いそがしいのー!」
子供達の頭を撫でながら、悩むクラミ。アルが居ないのでどうするか考えるが、子供二人が両手を引っ張り、もう一人がお尻を押して、孤児院の中へと誘導する。
「あそぼー!」
「あそぼーよー!」
「いそがしいの? おねえちゃんも、いそがしい?」
目をキラキラと輝かせる子供達と、しょんぼりする子供を見れば――クラミは一人を背負い、もう二人は脇に抱えて、回転しながら建物中に入る。
そんな珍妙な人物を見れば、他の子供達もワラワラと群がり、一気に騒がしくなった。
「こんなに騒いで、どうしたんだい!」
余の暴れっぷりに、中年のおばちゃんシスターが心配そうにやって来た。
「あ、お邪魔してます」
クラミは申し訳なさそうに謝ると、シスターは驚いた様に目をかっぴらく。
「クラミちゃん! 体の具合は大丈夫なのかい!? 動いても平気?」
おばちゃんシスターは慌ててクラミに駆け寄り、心配そうに訊いてくる。
街とは違い、ここの住民は何時も通りに接してくれて、熱いものがこみ上げてきた。そんなクラミの態度を、おばちゃんシスターは勘違いして受け取り、大声を上げる。
「あんた達! よそで遊んできなさい! クラミちゃんはこっちにおいで!」
「え!? あの……」
おばちゃんシスターに背中を押されて、個室に案内されるクラミ。
そこは、狭い部屋の両端に二段ベッドが二つだけ置かれており、簡素な空間で生活感は無い。
「今はここで休んでなさい」
「いえ、全然……元気ですよ!」
クラミは元気っぷりをアピールする為に、力瘤を作るが……筋肉が答えることは無い。
自分の上腕二頭筋を見て落ち込むクラミに、おばちゃんシスターは優しく語りかける。
「クラミちゃんは、一週間以上も寝たままだったのよ?」
「……え!?」
「聞いていないの? いつ目を覚ましたの?」
「今日の朝ですけど……」
おばちゃんシスターはマジマジとクラミを見て、額に手をかざす。すると、白い魔方陣が展開され、そこから出た淡い光が、クラミを包み込む。
いきなりの魔法に慌てるクラミを余所に、光は段々と強くなり、緑色に変化した。
「大丈夫そうね! でも、無理しちゃーダメよ!」
安心した表情で手を離すと、緑の光が消えていく。クラミは自分の手足を見て、何処にも異常が無いのを確認して、怪訝な顔で口を開く。
「今のって何ですか?」
「うん? この魔法を知らないのかい?」
逆に、おばちゃんシスターが訝しげに聞き返すと、クラミは素直に首を縦に振る。
おばちゃんシスターが使った魔法は、体の状態を確認する魔法だ。教会にいるシスターなら回復魔法と、この魔法が誰でも出来る。
そして、シスターが魔法を使う際、大抵この二つの魔法のため、警戒する者はあまり居ない。
因みに、二つの魔法は有料で、その収益と、街からの援助で孤児院を運営している。
話は戻り、おばちゃんシスターは、クラミが今まで教会にお世話になったこと無いほど、健康体だと思い込んで、魔法の説明をする。
「今の魔法は、体の状態を確認するのよ。身体に問題があれば、赤く光り、精神に問題があれば黒く光るの。
逆に、問題なければ、先みたいに緑色の光を発するのよ」
その話を聞き、頷くクラミ。取敢えず、「今は健康なんだな!」と、理解する。
そんなクラミを見て、おばちゃんシスターは顔を歪めて口を開く。
「今は大丈夫だけど……ちょっと前までは、黒い光に包まれていたのよ」
遠くを見つめ、その時を思い出すように、瞑目する。
「リトス様も随分と心配していて、ずっと付きっきりで居たのよ……。
私やアルも心配したわよ。それに、ソフィアさんも――」
今度はクラミが目をつむり、今朝の事を、リトスの事を思い出す。
(お礼を言わなきゃ……それとソフィアさんに合って、心配ないと伝えないと)
「所でクラミちゃん……今日はどうして家にきたの? 魔法の事は知らなかったみたいだから……診断に来たわけじゃ無いのよね?」
おばちゃんシスターの問いに、ここに来た目的を思い出し、住民達の視線がおかしい事を伝えると、
「まったく! いいかい、クラミちゃん!」
語気を荒くして、クラミの両肩を掴むと、真剣な表情で語りだす。
「皆、悪気があるわけじゃ無いの。ただ……恐がりなのよ。
だから、何も気にせずに何時も通りに生活すれば良いわ」
「怖いんですか? だから悪魔って言われたんですか」
クラミは納得して、思わず笑ってしますが、おばちゃんシスターは、顔を真っ赤に怒りだす。
おばちゃんシスターの豹変ぶりに、狼狽えるクラミは、何とか宥める事に成功した。
これ以上余計な事を言って、心配を掛ける訳にも行かず、孤児院を後にする事に。
「いいかい! 恩知らずな奴なんて気にするんじゃ無いよ! 何かあったら何時でも、家にきなさい!」
「おねーちゃん、ばいばい」
「またねー!」
「また、あそぼうねー!」
「アルさんに宜しく伝えて下さい。じゃーね!」
子供達の頭を撫で、おばちゃんシスターに頭を下げて、城に帰ることに。
帰り道、又もや嫌な視線を感じるが、孤児院の子供達や、おばちゃんシスターのお陰で、あまり気にならない。
逆に、気分良く鼻歌交じりで歩いていると、大声が飛んでくる。
「おーーい! お嬢ちゃん!」
その聞き覚えのある声の方に視線を向ければ、頭の髪が侘しい男、ギルドマスターが手を振って、近づいてきた。