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1-1

 まだ日も昇らぬ時間に目を覚ます黒髪の少女、クラミ。


「…………」


 上体を起し寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見渡し、腰まで伸びた黒髪を掻きながら微睡む。

 少し間を置き、起き上がり日課の筋トレを行なおうと思うが、隣で眠っている少女が左手を掴んでいた。


「……ちょっと失礼しますね、リトス様」


 そう言いながら隣で眠る、肩まで伸びた群青色の髪が印象的な少女、リトスの指を一本、一本外した行く。

 起さないように、慎重に、慎重に――。


「……ん、ぅん」


 艶のある唸り声に、鼓動を高めるクラミは、恐る恐るリトスに視線を向ける。

 リトスはクラミに抱きつくように、足を絡めており、その為、地肌が見える程薄いネグリジェはまくり上がり、白く美しい太ももが見えていた。

 

「……っごく!」


 思わず生唾を飲み、体を舐めるように視線を這わし、徐々に上げていくと、リトスの髪は乱れており、顔が見えない。

 クラミはぎこちない態勢で頭を撫でる。柔らかい髪を撫で、乱れた髪をかき上げ、リトスの顔を覗き込むと、手が自然と止まる。

 彼女の目尻は濡れており、ドキリ! と、心臓を掴まれたような痛みが走った。


 ――何かあったのか?


 そう思い、戸惑うクラミは不安げな様子でリトスを見つめ続ける。

 その視線に気付いたのか、ゆっくりと瞼が開いていく。


「う、んん」


 瞼が重いのか、半分まで持ち上げ、閉じる。そして又、持ち上げるを繰り返す。

 そんなリトスの頭を撫でながら、優しく声を掛ける。


「おはようございます、リトス様」

「うん、おはよ――」


 挨拶の途中でリトスの声は止まり、双眸を見開きクラミを見つめ、何度も、何度も瞬きをしていた。

 

「どうかしましたか?」


 心配そうに声を掛けると、リトスは無言で体を起し、右手で頬を撫でてくる。


「あ、あの……リトス様?」


 クラミの声に返事を為ず、今度は抱きついてきた。

 さすがに焦り、引きはがそうとするが、すん、すんと、鼻を啜る音と、小刻みに震える肩。

 

「何かあったんですか? もし何かあったんなら……言って下さい。

 何時でも、リトス様の為なら何時でもお力をお貸ししますから……」


 背中を摩りながら声を掛けるクラミ。

 リトスはクラミから少し離れ、人差し指を曲げ自分の涙を拭う。


「何でもないわよ……ねぼすけさん」


 微笑む彼女の目尻から、溜め込んだ涙が一滴漏れた。クラミは、それを親指の腹で拭う。


 ――くぅ~~、きゅるきゅるぅぅぅ。


 と、同時に今度はクラミのお腹が泣き出した。

 

 リトスは今の音が何なのか解らず、クラミに視線を向け、目が合うと、顔を真っ赤にして小刻みに震え出した。

 それを見て今の音が何なのか理解し、ゆっくりとベッドを降り、


「ふふ、ちょっと待ていてね。直ぐに用意するから」


 暖かい眼差しを向けるリトス。それに対してクラミは、顔を俯けて「お、おねがい……します」と、弱々しく答えた。

 そんなクラミの頭を撫で、リトスは近くの白いガウンを羽織り、静かに部屋を後にする。


(――締まらないな。なんで、あそこでお腹が鳴るかな!?)


 そう思いながら、白いネグリジェをまくり上げ自分のお腹を抓む。


 プニプニである。


「はぁぁ」


 ため息を漏らし、リトスが来るまで外を眺めていると、ベッドの中に、と言うよりも、お尻の下に違和感を覚えた。腰を持ち上げ、異物を手に取る。ソレは茶色の色をした――少年の神様から無理矢理、手渡された魔法の袋だ。

 クラミは魔法の袋を両手で掴み、繁々と見つめる。


「あれって、夢じゃ……なかった?」


 魔法の袋は色は茶色で、とても地味だ。大きさも縦横十五センチと言ったところか、あまり大きくはない。

 

 クラミは袋の入り口を縛る紐を解き、中を覗いてみる。

 そこは、何の見えない――常闇だ。逆さにしてみて、振るが何も出てこない。

 興味本位で指を出し入れし、平気そうなので腕を入れてみた。


 すると、腕は何処までも、何処までも沈み込み、肩まで入れても底に付かない。

 不思議に思い、魔法の袋を怪訝に眺めていると、不意に神様の言葉を思い出す。


『すごいよ~。これ、すんごいんだよ! 無制限に何でも入るし――』


(もしかして、物凄く……良い物を貰えたのか!? 使い方は…………)


 魔法の袋の凄さに興奮するが、余計な事まで思い出す。


『とりたい物をイメージしながら手を入れて――』


 その言葉を思い出すと、次の展開まで呼び覚まされ、イメージをしてしまった。


「……!? おわぁぁっぁ!」


 クラミは、手に熱く硬い感触がした瞬間に腕を直ぐさま引き抜いた。


「はぁ、はぁ……どこかに……捨てても良いのかな? 不法投棄になるのか?」


 バクバクとなる胸を押えて、肩で息をするクラミ。

 そんな事をしていると、ドアが開き、リトスが入ってきた。


「……クラミ! どうかしたの? 苦しいの!?」


 慌てて駆け寄り、抱きしめるリトス。


「いぇ、体は問題ないです。只、嫌なことを思い出してしまって……」


 クラミは先ほどの事を封印して、適当にはぐらかした。

 その言葉を聞くとリトスは、クラミを抱きしめて、頭を撫でてくる。


「大丈夫よ。もう、ゴブリンとは戦わなくても良いのだから……」


 優しく、耳元で囁く。が、クラミはその意味が解らず、適当に「はい、ありがとうございます?」と、答えていた。

 その後は、リトスに抱きしめられながら、お喋りを三十分ほどしていると、ドアをノックする音が響く。


「入りなさい」


 そう言いながら、リトスはベッドから降り、隣の椅子に座る。少し間をあけ「失礼いたします」と一言声を掛け、メイドが湯気の昇るお皿をお盆に載せて入ってきた。

 メイドはリトスの近くに在る机にお盆を置き、直ぐに退室する。


 リトスはお盆に載せられたスプーンを手に取り、お皿の中身、お粥の様な白いドロドロをかき混ぜ掬い、フー、フー、と息を吹きかけ、冷ます。


「…………」

 

 クラミはリトスの行為を只、黙って眺めていた。これから行なわれるであろう、行為を想像して。

 そしてクラミの想像どおりに、リトスはゆっくりとスプーンを口元へと運んでくる。


「はい、あーん」

「……あ、あ、あーん」


 恥ずかしくて、頬を赤く染めて口を開けるクラミ。

 その中に、ゆっくりと銀色に輝くスプーンが入る。と、同時に唇を締めると、スプーンが抜き取られた。

 クラミの口の中には塩味の効いた、温かな物が広がり、咀嚼する度に、プリプリとした食感を楽しむ。

 お粥の様だが米の感触とは違い、けれども不快ではなく、逆にクセになる。


 クラミは白いドロドロを「ゴクリ」と、喉を鳴らしながら嚥下し、恥ずかしそうに口を開く。

 リトスは微笑みながら、またスプーンで掬い、息を吹きかけてクラミの口へと運んでいく――。




「あの、リトス様……おかわりを頂けますか?」


 クラミはお皿の中身を全て平らげたが、物足りない。その為リトスにお願いをしたのだが、


「……だめよ」

「っえ!?」


 予想に反しての拒否である。

 何時もなら、頬を綻ばせ二つ返事で返してくれるのだが――クラミは当惑しリトスを見つ目て降り、その視線を受けたリトスは、宥めるように優しく口を開く。


「いきなり沢山食べたら、体に悪いわ……ごめんなさいね?」


 リトスの言うことに対して無言で肯くと、リトスは微笑みながらクラミの口元をテーブルナプキンで軽く拭いていく。

 そして、机の上のベルを鳴らし、立ち上がり、


「それじゃ……私は仕事があるから」


 名残惜しそうに、クラミを見つめて――抱きしめる。


「お昼に、また来るから。それまで眠っておきなさい」


 ゆっくりとクラミから離れ、部屋を後にし、入れ替わるようにメイドが入室し、食器を下げていった。




「眠れって言われても……なぁ」


 ベッドのヘッドボードを背もたれにして、窓から空を眺めるクラミ。彼女は一週間以上眠っていたため、眠気は無い。


―くぅきゅるるる―


 それよりも、お腹の減りが問題だ。先ほどはリトスの言うことを素直に受け入れたが、駄目のようだ。

 クラミは起き上がると真っ白なネグリジェ脱ぎ、近くに畳まれて置かれている、麻のシャツとロングスカートを手に取り、馴れた動作で着替える。


 そして、お金の入った小袋を腰に結び、部屋を出るためにドアを目指して歩く。


「あ! 魔法の袋……一応、もっといた方が良いかな?」


 独り言を洩らしながら身を翻し、ベッドに無造作に置かれている魔法の袋を掴み、部屋を後にした。


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