5-5 ②
インパクトがでればいいなぁーと思いつつ、この話をプロローグに持って行きました。
2015年5月27日 1500文字ほど加筆・修正しました。
緑色の巨体、『将 軍』は上半身を胸当てだけ身に付けており、六つに割れた筋肉が見える。下半身に草摺と腰蓑。足には、膝の部分に棘の付いたグリーブ。どの装備品も淀んだ黒色だ。
そしてドス黒い丸太のような棍棒を肩に担ぎながら、ゆっくりと歩き出す。
その後方の森からは、新たに数百以上のゴブリンがワラワラと湧いたように出てくると、『将 軍』の後ろに整列し、歩幅を合わせて進軍する。
「逃げないのか?」
クラミは『将 軍』を睨み付けつたまま、足下で震える冒険者に吐き捨てた。
「こ、腰が……抜けちまって」
ため息を吐きながら腰を落とすと、体当たりをするかの様に冒険者を右肩に肩に担ぎ、一目散に逃げ出すクラミ。
走りだしたの先には、進路を妨害する為に待ち構える数十匹のゴブリン達。クラミは迷うこと無くその集団に突っ込み、目前に迫ると、身を屈め左足で思いっ切り地面を蹴り上げ、高々と持ち上げた右足で先頭の頭を足場にして飛び越えた。
それを見ると落胆の表情で『将 軍』は逃がすまいと、うなり声を上げると棍棒を地面に叩き付け、抉りながら駆け出す。
「ヤバいぞ! アイツが、『将 軍』が追って来やがる!」
担いでいる冒険者のわめき声に、クラミは右足を地面に滑らせてブレーキを掛けながら一回転し、担いでいた冒険者を投げ捨てた。
「何しやがる!」
「さっさと援軍でも呼んでこい! 俺はここで足止めをしとく!」
このまま逃げて冒険者達の所へ行けば、『将 軍』やゴブリンの大軍によって、挟撃される事になる。そうなればソフィアや、その他の冒険者達が危ない。
それに最悪の事態、作戦が失敗して街にいる孤児院の子供やアル、そしてリトスに被害が及ぶかもしれない――そう思えば、身をかがめて走り出す体制になる。
「無理だぞ! Aランクに任せて――」
今の彼女を引き留める為の言葉は罵詈雑言に等しく、冒険者の声を無視して走り出すクラミ。その瞳に映るのは、ゴブリンの群れを飛び越え、両足で地面を踏みしめ膝を曲げる『将 軍』。
「グガァァァァァァ!」
「ウオォリャァァァ!」
敵意剥き出しのクラミを見ると、歓喜の雄叫びを上げる『将 軍』。それに対して、怒気を孕んで咆吼するクラミ。
「畜生! 馬鹿だ! あの女のは馬鹿だよ……」
クラミが『将 軍』目掛けて走り出したと同時に、背を翻して逃げ出した冒険者。悪態とをつき、後悔に苛まれながらギルドマスターの元へと走る。
―ヴォォォォォォ!―
と、冒険者の後方から地に響くような唸り声が聞こえてきた。
たまらず振りかえれば、数百のゴブリンが押し寄せてくる。クラミの姿は既に見えない。
「ゴブリンが来たぞ! 森から増援が来たぞぉぉぉ!」
顔を歪めた冒険者は叫びながら走り出す。一分、一秒でも早く危険を知らせるために。
そうでもしないと、自分を逃がすために死んだクラミに合わせる顔が無くなるから――。
「ゴブリンが来たぞ! 森から増援が――」
「おい! 増援って何だ!」
近くに居た中級の冒険者が、慌てて駆けつけた。
「しょ、『将 軍』が、もう一体いたんだよ! 数百以上のゴブリンを引き連れて森から出てきたんだ……」
肩で息をする冒険者は涙を堪えながら、中級冒険者に森付近で起ったあらましを述べた。黒髪の少女が、その命と引き替えに手に入れた情報を。
その話を聞き、森の方へと視線を移せば、遠目に何かが押し寄せてくるのを確認し「ゴクリ」と、唾を呑む。
「早く先に行ってくれ!」
その言葉に我に返る。
「お前は……」
「俺は自分一人で大丈夫だ……そうでもしなきゃ……頼む!」
中級冒険者は肯き、疾風の如く駆け出していく。
その背を見送りながら、冒険者も懸命に走り出す。
「その話は本当か! …………あのお嬢ちゃんが」
「『将 軍』は確認してませんが、ゴブリンの大群が押し寄せているのは間違いないです。この目で見てきましたから」
その報告を受けギルドマスターは寝耳に水の入るが如し顔を歪めるが、すぐさま表情を切り替え、指示を飛ばす。
「聞け! 後方から『将 軍』と、ゴブリンの増援がやって来る。全員、密集隊形をとれ! 下級の者は中心に集まり、殿は中級の者が勤めろ。
我々、上級の者で道を切り開き、『将 軍』を撃破した後、騎士達と合流する…………死にたくなければ気張れよ、野郎共!!!」
ざわめきが起るも、迅速に密集隊形をとる冒険者達。それを見ながら悪態を吐く。
(クソッタレ! 完全に作戦が裏目に出やがった……)
「ちょっと! ちゃんと全員集まっているの!?」
その声の方向に振り向けば、ソフィアが睨んでいた。
「クラミはちゃんと居るの?」
「嬢ちゃんは……この危機を知らせるために、一人で『将 軍』と戦ったそうだが――」
話をしている最中で首を横に振る。
「っ!? 私が探しに行かなくちゃ!」
ギルドマスターの横をすり抜け駆け出すが、手を掴まれた。
「何するのよ!」
「こっちの台詞だ! 何をするつもりだ」
ソフィアは思いっ切り手を引っ張り、束縛を振りほどく。
「クラミを助けに行くのよ!」
「馬鹿か! お前一人でなにができる。嬢ちゃんは『将 軍』と戦ったんだぞ? それに後方から押し寄せてくるゴブリンが何を意味している?」
ソフィアは奥歯を噛み締め、ギリギリと音を鳴らしながら俯く。
「まだ、まだ分らない――」
「一人でやり合って、生きているわけ無いだろうが! アイツが守ろうとした、街や人を守るのがせめてもの手向けだろ!」
ソフィアは顔を上げてギルドマスターを睨み付ける。
「お前は……男なんて何時もそうだ!」
「………………」
「クラミ――。」
一言漏らしその場を駆けて立ち去るソフィアは、当初の目的の『将 軍』目掛けてゴブリンを切り裂いていく。
「……すまない」
ギルドマスターは誰にも聞こえない声を漏らし、戦線へと戻っていく。
「うおぉぉぉぉ!!」
クラミは眼前に迫る『将 軍』の胴体目掛けて、右手で持つ剣を縦に叩き付けるが、甲高い音と共に片手で持つ黒い棍棒に阻まれる。クラミは負けじと両手で剣を握り、力で押し込んでいく。
「ガァァァァァァ!」
しかし、『将 軍』が怒鳴り声を発して棍棒を両手で持ち、クラミを吹き飛ばす。余りの威力に空中で錐揉みしながらも左足から着地し、地面を滑りつつも身を屈め次の攻撃態勢を取る。
「ヴォォォォォォ!」
それを見ると『将 軍』は、後ろから付いてきたゴブリンの大軍に向って叫び、手を冒険者達が交戦している場所に振り下ろした。
すると、ゴブリン達は『将 軍』とクラミを避ける様に二つに分かれて、進軍し出す。
(さすがに全部は相手に出来ないよな……せめて此奴だけは!)
クラミはそれを横目で確認するが、止める事はせずに目の前の脅威に集中する。
『将 軍』と睨み合っていると、今度は向こうが駆けだし、数歩で間合いを詰めると、両手で持つ棍棒を振り下ろし、地面を抉ったようなクレーターを作る。
「これで、死ねぇぇぇ!」
横に飛び退き、大振りの一撃を回避していたクラミは、『将 軍』のくの字に曲がっている剥き出しの腹の下に剣を滑り込ませ、力一杯に振り上げれば、上体が起き上がった。すかさず振り下ろしの、二の太刀を腹に叩き付ける――。
が、しかしゴブリン達の鉄装備すら叩き切る一撃は、薄皮一枚切り裂くことも無く、逆に剣が折れてしまった。
「グギャ! グガァァァ!」
呆然と折れた剣に意識が集中しているクラミに、『将 軍』は棍棒を捨て両手で肩を押えると優越の笑み浮かべ、股間の棍棒を見せ付けながら押し倒した。
この状況に、初めてこの世界に来た時の事を――ゴブリンと戦った時の事を思い出す。
「うぉぉぉぉぉあの時とは違うんだよぉぉぉ!」
足を後ろに下げて踏みとどまり、折れた剣を逆手に持つとニヤケ面の片目に突き立てた。
『将 軍』はたまらずクラミを手放し、両手で顔を覆いながら蹲る。クラミはその頭を左手で掴み持ち上げ、拳を打ち込む。
生温かい液が手に付くが、拳を打ち込む。
耳障りな軋む音がするが、拳を打ち込む。
何か砕けた感触がするが、拳を打ち込む。
次第に柔らかなトマトでも殴っている様に感じるが、拳を打ち込み、
地面に叩き付けて持ち上げた。
「ガ……グガァ……」
顔の穴という穴から血を垂れ流し、弱々しく呻き声洩らす。そのまま仰向けに倒すと、クラミは右足を持ち上げ、剣の柄に乗せると、ゆっくりと力を入れて押し潰す。
『将 軍』は手足をビクン! ビクン! と痙攣させながら、胸を弱々しく膨らませたり、しぼめたりしている。
クラミは剣の柄から足を退けて、近くに落ちているドス黒い棍棒を拾い上げた。
重い――。
それでも、丸太の様な棍棒を片手で持ち上げ肩に担ぎながら『将 軍』に向って歩を進めて見下ろした。
「死ね」
一言だけ漏らし、棍棒を顔に叩き付け、終わらした。
ひび割れた地面に棍棒を放り投げて、空を見つめると、日は西にずれ始めている。
「終……って無いよな、まだ」
クラミは冒険者達が戦っている方向に視線を向け歩き出そうとするが、後ろから太鼓でも叩く音が聞こえてくきた。
振り返ったその先には森があり、ボンゴの様な打楽器を叩きながらゴブリン達が出てくると、左右に分かれて演奏を続ける。
「何の真似だ?」
クラミはよく分らない展開に、タダ見ているだけだった。
呆けているクラミを余所に、尚も森からはブリンが出てきており、横一列に何層にもなって並んでいく。
次第に、打楽器のテンポが替り、異様な存在が現われた。
何十匹のゴブリンが木で出来た神輿を担ぎながら現われる。その上には『将 軍』よりも巨大なゴブリンが、頬杖を付きながら退屈そうに座っていたが、クラミと足下の骸を見ると、手を上げた。
それと同時に、打楽器が一斉に止み、クラミを睨み付けながら手を振り下ろす。
クラミはその奇妙な行動に警戒をするが、特に何も無い――と、気を緩めるとほぼ同時に、足下に黒く長細い物が降ってきた。
顔を上げると、其処には黒い矢が放物線を描きながら、クラミ目掛けて飛んでくる。
死の雨が降り注ぐ――。
明確に、一分後の自分の姿を想像できる事態に、クラミは走馬燈を眺めながら後悔するが、直ぐにそんな感情は消え去り、何時もみたいに体が動き出す。
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-高揚-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-虐殺-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-傲慢-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-憤怒-が発動しました>
読んで頂き、ブックマーク登録ありがとうございます。
前回に続き、今回も同じような展開で終わりました。
似たような話が続き微妙。
この話までを5-5①にするべきだったと後悔。
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-高揚-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-虐殺-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-傲慢-が発動しました>
<スファギ・アラゾニア・エクサシルの加護-憤怒-が発動しました>
上のヤツどうですかね? 急すぎますかね?
クラミやリトス達がおかしな行動を取る理由は上の様に加護が発動したからなんですけど……もっと前々から書くべきだったかな?