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5-4

2015年5月5日 加筆・修正しました。

 日が昇らぬ、辺りが薄闇に包まれる中、クラミの意識が次第に覚醒する。彼女は細い目を薄らと開けると、リトスが見つめていた。


「……今日は、本当に参加するの?」


 今日は、ギルドマスターが広場で演説してから二日後の朝である。ベッドで横になりながら、最後の最後までクラミを止めようと必死なリトス。

 しかし、クラミは寝ぼけ眼を擦りながら微笑む。


「着替えて食事にしましょうか」


 リトスはため息を吐き、そう言い残して部屋を出ていく。その後ろ姿を見送りながら、クラミは上気する心を落ち着かせて、着替えて食堂に向う。


 その日の食事には会話は無く、ただ黙々と食事をとり、何時もよりも早い時間に食べ終えて、客間に戻り、皮の防具が入った袋を片手に庭園へと向うクラミ。


「……いってらっしゃい。危なくなったら逃げるのよ?」

「大丈夫ですよリトス様。ちゃんと全部倒して、怪我なく帰ってきますよ!」

「………………」


 リトスを心配させまいと普段以上に明るく振る舞い、クラミは広場へと向う。

 そんなクラミの後ろ姿を見送るリトス。彼女は、胸の奥から溢れ出る不安な気持ちと、違和感を振り払うように、自分の頬を叩き、城の中へ。




(うわぁ~冒険者ってこんなに居たんだ)


 朝日が辺りを照らしだすと甲高い鐘が三回鳴り響くと、次第に広場に集まり出す冒険者達。二百名ほどの人が集まり、その数に驚く。

 その中には、女冒険者の姿が全然見当たらない。その為、今まで戦うことを止められていたと知るクラミ。


「お前ら静まれ! 今回の俺達、冒険者の役割を説明する!」


 広場から怒鳴り声が聞こえ、そこに視線が集めるとギルドマスターが台の上から怒鳴り散らす。クラミは腕を組みながら、その話しに耳を傾ける。


「ゴブリン・『将 軍』(ストラティゴス)は西の森から大群を引き連れてやって来る! 西門の正面で待機している騎士隊がそれを迎え撃つ。我々、冒険者と騎士隊の中から上級騎士十名が南門から森の浅い部分に潜り込んで、後ろから不意打ちを仕掛け、挟撃の形をとる」


 南門の先には鉱山都市オリキオがあり、そこにゴブリンの群れが傾れ込まないように、南門からの出撃となった。


「ゴブリンぐらい真っ正面からで良いんじゃ無いですか!」


 若い冒険者が馬鹿にしたように言い、ギルドマスターが怒鳴り散らした。

 統率のとれたゴブリンは強いらしく、犠牲を減らすために奇襲が一番だと。


「いいか! 今回の奇襲作戦の目的は、『将 軍』(ストラティゴス)だ。コイツさえ倒せば……統率が乱れ、幾ら鉄の装備で固められたゴブリンだろうが……後は雑魚だ! その役目は上級冒険者と上級騎士の仕事だ。残りの者は援護、遊撃を行なえ、以上。何か質問は? 無いなら装備を付けて準備が整い次第、南門に向うぞ!」


 話しを聞きながら肯くクラミ。そんな彼女の肩に手が置かれ、振り向くとそこにはソフィアが居た。


「おはよ。今日は怪我しないように、張り切りすぎないでね?」

「それよりも、ソフィアこそ気を付けて下さい。ゴブリン何とかがいる場所に突っ込むんでしょ?」

「大丈夫だよ。今回は群れだからSランクが出たけど、『将 軍』(ストラティゴス)自体はBランクだから」


 クラミはよく解らないといった表情で首を傾げ、それをソフィアは困った顔をしながらアイテムボックスを展開し、装備を取り出して、身に付けたながら話す。


「BランクのモンスターはAランク冒険者か、上級騎士が数名いれば勝てるの。それがこの作戦ではAランク冒険者五名に上級騎士が十名。よほどのことが無い限り大丈夫だよ」


 話しを聞きながら、クラミも皮の防具を装備して疑問を投げ掛けた。


「Aランク冒険者ってそんなにいたんですか? 一人は落ち武……ギルドマスターですよね?」

「そうだね。残りは――」


 ソフィアは辺りをキョロキョロと見渡し、二人組の男を見つけると、顔が止まる。クラミも背の高いのっぽと、横にでかい丸々とした、アンバランスな二人組に視線を合わせた。


「あの黒のローブを被った人達ですか?」

「うん。背の高い方が魔術師で、その隣の丸いのが、魔獣使い」


 クラミは聞き慣れない言葉に眉をひそめ、それに気が付いたソフィアが顔を横に振り説明する。


「魔獣使いっていうのは、モンスターを使役して戦わせるらしいけど……私も良くしらないの。それと――」

「あの二人には近づいちゃ駄目だよ。あまりいい噂は聞かないから」


 装備の付け心地を確かめながら、クラミは黙って肯くと、ギルドマスターの檄が飛ぶ。


「よっし! 南門へ向けて出発!」


 その声を聞くとゾロゾロと動き出す冒険者達。その波にのまれないように道の端に移動するクラミとソフィア。

 しばらく歩くと、街の住人達が両脇に並んで心配そう見送りをしていた。

 その中には見知った顔が――孤児院の子供達とアルが不安そうに冒険者達を眺めている。

 クラミはそれに気づき、笑顔で手を振るが、


「…………っ!」


 アルは両手を口元に当てて目を逸らす。子供達は元気よく叫び、体を揺するように手を振り「がんばってねぇーー!!」と、叫び、元気を貰うクラミとソフィア。




 住人の見送りが途切れると、南門が見えてくきた。


「アルさんに目を逸らされちゃいましたね」


 歩きながら先ほどの事を、困り顔で話すクラミ。


「誰かさんが大人しくしていれば良いのにね?」


 ソフィアは目を細めながら洩らす。それを聞くと「それは無い」と、言わんばかりにクラミは頭を横に振る。


「…………っふぅ。本当に怪我しないように気を付けてね」

「ソフィア、それ言うの二回目ですよ」


 その言葉を聞くと、クラミの鼻先に人差し指を軽く突き付けて、


「クラミがいつもと違う気がするから、口が酸っぱくなるほど言うの! それじゃ、私はあそこに集合だから」


 鼻を軽く触れるかの様に叩き、その指を南門へとスライドさせ、その先にはギルドマスターやアンバランスなローブの二人組に、立派な鎧を着た騎士が十名いた。

 ソフィアは手を振りながら其処に向い、クラミも手を振り見送る。


「いつもとは違うか……確かにね」


 腕を組み目を閉じて、独り言を洩らす。朝起きてから心臓の鼓動が早い。それはリトスの寝起き姿のせいだと思ったが、一向に収らない。むしろ時間が経つに連れて、より早くなり、体の奥から沸き立ってくる感情――


 不意に喧ましく、甲高い鐘の音が街中に何度も、何度も、響き渡る。

 日は昇っているが、お昼まではまだ時間がある。クラミは目を覚まし息を飲む。


「気合を入れろ! 西門で戦いが始まるぞ!!」


 遠くのギルドマスターの声が、耳元で叫んでいるかのように聞こえてくる。辺りを見ると、耳を押えている冒険者が多数。そんな周りの事情などお構いなしに、高々と剣を掲げて、さらに叫ぶ。


「準備はいいかあぁぁぁぁ! 野郎共!!」

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 自分で自分を叱咤激励する冒険者達。その怒号に間を外し、クラミは躊躇いがちに大声を出す。


「お……おおお?」


 曖昧な雄叫びを上げると、重たそうな門が開く。


「行くぞぉぉぉぉぉぉ!」


 咆吼を上げギルドマスターが門から歩いて出て行く。それに釣られるように、冒険者達も雄叫びを上げて歩き出す。


 クラミは最後尾で歩きながら思う。


(勢いに乗って走って行かないのか……)


 そう思いながらゆっくりと門を抜けていく。

読んで頂き、ブックマーク、感想ありがとうございます。

5-5で終わるの?


5-2で 店主が銀貨五枚を要求したのに対して、クラミは銀貨三枚しか渡してない誤字がありました。

 ↓↓↓こんな感じで修正しました↓↓↓


「銀貨五枚だ。ほかの依頼があるのに割り込みで仕事したからこの値段だ。本当はこんな事しないぞ? 常連だから調整したんだからな」


 クラミに言うよりも、隣の、眼が怖いソフィアに言い聞かせるように語る店主。クラミは納得し、腰に下げている袋から銀貨を五枚取り出して、店主に渡そうとするが、ソフィアの視線を浴びて躊躇する。


「…………」

「…………銀貨四枚……あ、三枚です」


 恐る恐る銀貨四枚にするが、ソフィアの顔が渋いので、三枚に減らした。そうすると、「うんうん」と、肯くソフィア。クラミは申し訳なさそうに、店主にお代を払う。


「え!?」


 店主は銀貨とクラミを交互に見返し、ソフィアに睨み付ける。

 ソフィアは動じること無く――いや、汚い物でも見るような蔑んだ瞳で見返すと、店主の顔は上気し出して、深々と頭を下げた。


「あ、ありがとうございますう!!!!」

(大人の世界…………か? 子供の俺には早いな)


 クラミはドン引きした眼で店主を見る。その冷やかな表情を見れば、疲れを忘れたように笑顔になる店主。



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