5-3
「ゴブリンが攻めてきたんですか?」
クラミは力んだ表情でソフィアを見つめる。
「落ち着いてクラミ。この鐘は冒険者を招集する為の合図だから今から――」
「お~~~い!」
遠くから誰かが声をかけてくる。クラミとソフィアの二人に大ぶりに手を振る落ち武者ヘアーの男、ギルドマスターだ。
「お~い、広場に向え! 現状の説明をするからな」
ソフィアはギルドマスターを確認すると、「ッチ!」と、舌打ちをし、広場へと歩き出す。クラミは軽く頭を下げて、ソフィアの背中を追う。
広場の中心に冒険者達が続々と集まり、それを不安そうに街の住民が見つめていた。クラミ達は冒険者達が集まる輪の外で待機している。
そんな中を、人混みを掻き分けて現われたギルドマスターが、広場に設置された台に登り広場全体を見渡し口を開く。
「良く聞けお前ら!」
乱暴な口調で喋ると辺りが静まりかえる。
「良くあんな事言われて黙りますね。皆さん」
クラミは横にいるソフィアに話しを振り、顔色を窺う。
「一応、Aランクの実力者だからね……」
ソフィアは興味なさげに答えて、両腕を組み、ギルドマスターの話しに耳を傾ける。
「そこ、うるさいぞ! 良く聞けよお前ら。今朝、森を調査しに行ったパーティーが帰ってきた。彼らがもたらした情報によると……ゴブリンの数は千に上る」
淡々と語るギルドマスターの話しを聞いたクラミは、辺りを見渡す。冒険者や住民達は騒ぐことも無く、話を聞いていくその姿勢に、この世界の住人達の強さを感じた。
「奴らの進軍速度かすると、二日後の昼には森を抜けるだろう。明後日の朝、鐘の音が三回なったら集合だぞ! 勿論、ゴブリンの到達が速ければこの限りでは無い! 何時呼ばれても良いように準備しておけよ!
それと、上級、中級冒険者はこの後、ギルドに集まれ。以上で解散」
ギルドマスターは手短に説明し、ギルドへと足早に戻り、その後を追うように冒険者がゾロゾロとついて行く。
「それじゃ、私も行ってくるね」と、ソフィアとはここで別れて、クラミは皮の防具が入った袋を担ぎ城へと向う。
第二城壁では沢山の剣が山積みとなっており、騎士達が一本、一本点検をしていた。
「クラミ様、どうかなされましたか?」
それを怪訝な表情で見つめるクラミに、近くの若い騎士が話しかける。
「あの、この剣の山は何かなと思いまして……」
「ああ、これは街が非常事態のときに住民に貸与する為の物です。今回のゴブリンの群れに対してリトス様が判断したそうです」
その話しを聞くとクラミは驚き、口を開く。
「住民も戦うんですか!?」
「いえ、万が一の為です。我々、騎士団が西の門で陣取り迎え撃ちますので、どうぞご安心下さい」
「そうなんですか。それにしても…………」
改めて、剣の山を見つめる。いくら何でも多すぎないか聞いて見ると――
「三十年位前に甚大な被害を出したらしく……その教訓で武器や防具を揃えたらしいです」
話しを聞き終わり、第二城壁を見て回りながら城へと戻る。ここも市壁同様に慌ただしく人が活動しており、道端にまで剣や防具を置き、騎士や色々な人達が整備、修繕を行なっていた。
クラミは手伝いたくて話しかけるが「いえいえいえ、クラミ様に――」と、物凄い勢いで断られたので、肩を落とし、邪魔にならないように道の端を歩いて帰る。
第一城壁に入ると、ここは何時もどおり静かだった。
その様子に首を傾げながら城にたどり着くと、門の前には沢山の騎士達で賑わっており門の中に入ることが出来ない。
その騎士達の内、一人がクラミに気づき、「あ、クラミさんだ」と、声を漏らせば、道が出来る。
「「「「お帰りなさいませ! クラミ様!」」」」
(うわぁぁぁぁぁぁ…………うわぁぁぁ……)
内心で呻きながら、居心地悪そうに門へと向かい、門番に話しかけた。
「この人混みは一体全体どうしたんですか?」
「今、お城で会議を行なっておりまして、護衛や、伝令の方々です。それでクラミ様……お城に入りますか?」
さすがに入れる雰囲気でも無いので、断り、どうしようかと黄昏れていると門番が話しかける。
「クラミ様、もしお暇であれば第二城壁に、騎士達の修練所がありますので、そこで剣を振られたら如何ですか?」
と、門番はクラミの腰に下げている剣を見ながら言う。クラミはその提案を喜んで受け入れ、道のりを尋ねた。
門番が案内をしようとすると、周りの騎士から肩を掴まれ止められた。
ボロボロの門番に案内され、修練所へとたどり着くと、門番は血に染まった歯が印象的な笑顔を見せて帰って行った。
(…………なんだかな~)
クラミは若干、ヒキ気味に後ろ姿を見送り、建物の中へと入っていく。
そこで老騎士から剣の握り方、振り方を習う。
そして、修練所いる騎士達と模擬戦を行ない、全勝をあげるが――
「素晴らしいお力です! ただ……クラミ様は剣の腕は…………才能はありませんな」
老騎士の一言に落ち込むクラミであった。