5-1 ②
「っふ~んフフ~フフ? フフん~ふ!!」
タオルを片手に、城の廊下を間抜けな鼻歌を歌いながらクラミが歩く。その体からは湯気が立ちのぼり、風呂上がりだと容易に想像が出来る。
ガッツリと体を動かし、熱い湯に浸かったことによりご機嫌の様だ。
(今日のご飯は何かな~~? お肉が良い!!)
暢気に歩き、部屋に着くと其処には先客が居た。
「リトス……さま?」
リトスは枕を抱きしめて体育座りをしていた。クラミの声を聞くと、顔を上げて見つめてくる。
「……お帰りなさい。何処に行っていたの?」
その声には元気が無い。それだけじゃないと感じるクラミだが、どうすれば良いのか分からずに、ただ返事をしていくしか出来なかった。
「庭園で体を鍛えていました……よ!」
取敢えず、クラミは笑顔をと力瘤を見せる為に細腕に力を込める。
「細い腕ね……」
その一言にショックを隠しきれないクラミ。幾ら鍛えても見かけの変わらないこの体に、嫌気がさしていた。そして彼女の何気ない一言……クラミはリトスの隣に倒れるように腰を落として項垂れた。
そんなクラミを見つめながらリトスは懇願する。
「ねえ、クラミ。…………冒険者を止める気は無いかしら?」
弱々しい声で聞いてくるリトスにクラミは、にかっ! と、歯を見せながら笑い、胸の内を吐露する。
「リトス様が俺の事を心配してくれるのは嬉しいです! でも、この街で生活してまだ短いですが、守りたい人達が居ますから」
「…………」
「それにこの街はリトス様の街ですからね、体を張って頑張りますよ! だから……心配しないで下さい! リトス様の為に頑張りますから」
「私の為を思うなら頑張らずに、ここに居ること……何だけどね」
リトスはクラミの胸元に顔を埋くめてぼやく。クラミはリトスを抱きしめて背中を摩り、頭を撫でて落ち着かせる。
(ねえ、クラミ。貴女はどうしてそんなに……)
「クラミ、コレが紹介状になるから持っときなさい」
クラミは口に肉を頬張り、肯く。
先ほどまでの弱々しさは既に無く、何時も通りのリトスがクラミと向かい合って座っており、手紙を認めると、クラミに渡す。
「この手紙は何ですか?」
「ただの紹介状よ。この手紙を持って明日、街一番の鍛冶屋……スィデラスってお店で武器や、防具を揃えてきなさい」
クラミは慌て手を振り、自分の状況を説明する。
「あ、あの! お金が無くて……折角なのですが……」
「心配しなくても大丈夫よ。この手紙には代金は領主持ちって書いてあるから」
さすがにそれは!? そう思うと手紙を帰そうとするが――
「それを受け取らないと、冒険者登録を領主権限で剥奪するわよ」
「ええええ!? リトス様、横暴ですよ」
「ふふ。安心しなさい。出世払いだから、期待してるわ」
クラミはリトスにお礼を言って食事を堪能し、何時もの様に一緒のベッドで眠る二人であった。
日課のトレーニングと朝食を済ませると、執事が荷物を持ってやって来る。
「クラミ様、こちらが地図と……この剣もお受け取り下さい」
「昨日の剣ですか……本当に貰って良いんですか?」
クラミは執事を見ながらそう聞くと、笑顔で答えてくれる。
「勿論で御座います。この剣は私が先々代のブレ家当主、リトスお嬢様の祖父から顕彰された一振りで御座います」
その一言により、クラミは顔を引きつらせて思う。重いと。返したいが……そんな事言える雰囲気でも無く、お礼を言い、剣帯を付けて腰に装備した。
(見た目は地味だけど……剣を装備するって良いな~)
見た目は真っ黒の鞘に収って、装飾品などは一切無い。鞘から抜けば、鍔の近くにブレ家の紋章が刻まれている。
クラミは剣を少し抜いたり、刺したりしながら、鍛冶屋スィデラスを目指すことに。
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鍛冶屋のスィデラス
スィデラスは、ギリシャ語です。意味は鍛冶屋…………
鍛冶屋の鍛冶屋とか意味不明な名前です。
本当にありがとうございます。