4-3 ③
「さてと……帰ろっか」
「そうですね。こんなに稼げたので充分ですね」
三時間ほど飼料を集めつつのゴブリン狩りを終え、飼料を売りに街へ戻る。先ほどと同じ額の銅貨十枚を貰い、ソフィアは孤児院に寄付すると言い孤児院へと向う。おばちゃんに銅貨十枚を渡すと、子供二人がお礼の声を「アル姉ぇよりぺったんこのお姉ちゃんありがと!」「ぺたんこぁぁぁ! ペぇぇぇたぁぁぁぁ!」と、上げる。
ソフィアがお昼の子供二人と戯れているのを横目に、おばちゃんがクラミに話しかけてくる。
「全くあの子達は……それよりも、なんだか悪いわね」
「気にしないでください。それよりも……アレ止めなくても良いのですか?」
クラミが指さすその先には、子供が高だと持ち上げられていた。
「いいのよ。男の子だからね。」
(あぁ! 好きな子に悪戯して気を引くってやつか……)
クラミがしみじみとした目で見ていると、
「それよりも、アルのことだけど……」
「アルさんが、どうかしたんですか?」
おばちゃんは瞑目し口を閉ざし、息を吐きながらクラミを見る。
「いえ…………ただ仲良くして欲しいのよ。あの子人見知りが激しくて友達も居ないだろうし」
「それだけですか? 全然構いませんよ。たまには遊びに来ますので」
クラミの言葉を聞きおばちゃんは爽快な笑顔を見せて来る。
「何時でもおいで。そん時は、またお昼をご馳走するよ!」
荒れ狂うソフィアを落ち着かせて孤児院を後にするクラミとソフィア。
★
「まったく! 酷いと思わないクラミ!」
東門に在るギルドを目指して歩くソフィアの口から愚痴が漏れる。
「まぁまぁ~相手は子供ですから……ね?」
「うぅ分ってるよ……分ってるけどね」
ギルドに着くとソフィアは乱暴に扉を開けて、落ち武者の様なヘアースタイルのギルドマスター見つけるなり、「ハゲ! 少し話があるんだけど」と、口論しながら部屋の奥へと消えていく。
それを見つめるクラミの表情は硬い。
(何だろうねこの感じ。胸の奥からゾワゾワする感じは……嫉妬か?)
嫉妬を抱いてる自分を鼻で笑い、ソフィアを見送った後、受付嬢にモンスターコアを十三個渡す。
「……コレはちょっと買い取りできませんが、よろしいでしょうか?」
受付嬢が見せてくれた物はクラミがナイフでひび割れを付けたコアだ。
「あ、はい。問題ないです。そちらで処分お願いできますか?」
「承りました。それとクラミ様、ランクアップできますので、プレートをお預かりしても宜しいでしょうか?」
その言葉を聞き腰に付けている袋から木でできた冒険者プレートを取り出し、受付嬢に手渡す。
十分ほど待つと受付嬢から、銀貨三枚と木のプレートを受け取る。
「まだ木のままなんですね」
クラミが頭を下げ、落胆しながら言うと
「クラミ様は今回の昇格でG→Eへとランクアップいたしました…………たった一日すごいです! 直ぐに次のランク、Dに上がれますよ!」
「そ、そうなんですか、ありがとうございます。それでDランクに上がるためには、どうすれば良いんですか?」
今までの業務的な態度が一変して、少し砕ける。受付嬢は恥ずかしさを紛らわす様に咳払いをし、クラミを見ながら説明をする。
「ぅん……失礼しました。それでDランクに昇格条件ですが、オークのモンスターコアを二十個集めるのが、条件になります」
「オークって豚でしたっけ?」
クラミは自分の鼻を人差し指で押えながら聞くと、受付嬢は口元に手を当て微笑みながら
「二足歩行の豚ですね」
と、クラミの真似をしながら答えてくれる。
そんな可愛い仕草の受付嬢に質問を続けるクラミ。アイテムボックスの話しになると、習得の前に魔力を測らないといけないと言われ、別室へと案内される。
受付嬢に案内された先は四畳ほどの狭い部屋で、中は机とその上に水晶が置かれているだけの質素な部屋だ。
「クラミ様ここに手を当てて下さい」
言われるがまま水晶に手を乗せると無反応だった。焦るクラミは受付嬢を見ると、
「……この水晶では魔力が測れない……!? あのクラミ様、明日もギルドに来る予定はありますか?」
「はい。仕事を選びに来ますが……どうかしたんですか? それに水晶が無反応ですが」
受付嬢は、クラミを落ち着かせるように笑顔を見せる。
「この水晶は簡易版でして、魔法を習得出来るほどの魔力があれば光るんですが、魔力が大きすぎれば無反応なんですよ」
「そ、それって!?」
クラミは驚愕した面持ちで、手を乗せている水晶を見る。
「はい。クラミ様の力が大きすぎて測れません。ですので、明日には正確に測れる水晶を準備いたします」
「ヨロシクお願いします!」
大げさに頭を下げる、ギルドのホールへと向う。
★
「おかえり~どこ行っていたの?」
「ただいまソフィア。ちょっと魔力を測りにね」
クラミは嬉しそうにニヤニヤと笑いながそう答える。ソフィアがたまらずに聞くと、
「なんでも、魔力が測れなくて、明日、正確に測れる水晶でやるんだって」
「へぇ! すごいね! まぁ~クラミがそのぐらい魔力があるのなんて戦い方を見れば、直ぐに分るんだけどね!」
クラミの圧倒的な力を見ているので、身体強化をしているのが分っているソフィア。
嬉しそうなクラミとギルドを出ると明日の事で相談する。
「クラミ、明日は私、一緒に仕事ができないんだよ。だから! 絶対に街から出たらダメだよ!」
浮かれているクラミに釘を刺すソフィア。クラミもそこまで馬鹿でも無いので顔を引き締めて肯定する。
「勿論分ってますよ。明日は街で雑用をする予定です」
「そっか。それを聞けて安心だよ」
「ソフィアは何するんですか?」
クラミの問いに顔を顰め
「森の調査だよ。最近ゴブリンが多いから~。今日だって幾ら森に近いからと言っても、あんなにゴブリンが出るとは……」
「もしかして大変な事が起きているんですか?」
ソフィアは笑顔を見せて「大変って言ってもゴブリンだしね~」と、余裕そうに言うのでクラミも気にしない事にした。
クラミは「特にやることも無いのでお城に帰ります」と、言うと、ソフィアはギルドにまだ用事があるらしく、クラミの荷物、血まみれの服をアイテムボックスから出して、建物の中に入っていく。
お城に帰ると、メイドに血まみれの服を見せて相談するクラミ。
「洗濯すれば……まだ着られますよね?」
メイドは顔を顰めて、重い口を開く。
「クラミ様、ボロ布にして新しい服を買って下さい。もし、金銭面で厳しいならリトス様に、ご相談なさいますから」
「明日、新しい服を買ってきます。」
さすがに領主の客人にそんな服を着たまま彷徨いて欲しくないメイドは、クビを覚悟で言うが、クラミはあっさりと了承したので内心、安堵のため息を漏らす。
そんなメイドに食堂まで案内され、何時ものようにリトスと食事をする。
「今日はゴブリン狩りをして、Gランクから一気にDランクに昇格しましたよ」
クラミは嬉しそうに今日の出来事を話すがリトスの様子は――
「おめでとう、クラミ。でも、あまり危険なことはしないようにね」
リトスは赤い顔を逸らしながら話し、食事を終えると、「まだ仕事が残っているの、お先に失礼」と、言い残して食堂を後にする。
クラミはお茶を飲んで一息つき、食堂を出るとメイドに風呂場まで案内される。
「…………先にリトス様が居たりしませんか?」
「いえ、リトス様は既にお召しました。どうぞ、ごゆるりと」
その言葉を信じてお風呂場へ。
浴槽の湯は温いが、異世界に来て初めてのちゃんとした入浴。頭と体を丹念に洗い、雑念を捨てる。昨日の事件や、今浴びているぬるま湯が、たとえリトスと言う美少女の残り湯だとしても、雑念を捨てる。そうしないと――
タップリ一時間以上、久しぶりのお風呂を堪能したクラミは部屋に戻る。
クラミの目の前に広がる光景に絶句した。
「あの……リトス様。何をしているんですか?」
リトスはベッドに置かれて枕に顔を埋くめて、足をパタパタと、バタ足の様に忙しなく動かしている。ネグリジェを着た姿で。
「…………」
無言のままバタ足を止め、枕から顔の半分だけを覗かせてクラミを見つめてくる。
「その、リトス様。パンツ、見えてますよ」
リトスは枕に顔を埋めて、慌てて捲れ上がったネグリジェの裾を片手で直すと、枕を両手で抱きしめてベッドの端へと転がる。
これ以上話し掛けて、幼児退行が進んでも困るので、クラミはベッドの空いたスペースで眠ることにした。
「おやすみ、リトス様」
リトスは少し離れた所からクラミの袖を掴む
「おやすみなさい。くらみ」