4-2 ②
「あ、どうも昨日ぶりですね」
クラミはブロンド髪の少女に軽く挨拶をするのだが
「そんな事よりも怪我とか無いのですか!?」
ゴブリンの返り血と説明し落ち着かせる。少女は落ち着きを取り戻しクラミに服を提供すると言ってくるが、それを受けて良いのか判らずに沈黙しているとソフィアが口を開く。
「お言葉に甘えなよクラミ。それにお礼も兼ねての事でしょ?」
少女も小さく肯き、三人で孤児院へと向う。クラミの右側にソフィア、左手にブロンド髪の少女と、両手に花を侍らしていると――
「あ、そうだった。私はソフィア・オリキオ。で、こっちが――」
ソフィアが少女の顔を覗き込む様に挨拶し
「クラミです。蔵美 善十郎と、申します」
クラミが深々と頭を下げて挨拶をする。
「クラミ……クラミさんですか。私はアルモニア・ピスティスです。アルと呼んでください」
少女はハニカミながら両手をお腹の前で組みお礼をすると、アルの大きな胸が左右から圧迫され強調される。クラミの視線は否応なくそのお胸様に注がれていく。
「ねぇクラミ……どうして胸ばかり見ているの?」
アルはその事を知ると頬を赤らめて俯き、ソフィアの質問に顔を背けて、聞こえなかった事にするクラミは、ソフィアに軽く脇腹を抓られ、涙目になりながら歩いていると孤児院に着いた。
アルの案内の元、教会の隣に建てられた孤児院に入ると「わぁぁぁぁぁ!」「キャァァァァァー!」と、言った具合に孤児院から少年少女の叫び声が木霊する。
「コラ! 何の騒ぎだ……い…………ちょっとアンタどうしたのその格好は! 怪我は無いのかい!?」
叫びを聞きつけた中年シスターがクラミを見ると、目を大きく開き震えながら口に手を当てている。ゴブリンの返り血だと説明し、怪我無い事を告げると風呂場に案内された。風呂場とは言うが浴槽も無く、石で出来た無機質な部屋だ。そこにアルがタライに水を入れて持ってきてくれたのでお礼を言い、一人になると一糸纏わぬ姿となる。
クラミは先ほどソフィアから借りたタオルで全身を拭き、地面に置かれたタライに頭を入れて髪を洗っていると背後から声を掛けられた。
「あのねクラミ、人それぞれお風呂の入り方があるんだろうど……その洗い方だけは無いよ」
タオルと着替えを持ったソフィアがため息混じりに言ってくる。それもその筈、今のクラミの格好は全裸で蹲り、お尻を高々と掲げタライに頭を入れている状態だ。
「きゃあーーー。」
棒読みの悲鳴を上げつつ、クラミは立ち上がり両手で下半身を隠すが、そこにあるべき『棒』と『玉』が無いことに哀愁を感じていた。
ソフィアは特に反応することも無く無表情でクラミに近づくと、鎖骨辺りを指で撫でる。
「あ、あのソフィア、どうかしたんですか?」
クラミが不安げに聞いてくると、ソフィアが冷たい視線で見下ろしてきた。
「ねぇ、クラミ。ここにキスマークの跡が付いているけど……どうしたのコレ?」
答えは決まっている。リトスに吸い付かれた……なんて言える雰囲気でも無く、目を泳がせていると、ソフィアが反対がに唇を付けてくる。
「ソフィアさん、ナニヲナサルノデスカ?」
「私もクラミに付けたいの……ダメかな?」
クラミの肩から顔を上げ、耳元で囁くソフィア。
「嫌じゃ無いですけど――」
クラミが言い終わる前に背中に手を回して首元に吸い付くソフィア。クラミは目尻に涙を溜めながら顎を上げ首を傾ける。
その仕草が自分を受け入れている事だと知り、ソフィアは嬉しそうな声を漏らし何度も何度も、クラミの首筋に自分を刻んでいく。
「あ、あのねクラミ。その……着替えとタオルはここに置いとくから!」
ソフィアがクラミの首元に付いた赤い痕を目尻を下げて見ていると、急にその場から逃げ出した。
クラミはそれを止めようとせずにその場に座り込み、濡れた首筋を撫でる。頭にまで響く胸の鼓動を押えるためにタライの水を頭からかぶり、煩悩を洗い流す。
(この世界の女の子って皆、積極的過ぎるだろ! いや……ただ単に俺が経験が無いだけか? そもそもリトス様もソフィアさんも女の子が好きなのか!? 俺って今は女だけれど元は男だし…………知られたら不味いか? 取敢えず無かったことに――)
「あのクラミさん、どうかしたのですか? そん所に座り込んで」
「ひゃい! 何でも無いです! 直ぐに出ます!!」
アルの声で我に返り、慌てて体を拭き着替えるクラミ。そんなクラミに申し訳なさそうに、アルが口を開く。
「すみませんクラミさん。その服は私の古着でして、こんなのしか無くてごめんなさい」
アルが大きな胸を揺らしながら謝ってくる。あの大きな胸を包んでいた服を。垂れ目の美少女の服を今、自分が着ている! そう思うと笑顔を見せてサムズアップするクラミ。
「全然気にしませんよ! 新しい服を弁償しますよ!」
「いえ! そんな悪いです……そのまま返してくれて良いです」
その言葉に渋々納得するクラミ。アルは思い出したようにクラミを見て喋る。
「そろそろお昼だから、もし宜しければこちらでお昼ご飯どうでしょうか?」
不安げな表情で聞いてくるアルにクラミは
「え? 良いんですか?」
「是非! それじゃ~食堂に案内しますね!」
クラミの手を嬉しそうに握り、食堂に案内するアルであった。
ソフィアは風呂場から逃げ出すと顔を押えて床に蹲る。「ああ、何で私はあんな事をしてしまったのだろ」と、自己嫌悪に陥る。
「ソフィアさんどうかしたのですか?」
お昼ご飯に誘うためにクラミの元へと、向っているアルに声を掛けられる。
「何でも無です」
「そうですか。あの、ソフィアさん。もし宜しければお昼でも一緒にいかがですか?」
アルの顔をマジマジと眺めながらソフィアは肯く。
「良かったです! この先、突き当たりを右に行くと食堂です。先に待って下さい! 私、クラミさんにも声を掛けてきますね!」
そう言い残しクラミの元へと向っていった。
(アルモニアか。可愛くて胸も大きいけど……クラミの時みたいに胸が高まったりしなよね。私は女の子が好きって訳じゃ無いよね、やっぱり。クラミが特別なのかな?)
ソフィアは考える。
クラミのそばにいると自分が、自分じゃなくなる。おかしな感覚に苛まれていたが、クラミと距離を置く気にもなれない。胸の奥にまで染み渡る何かを不安に思いつつ、食堂へと向っていた。