4-2
(それにしても……力が強くなっているよな"これ")
クラミは己の右手を握ったり開いたりしながら、体は仰向けなのに後頭部はを天に向けて倒れたゴブリンと、血だまりに寝そべる亡骸を見つめながら考える。
ここ数日で何回かゴブリンと戦っているが、ここまで凄惨な事にはならなかったのだが――
「それじゃーコアを抜きとるよ。やり方はわるかな?」
その問いに首を振ると、ソフィアはアイテムボックスからナイフを取り出すと、首の無いゴブリンを地面に倒して逆手に持ったナイフを胸に突き立てる。ゴブリンの胸の真ん中辺り、15センチメートルほど切り込みを入れると、トングのような道具を突き入れ血の滴るコアを取り出す。
「クラミも自分が倒した分は自分で抜き取ってみようか」
「……はい。」
クラミの顔が歪むので心配になったソフィアが「私が取り出そうか?」と、言ってくるが女の子にこんな事をやらせて自分は見ているだけとか……意を決してナイフを借り、仰向けに倒れたゴブリンの元へ歩を進める。
(魚なら捌いたことがあるし、大丈夫、うん、俺大丈夫)
片膝を付、ナイフを両手で逆手に持つと頭上高く掲げ、剣先が空を指す。
「ね、ねぇークラミもっと力を抜いても良いから」
「はい。せい…………はぁぁ!」
かけ声と共にナイフを思いっきり叩き付けると、刃渡り20センチメートルの刃が深々と突き刺さり、ゴブリンの手足が跳ねる。
「ちょっと待ったぁ! 力を抜こうよクラミ!」
「はい! せいっ破ぁ!!」
けしてソフィアを無視しているわけでは無い。ただ……ただ緊張して言葉を理解してい無いだけなのだ。
そしてクラミは全力で下半身に向けて切り裂くと――
「うぎゃぁぁ! な、な、何じゃこりゃぁぁぁ!!」
ゴブリンの体がどういう構造をしているか知らないが、切り開かれた胸から血が噴水の様に飛びだし、絶叫と共にクラミは朱く染まる。
「だから言ったじゃん。はいコレで顔を拭きなよ」
クラミが凶行に走る前に、その場から逃げたソフィアが濡れたタオルをクラミに手渡す。
「ありがとうございます。ひどい目に遭った……」
ソフィアから受け取ったタオルで乱暴に顔を拭き、自分の服を見ればひどい有様だ。だがコアを取り出し売却すれば新しい服を一式買ってもお釣りが来る。
そう自分に言い聞かしコアを抜き取れば、ひび割れていた。クラミは不安げな表情でソフィアを見つめると、瞑目し無言で首を横に振られた。
「…………もう一体の方はどうする? 代わりに私がやろうか?」
「いえいえ……この有様ですからね。次はちゃんと取り出します」
ソフィアの注意を受け、もう一体の血だまりに眠るゴブリンの体から、コアを奇麗に抜き取ることに成功した。
その後は血まみれの服を着たクラミを心配そうに見つめていたソフィアに、帰るか聞かれるが、断り、篭が一杯になるまで飼料を集めて街に帰ることに。
「ふぅー。ゴブリン、出ませんでしたね」
「最近はゴブリンが多いし、森からも近いからもう少し出ると思ったんだけどね……」
「結局コアをお互い一個ずつ……コレも併せれば、稼げた方ですよね?」
クラミは背中に背負う篭を指しさしながら聞いみる。
「うーん。今はリトス様の所お世話になっているんでしょ? もし独り立ちすると……食事代と宿代を払って、残りは装備を整える資金に充てるとなると……もう少し稼ぎたいね」
その言葉を聞き、今の自分が置かれている立場が恵まれている事を実感するクラミ。それと同時に早く自立する為に決意を新たに気合を入れる。
「コレを売ったら、もう一度ゴブリン狩りをしたいのですが」
「いいよ。でもその前にお昼ご飯を食べてからだね~。それと服はいいの?」
「また汚れたら勿体ないですからね。新しい服と装備を買うために頑張りますよ!」
因みに、クラミが背負っている篭をアイテムボックスに仕舞えないのか聞いてみるが、「甘えたら駄目だよ。頑張れ新人くん!」と、言われた。
(面倒見は良いけど……違うか面倒見が良いから甘やかさないのか)
そんなこんなで畜産の建物に着き、クラミの姿を見てドン引きする人に集めてきた飼料を売ると、銅貨10枚になった。それを嬉しそうに袋に仕舞い、門をくぐり門番に挨拶すると又もやどん引きされる。
「この格好……そんなに酷いですか?」
「酷すぎだよ。その格好で街中なんて歩けないね普通なら」
ソフィアの至極真っ当な意見に唸るクラミは、顎に指を掛け悩みながら歩くと――
「キャァァーー!」
ブロンド髪の少女に悲鳴を上げられ着替えることを決心すらが、服を取りに行くのも面倒くさいな~思っていると、その少女がクラミの元へと駆け寄ってくる。
「あ、あの大丈夫ですか!?」
昨日、暴漢から助けた少女が瞳を大きく開け目尻に涙を溜めながら聞いてきた。