4-1 ②
「そういえばソフィア、私と仕事していて良いのですか? こちらとしては有り難いのですが、自分の仕事は大丈夫ですか?」
「平気平気! 私はお金持っているから~大丈夫」
「うわぁぁ……うわぁぁ~」
クラミが羨ましそうに呻き、ソフィアはどや顔で歩いて行く。ソフィアとしては仕事よりも何故か気になる、クラミの事が心配で一緒に行動していた。
雑談しながら歩くと直ぐに南門に着き、西に向けて歩き出す。このまま歩を進めれば森に着くが、そこまでは行かずに、人が余り来ない場所で飼料を採りながらゴブリンを狩ることに。
「人がいませんね」
草が鬱蒼と生い茂り、まばらに木が生えている辺りを首を振りながら見渡すクラミ。ソフィアはアイテムボックスを展開し、大きな篭を取り出すとクラミに渡しながら口を開ける。
「森が近いから飼料を集めに街から来る人はいないし、冒険者も西の門から森に入った方が近いし、安全だからここには来ないね」
ソフィアの話しを聞きながらアイテムボックスを羨ましそうに見つ目ていたクラミは、近くの木に移動して地面に落ちている木の実を拾う。
「クラミもアイテムボックスを覚える? ギルドで確か……銀貨10枚で習得できるよ」
クラミの視線に気づいていたソフィアは、木の実を拾いながらそう口にする。それに対してクラミは、肯きながら
「その前にお金ですね。今の手持ちが銅貨2枚だから……ゴブリン次第ですね」
「2枚!? 宿に泊まっていないのに……何に無駄遣いしたの?」
ソフィアの剣幕に押され、弱腰に語り出す。広場で青白い奇麗な石が付いた髪留めを買ってリトスにプレゼントしたと話すと――
「それって……ムーンストーンを上げたの!? クラミとリトス様ってそういう関係なの!!」
「ゾ、ぞふぃあぁ゛ぁ゛ーー」
両肩を捕まれ思いっきり揺さぶられるクラミは、まるでヘヴィメタルバンドが魅せるヘッドバンキングの様に頭を激しく振り髪が荒れ狂う。
ソフィアの激しい尋問の末に口元を押えながら涙目でソフィアを見つめ
「ム゛ー゛ン゛ス゛ト゛ー゛ン゛っ゛て゛な゛ん゛で゛す゛か゛……ううっぷ」
「ご、ごめんね? ちょっと吃驚して……だ、大丈夫かな」
クラミは四つん這いになり茂みに栄養を与え、その背中を摩りながらソフィアは肩身を狭そうにしていた。
「そ、それでムーンストーンって何ですか?」
ソフィアが手渡した濡れタオルで顔を拭きながら質問するクラミ。
「そうだね……『愛を伝える石』『恋人達の石』と、言われていて……その、恋人に贈ったり、プロポーズする時に贈る石だけれど……知らなかったの?」
「OHHH」
クラミは奇声を洩らしながら両手を頭に抱えて蹲る。
「ま、まぁ~でも、贈られたのを身に付けないと断ったことになるから――」
その言葉を聞き、蹲ったクラミが小刻みに震え出す。
「付けていたの? えっ! 嘘だよね……」
返事がない。ただの現実逃避のようだ。
「クラミ、大丈夫だよ! あの……気を遣って付けているだけだよ」
「で、ですよねぇ! そ、それよりも飼料を集めましょうか……」
顔を赤く染めたクラミは一心不乱に木の実を集め、草を手で毟り取っていく。考えないように、何も考えないように――
(あの石がプロポーズに贈られるもので、風呂場にまで付けてきたリトス様……しかも"あの"事件――落ち着け、あれは夢だった。うん! ゆめだだだだ)
顔を綻ばせ思考が停止したクラミを面白くなさそうに見つめるソフィアは、胸の内から溢れ出るどす黒い感情に困惑する。
沈黙のままお互いに作業をしていると、クラミが険しい顔で立ち上がり辺りを見渡す。
「臭いな……なにか居ますよソフィア!」
生い茂る草むらを睨み付けるクラミはソフィアを見ずに注意を促し、腰を落としていく。
「どうしたの急――」
その言葉を発している最中に気づく――何かが居ることを。ソフィアは冒険者としての腑抜けっぷりに忸怩たる思いに苛まれるが、反省は後でできるとその思いを切り捨て、アイテムボックスから全長30センチメートルの短剣を二刀取り出せば逆手に持ち、目を細めて構える。
「ギャ! ギャァ!」
潜んでいたのがバレたとみて、鳴き声と共にゴブリンが現れる。前方、左右から一体ずつ。3匹のゴブリンに囲まれていた。
「クラミ何か武器は必要? 短剣と長剣なら有るけど」
クラミは首を振り、ソフィアに一瞥し、前方のゴブリンへと駆け抜ける。
圧倒的だった。
クラミは目の前に迫るゴブリンに速度そのままに突っ込み、左足がゴブリンを半歩追い越して足を踏ん張りブレーキを掛け、勢いが止まらない右半身を回転させるように捻り、拳を振り抜く。
声を上げる暇もなく絶命するゴブリン。頭が180度回転して顔面から倒れ、それを見た仲間の一匹は逃げだそうと後ろを振り向き、もう一匹は雄叫びを上げクラミに向って顔を歪めて走り出す。
クラミは慌てることもなく足下に落ちている棍棒を拾い、両手で握り片足を膝の上まで上げ全身に、特に腕に力を溜め込む。そして走って来るゴブリンの顔を目掛けてフルスイングをすれば、下顎から上が無くなったゴブリンが血の雨を振りまきながら踊るように回り、倒れる。
「うわぁぁ~話しには聞いてたけど…………エグい戦い方をするねクラミは」
茶色の服が朱い斑模様のに様変わりした服を着たクラミがソフィアの方を振り向くと、首の無いゴブリンが立っており、その足下には緑のボール。
クラミは(ソフィアも人の事言えないじゃ?)と、思いながら顔に付いた血を手でぬぐっていく。
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今更ですが、クラミが一人称で『私』と、言っているのは敬語を使っているからです。本当に今更です。
この章が終わったら、クラミを改造したいと思います。
もう少々、主人公らしく『脳筋』って感じでヒロインに軽く接しられるように個性を出せれば良いなと。