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4-1

 

クラミが目を覚ますと何時(いつ)ものようにリトスが手を握っている。その寝顔を極力見ないように手をほどき、ベッドの横の机を見ると奇麗に洗濯され畳まれた服が置かれていた。

 それを手に取り着替えれば何時ものトレーニング姿となり、眠っているリトスに「行ってきます」と、呟くように声を掛け、音を立てずに部屋を出て行く。


 クラミが部屋から出たのを確認して起き出すリトスは、小さな欠伸をしてベッドから這い出る。近くの髪留めを髪に付けて、クラミが使っていた枕を抱きしめて鏡を見つめていた。


「はぁ~どうしよ。庭園にはクラミが居るのよね」


 枕に顔を埋めて羞恥に悶えるリトス。昨日のお風呂場での事や、ドアの隙間から見てしまったクラミの痴態。

 ため息をつきつつ、今日は中庭でトレーニングをすると決め、枕を抱きしめたまま自分の部屋へと戻るリトスであった。




「ありがとぉぉぉございますぅぅぅ!!」


 メイドにまとめて貰ったポニーテールを揺らしながらクラミがランニングから帰ってくると、兵士が絶叫の雄叫びを上げる。ちゃんと下着を着けているのに――疑問に思うが、取敢えず会釈だけしてリトスが居るであろう庭園へと向かい、そこでトレーニングを熟そうとするが、リトスは居らず安堵のため息を漏らす。


(昨日は何も無かった。昨日は何も無かった。昨日は何も無かった。昨日は、普通にお風呂に入ってベッドで寝ていた……うん。夢だな)


 記憶を捏造し煩悩を打ち払うべく体を、筋肉を苛めていく。何時もの花壇の岩を持ち上げ筋トレを行うが――


(絶対に軽くなっているよなこれ()……筋肉が付いているのか? いやいやいや、半日で付く訳がないし、見た目も変わっていないけれど……加護の力なのか?)


 細い腕も揉みながら懐疑心を持つが、考えてもしょうが無いと切り捨て、筋トレを行うクラミ。

 メイドに呼ばれたので筋トレを止め、部屋に戻り汗を拭き、麻で作られた半袖とロングスカートを穿いて食堂へと向う。


 食堂には既にリトスが席に着きお茶を飲みながらクラミを待っていた。挨拶をすると返事をくれるが、顔を合わせようとしない。昨日上げた髪留めを付けてくれているのに気づき、そのことを言うが――上擦った返事が返される。


 食事を終え、何時もならマッタリとお茶を楽しむのだが、リトスは直ぐさま立ち上がりクラミ「仕事があるから」と、言い残して食堂を後にする。


「乙女ですな……クラミ様、今日もギルドですか?」

「ええ。昨日立ち会った女性、ソフィアさんと一緒に仕事をしてきます」


 執事に見送られながら城を出る。第一、第二城壁のメインストリートは、相変わらず人気がないので良いのだが、市壁の中に入ると、どうしても視線に晒される。


 早足で駆けギルドを目指す。ギルドに付くと深呼吸をして、扉を開け部屋を見渡す。

 ギルド内部の半分は職員スペースの窓口で仕切り、もう半分は冒険者同士が話し合いや、相談できる机や椅子が並べられている。

 その奥の一角に頬杖を付いている、桃色に染まった髪の少女ソフィアがいた。

 クラミが歩いてくるとギルドにいる冒険者が騒ぎ出すが、ソフィアは我関せずと、言った具合にぼーっとしている。


「おはようございます、ソフィア。待たせてかな?」


 ソフィアの前に立ち笑顔を見せるクラミ。ソフィアは顔を上げて微笑む。


「おはよ、次からはもう少し早くにくるんだぞ~」


 挨拶を交わし席を立つソフィアは、出口へと向かいそのまま扉に手を掛ける。

 クラミは慌てて口を開く。

 

「仕事受けないのですか?」


 近くの張り紙を指さしながら首を傾げるクラミ。リトスは肯き、手招きをしてギルドから出る。クラミもいその後に続く。


「今日はゴブリンを狩るよ」


 背筋をぐぅ~と伸ばしながら気軽に言うソフィア。


「装備が無いけれど良いのですか?」

「今日は私が付いているから大丈夫。でも、一人のときは駄目だよ。幾ら素手で倒せるからと言っても危ないから、装備が整うまで絶対駄目」


 歩きながら手を×の字にして首を振るソフィア。クラミは肯き気合を入れる為に、自分の両頬を数回叩く。


「狩りと言っても、街の外に出て畜産の飼料を集めて、そのときに遭遇したら狩るんだよ。紛らわしい言い方でごめんね?」


 苦笑しながら言うソフィア。それを聞き肩から力が抜けていくクラミは、疑問を投げ掛ける。


「飼料集めって昨日のですか? それなのに仕事受けないのですか?」

「昨日の場所は騎士が安全を確認した場所で、今日行くところは人が余り来ない場所だよ。それと、集めた飼料を直接、畜産の建物に売るのは南地区に住んでいる人が日銭を稼ぐときにやってるんだよ」


 なるほどと肯くクラミ。もしゴブリンが出なくても飼料を売ってお金が入るし、ゴブリンが出れば銅貨二十五枚のボーナス。昨日一日の稼ぎを一瞬で越える金額に胸が高鳴るクラミであった。


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