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3-6

 

 城に着き、借りている部屋まで自力で帰る事に成功するクラミ。やることも無いので筋トレをするために、服を脱ぎベッドに置き、朝と同じ白のタンクトップに黒のホットパンツ姿に着替えて庭園に向かう。

 充分にストレッチをして体を解し、花壇の岩を借りる。大きさが15センチメートルの岩を持ち上げると、心なしか朝より軽く感じる。


 不思議に思いつつ、朝と同じく体に、筋肉に負荷を与えていく。岩を胸に抱きながらの腹筋や、庭園に寝っ転がり、岩を空高く持ち上げ、脇を締めずに下ろしていく。全身を苛めていると、夕方を知らせる鐘が重く響いてくる。


「あ、あのクラミ様? そろそろ夕食の準備が整いますが?」


 クラミの奇行にメイドがどん引きしながら声を掛けてくる。ストレッチを行い、部屋に戻るクラミ。部屋には先ほど着ていた服は片付けられ、タライと着替えの白のワンピースが置かれていた。体の汗を拭き、少年の神様から貰った服を着て食堂に向う。


「お帰りなさい、クラミ」


 すでにリトスが食堂の席に座り、クラミに微笑みかける。「ただいま、リトス様」と返して、今日あったことを話していく。ソフィアと模擬戦したこと。ソフィアと仕事をしたこと。ソフィアと暴漢を退治したこと。ソフィア――


「クラミは、ソフィアって子と仲が良いのね?」


 明らかに機嫌が悪くなっているリトス。執事が咳払いをして食堂から出ていき、気まずい空気の中二人きりで見つめ合う。

 その空気に耐えきれずクラミは、先日の教訓を生かすべく切り札を切る。


「あ、あのリトス様……これを」


 恐る恐る小さな黒い髪留めを渡すクラミ。貴族のお嬢様に、これは不味いか? と、思いながらも銅貨5枚もしたそれを渡す。

 黒い髪留めには、小さな石が付いていた。リトスはその石を見ると黙り込む。クラミは失敗したかと、不安になりソワソワと落ち着きを無くす。


「クラミ、どうしてこれを私に?」

「へ? いや、初めて自分で稼いだお金なので、お世話になっているリトス様にと、思いまして……」


 その話しを聞き、髪留めを胸元で握りしめて嬉しそうに笑顔を見せてくれる。その様子に、安堵のため息を漏らすクラミ。

 リトスは髪留めを早速付けて、クラミに見せる。暫くすると料理を運んでくる執事は、リトスの豹変に驚きつつ、配膳してリトスの後ろに立つ。リトスの笑顔を見ながら夕食を食べ、お茶を飲みながらマッタリしていると、


「そういえばクラミ、街で不届き者を捕まえてくれたそうね?」

「ああ、そういえば居ましたね、3人組の男達……」


 そのことにお礼を言い、あの場所には行かないように釘を刺される。リトスもあの南西のスラムに手を焼いているらしい。

 お茶を飲み干すとリトスが立ち上がり、釣られてクラミも立ち上がる。そろそろ部屋に戻りベッドの上で寛ぐべく、リトスに声を掛ける。


「リトス様そろそろ……」

「そうね、おしゃべりも良いけど……お風呂よね」


 リトス様はお風呂か~などと思いながら食堂を出ると、メイドが立っており、クラミを誘導する。

 メイドの後をホイホイとついて行くと借りている部屋とは違う場所にたどり着き、後ろからリトスが抱きついてくる。


「お風呂、楽しみねクラミ」


 次第に思い出す今朝の事。今夜は一緒にお風呂に入る約束を。

 

(あれ? あれ本当に入るのか? お風呂で――)


 パニックになっているクラミを余所に、リトスはクラミのワンピースのボタンを外して脱がしていく。下着も脱がし、自分も裸になり、クラミの手を引いてお風呂場に入れば、そこは広々とした空間に、大きな浴槽。

 リトスはクラミを風呂場用の椅子に座らせ、浴槽から汲んだお湯を後ろから、体に少しずつ浴びせる。

 

「熱くない? 大丈夫」

「大丈……ぶじゃないです」


 クラミは両手で顔を覆い尽くしながらそう言うと、リトスはクラミの背中に両手の平と頬を押しつけて、寂しそうに呟く。


「一人が良いの? 本当に嫌なら出て行くけど」


 背中に感じる冷ややかな手の感触に、熱い吐息。


「嫌じゃ無いです。ただ、恥ずかしくて」


 後ろを振り返りながら言うと、背中に当てていた手が腰に抱きつき、顔を上げてクラミ肩に顎を置き耳元で囁く。


「このまま一緒にお風呂入っても良いの?」


 背中に押しつけられた柔らかな感触に、耳から入ってくる甘い吐息。クラミの頭の中から『断る』と言う二文字は消え失せ、後ろから抱きついてお腹の前で組まれたリトスの手を握りながら、静かに肯く。

 リトスはそれを確認すると嬉しさを表すように強めに抱きしめ、ゆっくりとクラミから離れる。

 クラミから離れると石鹸を手の平で泡立て、近くの拳程の大きさのスポンジみたいに穴の開いた黄色い海綿を湯に浸けて固く絞り、泡を付けていく。


「背中から洗うね」


 肩に手を置き、泡の付いた海綿を小さな円描くように優しく擦り付ける。初めは緊張していたクラミの背は、ピン! と伸ばされていたが、段々と力が抜け自然体となる。

 マッサージされているように気持ちが良く、顔を綻ばせれば「次は前ね」と、リトスが言葉を漏らす。


「えぇーと……自分で洗えますよ?」

「だーめ私が洗うから。えい!」


 抗議の声を上げるクラミを無視するかのように、後ろから抱きつくリトス。片手はお腹を撫でもう一つの手はクラミの小ぶりの白い丘を撫でる。海綿の凸凹の表面に桜色の小さな果実が引っかかり、そこを重点的に洗われれば抗議の声が消える。


「リトス様も……意地悪…………ですね」


 息も絶え絶えで漏らすと、リトスの手が止まり、


「どう言う事かしら?」


 ”も”と、言う、自分以外を表すその言葉に、心中穏やかでないリトス。

 そのことに気付かないクラミは、


「ソフィアも意地悪ばかりで、リトス様も……」

 

 またソフィア。自分はリトス”様”で――顔も知らない相手なのに、クラミと仲良くふざけ合っている姿が容易に想像でき、胸を締め付ける様な痛みが走る。


「意地悪なのはクラミの方よ」


 その囁きを聞いて戸惑うクラミ。リトスの行動は女の子同士のじゃれ合いだと思っていたのに…………もしかして好意なのか? 思案に表情を歪ませていると、リトスが海綿をクラミの手に押しつけて、


「交換ね……次はクラミの番」


 平坦な声だが、どこか自分を試している? そう感じると二の足を踏だり、拒否するのは悪手だと考え、直ぐに海綿を握りしめてリトスに向き合う。


「手から洗いますね」

「お願いするわ」


 差し出された手を取り、視線を上げリトスの顔を見る。顔以外に何処に視線をやれば良いのか解らないからだ。

 

「リトス様、髪留め付けたままですよ?」


 リトスの髪留めに気がつき、指摘するとリトスも気付いてなかったようだ。それを外して眺める。


「……なさい。髪留めを付けてくれないかしら?」


 クラミは髪留めを受け取ると座りながら椅子を引きずり、リトスに近づく。顔と顔の距離が近い。リトスの瞳には自分の姿が映っている――


「クラミ……」

 

 頬を赤らめたリトスが恥ずかしそうに顔を俯ける。それを見てクラミの手が動き、髪留めを付ける。


「付けましたよ、リトス様」

「ありがとう……」


 微笑みながら髪留めに触れるリトス。柔らかな雰囲気を出しながらクラミを見つめて


「本当にごめんなさい。折角、一緒にお風呂に入ってくれてるのに……」

「気にしてませんよ、それよりも体洗いますか?」


 「お願いね」と、良いながら再度差し出される手を取り、甲から洗っていく。裏返して掌を見れば、ゴツゴツとしていて女の子の手には見えなかった。

 リトスは恥ずかしそうに、


「クラミの手が羨ましいわね。私の手は――」

「素敵な手ですよ。沢山の努力が詰まっているんですね、こんな手が好きです」


 リトスは自分の手が好きだ。大切な者を奪われたけど奪い返す事のできた、この手が好きだ。

 そしてクラミも好きだと言ってくれた。今までの努力が報われたように感じ、心が満たされる。


(本当にクラミは意地悪……それなのに私は、子供みたいに直ぐにへそを曲げてクラミに嫌な子だと嫌われるわね。このままじゃ……クラミみたいに素直にならなくちゃ)


 そう思いながら、クラミに体を洗われるリトスであった。




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