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3-5 ②

「本当にありがとうございました」


 少女が一礼して建物の中に入る。その後ろ姿に手を振りながらクラミが物珍しそうに、建物を眺めていた。

 

「ここは、孤児院だね。協会が隣にあるでしょ」

「協会が孤児院を運営しているんですか?」


 ソフィアはクラミを見ながら不思議に思う。この子は知らないことが多い、貴族ではないと言っているが訳ありの、良いところの娘なんだと。顔を俯け、自分の心の中でそう決める。クラミに対して胸が締め付けるほどの思いは保護役だと納得して心を落ち着かせていく。


「ソフィアさん?」


 クラミが頭を傾けて顔を覗き込んでくる。その目と目が合えば暖かな気持ちになってくる。


「何でも無いよ~ただ、お腹すいたね!」

「今日一日、一杯お世話になったのでお昼は私が奢りますよ」


 胸を叩き笑顔で答えるクラミ。それを茶化すようにソフィアが、


「本当に良いのかな? ギルドで幾らもらえるか知っているのかな?」


 次第にクラミの顔が曇り、オロオロし出す。それが笑しくて、笑みを零すソフィア。


「お楽しみの所ごめんね、貴女達がうちの子を助けてくれたのかい?」


 後ろから突然聞こえた声に振り返り、相手を確認するクラミとソフィア。シスター服を着た中年女性がそこに居た。


「えぇと、先ほど女性を不届き者から助けましたが」

「そうかい、そうかい。本当にありがとね! 昨日も黒髪のお嬢ちゃんがゴブリンから助けてくれたんでしょ? 本当はお礼でもしたいのだけど……」


 中年シスターが後ろを孤児院を見る。クラミは手を振りお礼を断ると、シスターが申し訳なさそうに頭を下げ、せめてもの感謝の印にお祈りをして協会の中へと入っていく。


 何時までもここで立ち話するのも何なんで、歩き出す二人。今から南西の食堂に行く気がしないので、お昼を食べる前にギルドに寄る為に歩き出す。


「あの助けた子ってシスター見習いとかですかね?」


 クラミと同い年ぐらいの少女を思い出しながら話す。


「違うよ。たぶんあの子は身寄りが無いからあそこで暮らしているんだよ」


 孤児院と言っているが子供だけじゃなくて、身寄りの無い女性も暮らしているそうだ。男なら冒険者登録して、雑用でもしながら暮らせるが、女性が同じ冒険者として生活しようとしても屈強な男に屈服させられ、愛玩、慰み者にされる事も。

 そのために孤児院が駆け込み寺の役割をしている。そして孤児院を運営する資金を出しているのが街の領主。孤児院の人間に害を及ぼせば、領主に対する叛逆と見なされ重い罪が着せられると、ソフィアが語る。

 

「それじゃ~さっきの馬鹿三人組は?」

「最悪、鉱山で無期限労働だろうね。軽ければ10年位で終わるかな?」


 ソフィアの機嫌が悪くなってきたので、話しを逸らすクラミ。昨日少女を助けた話しをすれば、


「クラミの戦い方って野蛮だよね」


 ソフィアは口に手を当てて笑う。雰囲気が明るくなったから良いのだが…………自分の戦いかとを思い起こす。ゴブリンから棍棒を奪い、ゴブリンの首を掴み盾にしたり、倒れた男を鈍器として使う。


「ソフィア、剣の使い方とか教えてもらえませんか?」

「ふふ、今までどうりの戦い方で良いじゃないかな? クラミらしいよ」


 舌を口から少しだけ出してからかってくる。


「ソフィアさんって時々意地悪ですよね」


 クラミは精一杯の皮肉を込めるが、


「怒ったのかな? ごめんね?」


 ソフィアが謝ってくるが、その顔は笑顔でクラミの頬を人差し指で突きながら楽しそうだ。

 そんなやり取りをしていると、ギルドにたどり着く。ギルドの扉に手を掛けて息をのむクラミ。散々冒険者の悪い話しばかり聞いたので少し躊躇していると。


「わぁぁぁ!」

「うひゃぁぁ! ソフィアさん! そう言うの止め手くれませんか!?」


 ソフィアが背中を叩き大声を上げる。クラミは涙目で抗議を上げるが、ソフィアが両手で頬を軽くつねりながら話す。


「大丈夫だよクラミ。冒険者が今日話した馬鹿な事をするなんて稀だから。ただ信用ばっかしちゃいけよ? 解ったかな?」

ふかひまいた。(解りました)


 それを聞くとソフィアが抓るのを止めると、頬を摩りながらもの申すクラミ。頬を赤くして涙を溜めた上目遣い。心の中をかき乱すその表情にソフィアは、クラミの手をどかすように頬を摩りながら謝る。


「ソフィアって本当に意地悪ですよね」

「お前ら、そんなところで乳繰り合うなよ」


 後ろから落ち武者が声をかけてくると、ソフィアが不機嫌そうに罵り、ギルドマスターと口喧嘩しながらギルドに入る。中に入るとクラミは窓口で、仕事を終えた後に貰ったサインを見せてお金をもらう。銅貨10枚だ。

 クラミは嬉しそうに受付嬢にお礼を言い、笑顔でギルドを出る。それを見て慌てて後に付いていくソフィア。


「クラミ置いていかないでよ!」


 抗議の声を上げるが、クラミは銅貨を両手の平に置き、それを見ながらニヤついていた。


「あれ! 何で外に?」

「クラミが勝手に外に出たんでしょ! 行き成りどうしたの?」

「お金の魔力に…………」


 その言葉を聞き肩を落とすソフィア。やっぱりただの平民かなと思いながら広場に向けて歩いていく。

 広場に着き、屋台を二人で見て回る。そこでパンと串焼きを売っている屋台に目がいき、その二つを二人分買うクラミ。串に刺さっている肉をパンに挟んで貰い、銅貨4枚を支払い一つをソフィアに渡す。


「ありがとね! これは私からね」


 別の店で買った果物を搾った飲み物を渡してくれるソフィア。座れる場所を探して、雑談しながら食べる二人。食べ終わるとソフィアが立ち上がり、用事があるの帰ると言ってくる。


「明日も一緒に仕事する?」

「ソフィアさえよければお願いします。」


 「明日の朝ギルドでね~」と手を振りながら人混みに入っていくソフィア。 それに手を振りながら見送り、リトスのお土産を買うべく広場の露天を見て回る。買い物が終わると、特にすることも無いので城に帰ることにするクラミであった。



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