表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/114

2-5

短いです


 折角ソフィアが持ってきたお茶を無駄にしないように、クラミは倒れた椅子を元の位置に戻して座る。


「リトス様はまだ仕事が残っているらしく……部屋に戻りました」

「そうなんだ……?」


 棒読みで口を開くクラミを見てソフィアは首を傾げるが、追求することはしない。雇われの身でありながら、主のことを嗅ぎ回るなんてもっての外だ。

 それよりも、緊張感を与えるリトスが居なくてホッと心を撫で下ろしたのが本音である。

 決して厳しく言われたり、邪険に扱われているわけではないが――彼女の視線に肝を冷やしていた。


「ソフィア。もし、だけど」

「うん?」


 二人分のお茶を淹れてクラミの対面に座ると、彼女が神妙な面持ちで話しかけてきた。

 瞑目するソフィアはカップ手に取り、自分で入れたお茶の香りを採点しながら耳を傾ける。


「急に女の人が……機嫌を悪くしたら何ていえばいいと思いますか?」


 我ながら良い香りだと、ソフィアが満足そうに肯いてカップを口に付けて、いざ味を見て見よとした矢先にこの質問である。

 ソフィアは目を細めて、口角を釣り上げる――冷たい笑みを浮かべて言う。


「リトス様と何かあったの?」

「え! ……ち、違いますよ!? もしもの話し……ですよ」


 最初は焦っているのか、声は大きかったのだが、次第にクラミの声は消え入りそうに弱々しくなり、視線を床に逸らす。

 あまりにも嘘をつくのが下手すぎるクラミを見て、少しだけ可笑しくなる。がしかし、それよりも自分と一緒にいるのに、他の女性に意識が行ってることに対して嫉妬を覚える。


「もしもの話しだっけ? それで、クラミはどうしたいの?」


 つい語気を荒げて口を開いてしまったソフィア。内心では、これでクラミに嫌われないか不安であるが、自分の中に溜った鬱憤を抑えきれない。

 先日の、彼女に告白した際に『返事はいいの……』などと言ったはいいが、はやり答えは欲しい。

 できれば良い方の返事が。それなのに彼女は――。

 お茶を一気に飲み干したソフィアは、カップを両手で膝の上で持ち、クラミを見つめる。


「え……えっとですね」


 リトスとは違う方向で機嫌を損ねたソフィアを見て、思わず乾いた声が漏れるクラミ。

 それと同時に、彼女の質問を反芻する。

 自分はどうしたいのか? リトスと仲直りする? そもそも、リトスと自分の仲はどういう関係なのか?

 改めて考えれば考えるほど混乱するクラミは、腕を組んで首を傾げた。


「どうしたいんだろう?」


 間の抜けた言葉を聞いてソフィアは深いため息を吐く。


「私に聞くよりも、自分に聞いた方が良いみたいね?」


 先ほどまでの嫉妬心よりも、何とも言えない感情が渦巻くソフィア。彼女は空になったカップをお盆の上に載せて立ち上がる。


「それじゃ、おやすみなさい」


 お盆を持って扉の前で立ち止まると、チラリと後ろを振り返る。

 クラミは腕を組んだまま悩んでいる最中のようだ。

 何事にも真剣に取り込むクラミ。その姿勢に好意を寄せるが、できれば自分に向けて欲しい。

 ソフィアは複雑な乙女心を自分もいっちょ前に持っていたことに苦笑し、部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ