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2-3

 

 周囲の視線が、穴が開くほどクラミを見つめてくるのがわかる。わかるが、なぜか男だけが血走った目で睨むように見ていた。


「何見ているんですか!!」


 桃色の髪をした少女が周りを睨み、特に、男に対して敵意を剥き出しで睨むと、目を逸らす。

 

「あの……これを上から着てください」

「へ?」 


 頬を赤く染めた少女がそう言うと、アイテムボックスから茶色のジャケットのような服を取り出し、クラミに突き出す。

 少女から服を受け取り自分の体を見てみると、神様から貰ったような服――リトスの白いワンピースは、濡れて部分が体に張り付き、クラミの小ぶりの胸がが浮き彫りとなり、薄らと桜色が透けている。ぼけーと、自分の姿を確認していると、少女がクラミから服を取り肩から羽織らせてくれる。

 

「その……本当にごめんなさい、弁償しますので」

「十分謝ってもらいましたので――」


 クラミは考える。今の自分は、リトスの城にタダで寝泊まりし、剰え服まで借りる始末。自分が住む家を準備するのは無理だろうけど、服ぐらいなら今朝貰ったお金で買うことができると思い、少女に提案する。


「弁償よりもお願いがありまして……この街を案内してくれませんか?」

「案内ですか……? 大丈夫かな……大丈夫だよね。はい! 案内します!」

 

 自分に言い聞かせるように返事をする少女は、手を差し伸べてクラミを地面から起し、向き合い自己紹介をする。

 

「私は、ソフィア・オリキオと申します」

「蔵美 善十郎です」 

「クラミさんですか……貴族の方じゃないんですか?」 

「違いますよ! 平民ですよ! あと呼び捨てで良いですよ」

「わかったよ、クラミ。私のことも同じように呼んでね!」

 

 クラミが自己紹介すると今までの緊張が解け、笑顔を見せフランクに接してくれるソフィア。


「ソフィアさん…………ソフィア、服が欲しいのだけど、どこかに案内を、お願いできますか?」


 さん付けで呼ぶと少し頬を膨らますので慌てて呼び捨てで呼ぶ。


「クラミが今着ている感じの服だと、第二城壁になるから無理なんだけど……」

「許可がないと入れないですか?」

「そうなんだよ。だからここでなら案内できるんだけど……私の行きつけでもいいかな?」

「………………はい」


 クラミは、まじまじとソフィアの格好見る。スポーツブラ? を着て、その上から茶色の革できた半袖ジャケット、ホットパンツに、ニーハイブーツ。ジャケット以外を黒で統一した、なんと言えばいいのか…………盗賊のような格好である。

 

(ソフィアさんと同じ格好とか無理だな……)

 

 クラミが心の中でそんなことを思っているとはいざ知らず、ソフィアは行きつけの店に向けて、手を引き案内する。

 

(ふぉふぉぁぁぁぁあっぁ!!!)「ぁぁぁぁ」

「どうかしたの?」

 

 初めてのデートに、心の中で雄叫びを上げすぎ、口からも少し漏らしてしまう。

 因みにクラミにとって手を繋ぎ街中を歩く行為はデートに定義され、生まれてこの方17年、初めての体験である。リトスとの汗ふき事件及び、その後のいちゃいちゃに関しては刺激が強すぎることにより、一時封印処置をとっている。


 そんな事はさておき、心配そうに見つめるソフィアに必死に言い訳を考えるクラミ。「初デートに緊張してしまいました」なんてこと言えば、どん引きするのは解っている。自分の定義は自分の中でしか通用し無い。

 

「あ、あのですね、ぼう……けん……しすぎな……格好は……」

「冒険? 冒険者がどうかしたの?」

「…………そうです! 明日、冒険者登録するつもりなのです! そういった感じの服がいいかな? デス」

「そうなんだ! ちょうど私の行きつけは、冒険者に必要な装備、服を扱ってるよ~この服一式とかがそうなんだよ! クラミも同じ格好にする?」

(…………はぁ?)

 

 朗らかな笑顔をで聞いてくるソフィアにどう返せばいいのか、わからないクラミ。

 今のクラミは美少女だが、何年も鏡の前で続けてきた筋肉管理のせいで、本人の中では未だに筋肉に覆われた男なのである。

 その男が、ソフィアのような格好をすると思うと――。

 

「……お金がたりないかもなぁ~」

「そっか~予算って幾らくらい?」

「銀貨が5枚と、銅貨…………25枚です」

「それじゃ~同じ装備はむりだね」

(しゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


 朗報に喜ぶクラミ、浮かれ気分でデートを楽しみながら歩くと、

 

「このお店だよ」


 お店の外観は、その辺のお店と変わらず、看板に見たこと無い字と服の絵が描いてあった。

 

(あの字って何語だ……そもそも異世界なのに言葉が通じている!? あれ? 日本語で、みんなしゃべっているのか?)

 

 今更その事に気づき困惑するが、(考えても仕方ないし、字は読めなくても言葉が通じるからいいか)と、楽観的に考えながら、服屋に入る。これだから脳筋は――

 

「クラミ、何か希望の服とかあるのかな?」

「安いのでお願いします」


 そう言うと、既製品が並ぶ場所に移動する。


「私は、別の所見てくるよ」  

「適当に買っときますね」


 ソフィアと別れ服を選ぶ。既成品を見ながら歩くと、全身鏡があり、改めて自分の容姿を知るクラミ。


(なんて言うか…………どっからどう見ても女の子だな……明日から筋トレしないと) 


 気落ちしながらも、まずは、トレーニングウェアになりそうな服を探すことに。麻の白いタンクトップらしき物を見つけ、ハーフパンツの代用品を探すが見当たらず、革製で黒色のホットパンツを見つける。

 近くのスカートを手に取り、これで走るか悩むが、あちらの方がましと結論を出し、鏡の前で服を体に当てた。

 

(鏡に映っている姿は可愛いんだけど、気持ち的には……)

「はぁ~」


 ため息をつきつつ、2着ずつ取る。普段着は、街の娘が一般的に着ている服、麻の半袖に、ロングスカートを選び、一番安い茶色を2セット買うことに。なぜかズボンが無い。嫌がらせだろうか?

 最後に靴を探すが、クラミに合うサイズが無く、有るとすれば、ソフィアが履いているようなニーハイブーツである。

 ヒールは無く、何の素材でできてるか知らないが、走っても問題なさそうな感じだ。 


(殆どソフィアさんと同じ格好だよな……気にするな。気にするな俺!)

 

 落ち込む気持ちを奮い立て、ソフィアの元へ。


「ソフィア、選び終わったよ」

「え? もう選んだの!」

「数が少ないからね。それより冒険者になりたいから、装備とか欲しいんだけど……幾らくらいするのかな?」

「このお店は、革専門で装備は全部オーダーメイドだから高いよ……最低でも銀貨50枚くらい」

「全然足りませんね」

 

 銀貨50枚……街の平民(農民)の稼ぎ100日分に相当する額だが、クラミが知る由も無く、軽く流して、お会計することに。

 

「全部で銀貨一枚だよ」

 

 店主(男)の一言にお金を出そうとするが、ソフィアが割って入り、値切る……これでもかと、値切り、ソフィアの入れ知恵でクラミも顰めっ面で値切った。


「銅貨84枚これ以上は無理」


 満足そうなソフィアを見て、お会計するクラミ。

 正直この値段が高いのか安いのか解らないが、値切れて事に対して、ほくほく顔で店を出るが、買い忘れを思い出す。しかし、この店に無かったはず……例えあったとしても……今現在クラミ自身が、すでに装備しているが――店の前で佇むクラミにソフィアが話しかける。

 

「どうかした、買い忘れ?」

「あの……し、下着とか」

「大丈夫だよ。向かいのお店に有るから、行こっか?」

(下着か…………今は、女の子の体だから、仕方ないのか? しかし……服は妥協できても下着は……ありかな? ウエイ、ウェイ、ウェイ、冷静になれ、クールに――)

「クラミはどんな色が好き?」

 

 いつの間にか、下着まみれの空間に居るクラミ。右を見ても左を見ても下着だった。健全な高校生にとってここは、居心地がものすごく悪く、下に俯きソフィアの服を右手でつまむ。


「どうしたの?」

「あ……あの、かた、買ったこと……無いです。」

「ふふふ~大丈夫だよ~お姉さんに任せなさい!」


 恥ずかしがってるクラミの手を取り、店員さんの所へ行き、あれよあれよという間にサイズを測られ、クラミに合う既成品の場所に案内され、ソフィアが選び、何も聞いても「うん」としか言わないクラミに対して、心配になったソフィアが手伝う為に、一緒に試着室の中へと入っていく。

 

「も~クラミは仕方ないな~服を脱がすよ」

「うん」


<加護-色欲-が発動しました>


 クラミは目の前の鏡を見ると、頬を赤らめた美少女と、その子より頭一つ背の高いソフィアが背中をいじってるのを見ていた。まるでテレビでも見るかのように、どこか他人事だと思い鏡を見つめる。


 ソフィアの手が肩に乗り、白のワンピースを下ろしていき、露わになる二つの小ぶりの丘。

 それをマジマジと見つめるクラミ。


「だめだよクラミ、ちゃんとブラ付けないと」

「うん」

「……人の話を聞かない子には、こうだよ!!」

「ひゃい!」

 

 後ろから、ソフィアの両手が脇の下を通り、小ぶりの丘を覆い尽くし、蹂躙するかのように蠢き、徐々に優しく、最後は撫でながら耳元で囁く。

 

「ほらほら~そろそろ目が覚め――」

 

 ソフィアがそう言いながら鏡を見ると、クラミの淡い桜色の果実が自己主張していてた。 


(クラミ、興奮しちゃったの…………)


 鏡に映るそれに釘付けになり、つい手に力が入れば、赤く染まった丘は抵抗すること無く、ソフィアの思うがままに形を変え、荒い息と、時折、切なげな声が聞こえる。

 クラミは、段々と二つの丘の頂に近づいてくる蹂躙の手を見て、口を開く。


「ん……んぁ……そふぃあ……ぶら…………つけない……の?」


 クラミはソフィアの肩にもたれ掛かり、潤んだ瞳で見つめ――


「そ、そ、そうだよね! あれだよ! これは、サイズ確認だから!! 大丈夫! OK、おk」


 クラミの一言により、我に返るソフィア。クラミに慌てて服を着せ、適当に下着の上下セットを複数取り、

「私、先にお店の外で待ってるからね」と、逃げるように……クラミの元から逃げた。

 下着を両手で抱え、お会計することに。

 

(結局、試着しないのかよ! いや……まぁ……いいんだけど)

「銀貨3枚と銅貨40枚ですね」

(高すぎだろ!!)

「はい……」


 力なく返事をし、お金を払い、店から出る。

 外に出ると、西日を背にしたソフィアがもじもじとしていた。

 

「あ……あのね……違うよ? 私あんな趣味無いよ…………じゃなくて、ごめんなさい」

「……気にしてませんよ?」

「本当に? でも――」


 ソフィアの声を遮るように鐘の音が響き渡る。不意にリトスの怖――優しい笑顔を思い出し、急いで帰る事に。 


「そ、そろそろ帰るよ。怒られ――心配されないうちに」

「そう…………っか」

 

 寂しそうな声――


「また、街の案内お願いしてもいいですか?」

「へ? うん! 大丈夫だよ! 絶対だよ! それじゃ~私も帰るね!! またね」


 再会の約束をすると、元気な笑顔を見せ、手を振りながら走って帰るソフィア。それに手を振りながら、同じ方向に歩いて行くクラミ。


「帰り道同じ方向なら、途中まで一緒でもよかったのに。あんな事があったから気まずいか……それにしても」


 独り言も漏らしつつ、オレンジ色に焼ける街を眺める


(この世界の女の子って……)


 今日の出来事の一部封印しつつ、早足で帰るクラミであった。


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