2-1 ③
慌てふためくクラミを見てギルドマスターは髪の生え際を掻きながら口を開く。
「リトス様から聞いていないのか?」
「聞くも何も、なんで俺が表彰されるんですか!」
「なんでって、そりゃ……」
ギルドマスターとしては目の前の少女が表彰されるのに異存はない。むしろ、もっと早くにするべきだったとさえ思っていた。
それなのに彼女は自分が表彰される理由に気付いてはいない。
テンパって一人称がおかしくなっているクラミを物言いたげな目で見つめると、彼女は気まずそうに顔を歪めて一歩下がる。
そんな彼女を見てギルドマスターは呆れ半分にため息を漏らし言う。
「嬢ちゃんはゴブリン騒動の時、何をしていた?」
「何って言われても……でっかいゴブリンと戦って、倒しました」
でっかいゴブリンとは随分と可愛らしい言い方だが、クラミが相手にしていたのはゴブリン・『将 軍』。BランクやAランクと言った上級冒険者が複数で相手にせねばならない魔物なのだ。
それをたった一人で相手にし、あまつさえ『将軍』より格上の魔物、ゴブリン『 王 』まで倒したのだ。
それほどの戦果を上げたのににもかかわらず、少女自身の評価はでっかいゴブリンを倒したである。
余りにも。そう余りにも、認識がズレている少女を見ているうちに二度目のため息がこぼれそうになるが、グッと飲み込んで堪える。
「そのでっかいゴブリンを倒して街を救ってくれただろ?」
「別に一人でやったわけわないですし、冒険者や騎士の人達も――」
「いやいやいや、確かに俺達で一匹の『将軍』は倒したが、嬢ちゃんは『将軍』と『 王 』を一人で倒しただろ。一人で!」
「うぅぅ……そうですが」
頑なまでに自分の功績を認めようとしないクラミ。
自分の頑張りのお陰で街の危機を救えたのは嬉しいが、街中で表彰されるなんて聞いていない。
学校で表彰されるのとは訳が違うし、礼儀作法などもあったりしたら――などとクラミは思っているが、本当の気持ちを一言で言うなら『面倒くさい』なのだ。だからこそ謙遜をしているのだが、ギルドマスターは認めない。
「それに商人が拉致していた娘達も助けただろ?」
「それはソフィアさんと一緒に」
「助けただろう?」
「はい、助けました」
有無を言わさない物言いに逃げたくなるクラミだが、ここで逃げても表彰式は無くならない。
目を糸のように細めて何か良い案を考えていると、ギルドマスターが追い打ちの言葉を発する。
「今日にでも鉱山都市オリキオや港街リマニのお偉いさん方が来るから、明日は派手な式典になるかもな」
「な、なんで、わざわざこのタイミングで……」
「そりゃあ、国王誕生祭があるから一緒に王都に――って嬢ちゃん!?」
自分が逃れられない運命だとクラミは悟り、フラフラと出口に向って歩いて行く。
後ろからギルドマスターの声が聞こえるが、頭に入ってこない。
重い扉を開けるとどんよりと濁ったオーラを纏うクラミとは対照的に、太陽の日が爛々と照らしてくる。まだ、お昼まで時間があるがすることが無い。仮にあったとしても今のクラミにできてであろうか。
冒険者ギルド入り口で突っ立ちながらクラミは空を仰ぐ。
「雲みたいにどこかに……逃げるか」
現実逃避をしながらクラミは城へと足を運ぶ事にした。
表彰式まで時間が無い。ならばせめて恥を掻かないようにリトスや執事から注意点などを聞いていた方が現実的だ。
重い足と周りから視線を浴びながらクラミはクラミは歩く。
「はは、ははは」
壊れ気味な笑い声と供に。