2-1 ②
短いですけど本日二話目。
孤児院から逃げ出す際におばちゃんシスターが「ちゃんと先日働いた分の報酬を受け取るんだよ!」と、大声で叫んでいたので、クラミは東区のギルドを目指している。
一応、逃げ出すための言い訳にしたアルモニアとイリニが居ないか辺りを見渡しながら歩く。
「…………」
キョロキョロと首を振りながら歩いているため、やたらと人と目が合う。
いつぞやのように怯えた様子では無いが、やたらと見られている。
自分が何かしたか? と、クラミは最近の出来事を追懐するが心当たりは無い。いや、商人に拉致されていた娘達を孤児院に送り届ける時にやたらと周りを威嚇していたことを思い出す。
「もういいや」
流石に「こっち見るなと」と、叫びながら歩く何てことはでき無いクラミ。ソフィアなら周りに文句を言うんだろうな。などと考えながら、視線のことは諦めることにした。
少し猫背気味に歩くこと数分。東区のギルドへと到着したクラミは慣れ親しんだ扉を押して中へと入る。
依頼が貼り付けられているボードには目もくれず、真っ直ぐと受付カウンターへと歩く。
ギルドの中には数人の冒険者達が席に座って話し合いをしており、クラミが横切ると彼らは街の住民同様に彼女の事を見ている。
「依頼の報酬を受け取りに来たのですが」
「はい、畏まりました。それでは証明書の提出をお願いいたします」
「っあ!」
受付嬢の言葉を聞き、仕事を終えた際に貰うべきサインが無い事に気づくクラミ。
そもそも、ギルドマスターが半ば無理矢理この仕事を押しつけたので、受付もしていない。
どうしたものかとクラミが途方に暮れていると、丁度よくギルドマスターが顔を出した。
「お、嬢ちゃんじゃねえか、おめでとさん」
「おはようございます? それよりも、孤児院の件ですが」
「……むぅ」
手をひらひらと振りながら何故か、お祝いの言葉を贈ってくるギルドマスターに孤児院の名前を出すと、彼は目に見えて顔を顰めた。
取敢えず今現在の自分状況を説明するクラミ。
すると、ギルドマスターは申し訳なさそうに口を開く。
「すまねぇな、嬢ちゃん。うっかりしていたよ。まぁ、嬢ちゃんが仕事をしたってことは、ちゃんとあの婆――シスターから聞いているから報酬の件は心配するな」
そう言うとギルドマスターはアイテムボックスを展開して、中から銀貨一枚を取りだしてクラミに手渡す。
おばちゃんシスターからは少ない報酬と聞いていたが、銀貨一枚を渡されて混乱するクラミ。
手元の銀貨とギルドマスターの顔を何度も見比べて首を傾げる。
「銀貨一枚って、この報酬額っておかしくないですか?」
銀貨一枚で銅貨百枚の価値があり、銅貨一枚でパンが一個買えるのだ。つまりパン百個分の報酬を掃除だけの仕事で出せるかと言われれば――絶対に無いだろう。
だからこそクラミが疑問に思っていると、ギルドマスターが笑いながら言う。
「孤児院の報酬は銅貨一枚。残りは俺からの祝い金だ」
「祝い金? 何かおめでたいことでもあったんですか?」
「なんでぇ、嬢ちゃんの話だろ?」
ますます持ってギルドマスターの言ってることが分からなくなっていくクラミ。
眉間に皺を寄せて難しい顔をしている彼女に、ギルドマスターは確認を取るように聞く。
「あれだろ、明日は街の広場で嬢ちゃんの顕彰式だろ?」
「え? 何ですか顕彰しきって!?」
何時のまにか自分が章を貰うことになっている事態に、クラミはますます混乱するのであった。