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本作品『玉がなァァァァァィィィ! p.s.棒もありませんでした(三人称)』の一人称版を別作品として投稿しました。
もしお暇であれば、目を通してもらえると幸いでございます。
帰宅の途を歩むクラミは浮かない顔で街を眺めていた。
広場を行き交う人達は皆、忙しそうにしながらも充実した雰囲気を感じられる。
雑多に賑わう広場の中央で立ち止まるクラミは孤児院を後にするときに言われた、おばちゃんシスターの言葉を思い出す。
『クラミちゃんが心配する必要はないのよ。あの子達の問題だから』
どうしておばちゃんシスターがあんな事を言ったのかクラミには理解できない。
彼女らは被害者であり、救いの手を差し伸べるべきではないのか?
自分にできることは一体何なのか――。
「只の高校生なんだよな、俺って」
元の世界で天才高校生だったわけでもなく、学生でありながら事業を立ち上げる活動的な人間だったわけでもない。
只の高校生だった蔵美善十郎には人の人生を救うという良い考えが浮かばない。
しかしながら視点を変えて見れば『異世界からの来訪者』と言う、普通ではあり得ない肩書きを持っているクラミ。
「自分にできること……か」
広場で商いをしている屋台からは肉の焼ける良い香りが立ちこめる。クラミは鼻孔をくすぐる匂いつられながら独り言を呟く。
孤児院で先ほど昼食を摂ったのだが、彼女の胃袋には足りなかったようで、考えれば考えるほど脳がカロリーを消費し、自然と屋台に向けて足が動いていく。
「腹が減ってはって言うし――おじさん、一つ下さい」
串に刺さった焼き肉を頬張るクラミ。
堅めの肉を強靭な顎の力で噛み千切りながら辺りを見渡す。
「串焼きとかばっかだな」
ざっと見渡した限り、屋台のに並んでいる商品は似たり寄ったりのようで、食べ物に関しては種類がない。中には飲み物を販売している屋台もあるが――。
クラミはこれまで食べてきた物を思い出しながら考える。
「今までに無い食べ物か」
最後の肉を囓りながらクラミは歩き出す。今の彼女の表情には迷いが無い。
自分なりの答えを見つけたらしく、広場を見て周りながら食材を買い込んでいく。
すっかりと日が傾き始めた頃、クラミは城に辿り着いた。
門兵と挨拶を交わし敷地内に入ると、見慣れたメイドさんの後ろ姿があったので声を掛ける。
「すみませ~台所に行きたいのですが、案内お願いできますか?」
「は、はい!」
緊張した面持ちで短剣を胸元で握り締めるメイドさんこと、ソフィアが声のする方へと慌てて振り返る。
「なんだクラミか」
声の主がクラミだ解ると、ホッと肩の力を抜くソフィア。
そんな彼女を見てクラミは「お疲れ様です」と、笑いながら言う。
「やっぱり緊張するわね、これなら魔物を相手にしてる方が楽だったよ。それより案内だったわね……」
「忙しそうな他を当たりますが」
早口で捲し立てるソフィアに、クラミは苦笑いを浮かべながら言う。
「大丈夫だよ。もう侍女の仕事は終わって、今は腕が鈍らないように訓練中だから」
元々、侍女の仕事よりもBランク冒険者としての実力を買われているソフィア。彼女に求められているのはボディーガードとしての腕だ。
そのため、他の侍女よりも仕事量は少なく、代わりに自主訓練の時間を設けられていた。
「訓練ですか……確か、ちゃんとした訓練場が第二城壁内にあったはずでは?」
ゴブリン騒動の時に剣の握り方や振り方を習ったクラミは、その事を思い出して尋ねると、ソフィアは顔を顰めて言う。
「むさ苦しい所は嫌いだから」
男性に対して嫌悪感をもつ彼女にとっては、とても訓練にならない場所らしい。彼女だけでは無く、周りにいる騎士達にも迷惑になる事を考えれば、ソフィア一人だけ別の場所で行なった方が良い。
と言うことで執事が与えた場所が、いつもクラミが筋トレや剣を振り回している、この庭なのだ。
アイテムボックスに短剣を収納して、代わりにタオルを取り出すソフィアは額の汗を拭きながら口を開く。
「それじゃあ行こうか」
「はい、お願いします」
身だしなみを整え終わるとソフィアが歩きだし、クラミはその後について行く。
建物の中に入り、長い廊下を歩き、右に曲がったり、左に曲がったり、ドアを開ければトイレだったり――。気が付けば、最初の玄関に辿り着いていた。
「あの……ソフィア」
「森だったら……森だったら、ちゃんと覚えられていたんだよ!」
ジト目でソフィアを見つめるクラミ。突き刺さる視線から顔をそむけて言い訳をする彼女は、未だ城の内部を把握仕切れておらず、見事に迷子になったのだ。
このままではどうしようも無いので、二人は本物のメイドを探して厨房の場所まで案内して貰うのであった。
基本的に、この三人称版を更新して余力があれば、一人称を更新したいと思います。
どちらも楽しんでもらえれば嬉しいかぎりです。