1-4 ②
仲の良い姉妹――と言うより、イリニ自身が距離を置こうとしているようにクラミは感じた。
「幼少の頃に何かあったのだろうか?」その言葉が口から出掛かるが、グッと堪える。まだ顔見知り程度の仲なので、深く関わることに躊躇していた。
「さてと、まずは小屋の掃除からしようか」
悶々とクラミが悩んでいると、目的に地辿り着いていた。
そこは孤児院の建物の裏手にあり、小屋と言うよりも納屋のようだ。実際、建物の周りには神事に使うための道具や、ベッドに敷く天板などが置かれていた。
「騎士の人達が仲に置いてあった重い荷物は外に出して、二段ベッドを設置してくれたから後は掃除だけだよ」
見慣れない道具を興味深そうに眺めるクラミにおばちゃんシスターが説明をする。
その言葉を聞き、自分が仕事に来ていることを思い出したクラミは、近くに立て掛けられている箒を手に取り納屋の中へと入る。
「狭いですね」
納屋の外観は結構大きめであったが、いざ中に入ってみるとクラミが口にした通り狭い。
十畳ほどのスペースに五台の骨組み状態の二段ベッドが横一列に並べられており、ベッド間の幅は人一人がギリギリ立てるぐらいしかない。
「流石にこれは……」
圧迫された空間にクラミは顔を顰めて言葉を洩す。
「場所がないから仕方ないさ。街から補助金でも出れば新しく小屋でも建てるよ」
「先の見えない洞窟よりはましなの」
ため息交じりにおばちゃんシスターが言うと、イリニもこの場所に不満はないらしい。
リトスの広々とした部屋に馴れたクラミとしては、この納屋で寝起きすることにショックを受けると同時に、今まで恵まれた環境にいた事に感謝の念を覚える。
「はいはい、掃除をしましょう。掃除を!」
おばちゃんシスターは手を叩きながらそう言うが、狭い納屋の中に四人が突っ立ていたら更に狭く、掃除どころではない。
室内の掃除はアルモニアとイリニに任せて、クラミとおばちゃんシスターは外に置かれている道具の汚れを拭いていく。
「しばらくは大変ですね」
ぼろ切れを片手によく解らない道具の埃を落としていくクラミがポツリと言葉を洩す。
「これからが大変なんだよ」
おばちゃんシスターは首を横に振り言う。
「あの子達に街から見舞金としてお金は出るでしょうけど……そのお金だけでは暮らせていけないからね。頼りになる身内も居ないでしょうに」
「…………」
「一番は心に受けた傷だよ。しばらくは人を、とくに男を信用できないでしょうね。そうなると仕事もできるかどうか――」
働かざる者喰うべからず。しかし、働きたいけど働けない場合はどうするのか? クラミは助けた少女達のことを考えながら手を動かす。
暫くの間だ布を擦る音と、遠くから聞こえる子供達の声だけが響く。
「中の掃除は終わったの」
「後はベッドの天板をしくだけです」
二人の声で我に返るクラミ。何時のまにか日は真上へと昇っている。
「それじゃあ、最後の仕事をしようか」
「あ、力仕事なら任せてください」
クラミは慌てて立ち上がり、納屋の壁に立て掛けられている天板へ視線を向ける。幅七十センチ、長さ八十センチの板が二十枚置かれている。
それを五枚ほど一気に持ち上げたクラミは数歩あるいて立ち止まり腰に提げている魔法の袋に視線を落とす。
「四人も人が居るんだから、無理しなくて良いんだよ」
「大丈夫です。ちょっと待って下さいよ、直ぐに終わりますから」
心配そうにおばちゃんシスターが声を掛けると、クラミは笑いながら天板を魔法の袋に収納して納屋に入る。
後は一枚一枚天板を魔法の袋から取り出し、ベッドに敷いていくだけだ。
「クラミちゃんが力仕事をしてくれたお陰で、随分楽ができたよ」
数分で力仕事を終えたクラミにおばちゃんシスターが笑顔で感謝の言葉を贈る。
「いえいえ、このくらいなら余裕ですよ。それより他に仕事はないんですか?」
「細かい仕事は子供達と一緒にするから大丈夫だよ。それよりお昼ご飯にしましょう。クラミちゃんも食べて行ってね」
丁度良くお腹が虫が鳴り、アルモニアとイリニが笑う。クラミは恥ずかしそうに「ご馳走になります」と、言うとおばちゃんシスターは笑顔で肯いた。
暫く食堂で待っていると、ご馳走とはとても呼べない料理を出されるが、子供達と賑やかに食べると美味しく感じられた――が、その席には助けた少女達の姿はなかった。
最近は短い話ばかりで申し訳ないです。
1日あたり1500文字ぐらいで投稿するなら、三日後に4500文字で投稿した方が読み応えがあると思うんですが、そうすると、「今日は疲れたから、明日頑張ろう」「駄目だ、休みの日に本気だそう」「休みの日は休もう!」って感じでダラダラして二ヶ月経ってました。
水のように低きに流れてしまうので……スーパー言い訳タイムでした。
これからも読んで頂ければ幸いでございます。