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2-2

「街に行く前に、ここから出られないんだけど……」

 

 逃げるように食堂から出たクラミは、屋敷の中で迷子になっていた。ふらふらと歩いていると、メイドが歩いてくるので屋敷の外まで案内をお願いし、外に出る。

 メイドにお礼をし、顔を上げ屋敷を眺める。

 

「お城に住んでいるのかよ」

  

 大きな屋敷に住んでいると思っていたが、中世ヨーロッパを彷彿させる城だった。首が痛くなってきて眺めるのを止め、綺麗に手入れされた庭園を突っ切り、門へと向かう。

 

「おはようございます。クラミ様」

「へ? お……おはようございます」

 

 石造アーチが特徴的な門の前にいる門番から名前を呼ばれ挨拶される。何でお前、名前知ってるの? と、思うが挨拶をし、街について聞いてみる。 

 

「今から出かけるんですが、冒険者ギルドの場所を教えてもらえますか?」

「この門の先の道がメインストリートです。このまま真っ直ぐ第一、第二城壁を突き進み街の出入り口近くにあります」


「ちょといいですか? 第一、第二城壁って、この街の全体の造りってどうなっているんですか?」


「そうですね…………今いるブレ家を中心に円を描くように街が広がっていまして、初代ブレ家当主が造ったのが第一城壁です。中にはリラ家の縁の者、街や村の統治に係わる貴族とその親族が住んでいます。

 次に、初代から何代もかけて第二城壁が造られました。その中が我々、この街を守る騎士達が住む家や兵舎、大商人などが住んでいます。

 最後に先々代で、リトス様の御爺様の時代に完成した市壁で、ここに冒険者ギルドや色々な商店が在ります。一番活気のいい場所ですが、一部スラムが在るのでそこには、絶対に近づかないでください」

 

 根がいい人なのか、クラミの容姿に惑わせられたのか、親切に教えてくれる門番にお礼を言い、とりあえず冒険者ギルドの下見に行くことに。


 第一城壁の中はどこも大きな屋敷に広い庭、クラミが歩いている道も赤いレンガで舗装され、綺麗に剪定された街路樹が一定間隔で植えられている。まだ活動する時間じゃないのか、この区画全体が静まりかえる中を、朝の澄んだ空気を楽しみつつ10分ほど歩き、第一城壁の門をくぐる。

 

 第二城壁の中は第一と違い一戸建ての家が多く、赤いレンガの道は同じだが街路樹は無く、人影も見えないが、兵舎からは朝から訓練する騎士の笑い声に罵声が響く。その声をBGMに第二城壁の門を抜け、庶民が暮らす区画に出る。

 

 この区画は、メインストリートの赤い道を挟むように、商業用の一戸建ての建物が建ち並び、途中にある広場を囲むように曲線を描き、出入り口近くまで続く。

 

 建物の間にある中道を覗けば集合住宅が櫛比(しっぴ)の如く建てられ、広場では露天商が客引きのため声を上げ、店をひやかす人に、雑談しながら歩く人。門番の言うとおり朝から活気あふれる区画だ。

 

 そんな中を、クラミは居心地悪そうに歩いていた。この区画に入ってからやたらと人に見られ、目を合わせれば、逸らされる。街の住人は珍しいクラミの黒髪に興味を持ち、庶民とは明らかに違う服装に貴族の娘と判断し、目を逸らしているのだ。


 少しげんなりしつつも歩けば、第一、第二よりも大きく、馬車が横並びでも通れそうな立派な門が見えてくる。その門を間近で見るために近寄れば、

 

「おはようございます。クラミ様」

 

 何でお前も、名前知ってんだよ! と、思いつつ門番に挨拶をする。

 昨日クラミが眠っている間に、執事が街の騎士全体にクラミの特徴と名前、リトスの客人であると告げていた。

 そんな事はさておき、冒険者ギルドの場所を聞こうと思うが、門の先に見える光景に――

 

「どうかなされましたか?」

「いや、外の花が……綺麗だなと思いまして」

「さすがクラミ様。この街の特産品なんですよ! あの花、菜の花は――」


 自分の住む街の特産品に目を奪われるクラミに気をよくして、延々としゃべり出す。とりあえず、油が特産であることを理解し、話しを止めさせ質問する。


「冒険者ギルドってどこですか? このあたりだと思うんですが」

「すぐ後ろの大きな建物がそうですよ」

 

 しょんぼりしている門番を尻目に後ろ振り向けば、なぜこの道を通るときに気付かなかったのか? 不思議に思うくらい、大きな建物が在った。

 一戸建てのお店よりも、倍以上の敷地面積を使い建てたであろう冒険者ギルド。

 中の様子も見てみたいが、リトスから、明日行くように言われたのでその思いを、ぐっっと我慢する。決して怖いからじゃない…………。

 

 ギルドの場所も確認できたので、特にやることも無いので、外の花を見学することに。

 

「すいません門番さん、外に出てもいいですか? 花を見てみたいんですが……」

「かまいませんが、護衛の者を一人つけますが、よろしいでしょうか?」

「わざわざ悪いですよ」

「いえいえいえ」


 門番と腰の低い言い争いに負け、護衛一人をお供に外の見学へ。

 その際、門番が同僚に話して誰が護衛につくかで一悶着あったとか、そんな話しはおいといて、外にでて少し歩くと黄色く綺麗な花が辺り一面に咲き乱れ、その中で作業ている人たちが見える。

 

「なにしているんですかね?」

「細い茎や芽摘みをしているのでしょう。摘み取ったものは、食用になりこの時期――」


 護衛の顔に手をかざし話しを断ち切り、辺りを窺う。


「臭いませんか…………悪臭が」


 昨日、ゴブリンが出てくるときに、散々嗅いだあの悪臭がする。

 

「臭いですか?確かに花にしては臭いですが――」


 作業をしている人の近くで、黄色の花が怪しく蠢く。護衛を無視してそこに飛び出せば

 

「ギャッ! ギャッア!」

「え? な……きゃぁぁぁぁぁ!」

 

 ゴブリンが飛び出し、近くで作業をしていたブロンド髪の少女がしりもちをつく。それを見たゴブリンは、すぐさま襲いかかるが、クラミの拳の方が早かった。


 クラミの拳がゴブリンを殴り、棍棒を奪い、とどめを刺す。その流れるような一連の動きをただ、見ているしかできなかった護衛を一喝する。


「ぼけっとするな! まだこの辺りにいるぞ――」

 

 叫びながら、怪しい動きをする花の場所に向かい、ゴブリンを仕留める。

 護衛は、空に向かって手をかざすと、赤い円が浮き上がり、その中には、見たこ事も無い字が円を描くように並んでいる――魔方陣。魔方陣を展開し、空に魔法を放つと、火の玉が天高く翔け昇り、小さな爆発を起す。

 すると、街の方から二回鐘の音が聞こえてくる。

 

「クラミ様! 応援を呼びましたので、街へお戻りください!」

「俺は問題ない! それより避難を手伝うぞ!」

「……分かりました」

 

 作業をしている人に向かってゴブリンが出たことを叫びながら伝える護衛に、臭いを探しゴブリンを狩るクラミ。

 暫くすると中隊規模の騎士団が到着する。

 

「クラミ様! 援軍が来ましたので、もう大丈夫です。街へ避難を」

「しかし……」

「なら、そこのお嬢さんを家まで送ってください」

 

 視線の先には、先ほど助けた少女が腰を抜かしていた。少し考えるが、少女と一緒に街へ向かう。


「あ……あの、ありがとうございます」

「怪我はありませんでしたか?」

「はい! おかげさまで。あの……私はこれで。本当にありがとうございました」


 少女は、一礼して自分の家に帰る。家まで送ると言うが、断れたので、外に戻るか悩むが邪魔みたいなので、リトスの城に向かうことに。

 街の住人は近くでモンスターが出たっていうのに、特に慌てた様子も無く、いつも通りと、いった感じで過ごしていた。

 そんな街の広場キョロキョロとよそ見しながら歩いていると――


「きゃぁぁ!」「うぐぅぅぅ」

 

 誰かとぶつかり、可愛い悲鳴と微妙な悲鳴が重なり、尻餅をつくクラミ。起き上がろうとすると、クラミの場所だけに雨が降る。


「だ……大丈夫ですか……って、ごめんなさい。私のせいで服が…………」

「いえ、そちらこそ大丈夫ですか?」

「私は大丈夫ですが、その……貴族様に飲み物を掛けてしまいまして…………」

 

 周りの外野から視線がクラミに突き刺さる。その視線に耐えられず少女に謝ることにするが、

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。服は弁償しますので」

 

 その言葉に対して悩む。今着ているのは、リトスからの借り物だし、弁償させるのも……それほど汚れや、シミなんて無いし。

 黙り込んでいると、不安げな瞳でクラミを見つめる。

 桃色の髪をショートカットにして、肩まで伸びたもみあげが特徴的なクラミよりも少し背の高い少女。

 

「あ……あの?」


 何も考えが浮かばないので、とりあえず笑顔を見せることにしたクラミであった。



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