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異世界ファンタジーものの主人公チート問題に関する若干の考察と覚書

作者: zairic

◆異世界転移ものというジャンル


 巷で流行りだから、あるいは、興味を覚えたから、ファンタジーな異世界に現代人の主人公が転移してそこで活躍するような物語が書きたくなったとする。事実、私は書きたくなった。よし書いてみよう、と考えてプロットにとりかかる。が、すぐに詰まる。もちろん脳内には色々な場面がイメージできている。主人公の性格とか、頼もしい仲間たちの風貌とか、あるいは憎たらしくもどこか魅力ある敵たちとかである。主人公の過去、主人公と彼らとの出会い、それから戦い。剣と剣がぶつかり、激しく火花を散らす。「ぐうっ!」と主人公が苦しそうなうめき声をあげ、たたらを踏んで後ずさる。さらに続く敵の攻撃。槍の切っ先が迫る。あわや、というところで、仲間の助けが入る。「大丈夫か」「ああ、まだやれる」――悪の首魁は笑い、何事かを語り始める。


 まあ、書いてみたいところである。特にドラゴンクエストやファイナルファンタジー、クロノトリガーやロマンシングサガといった和製RPGで育ってきた私みたいな世代はそうかもしれない。少人数の仲間たちと、強大な魔王との戦い。陳腐だが、陳腐でもいい。なかなか熱いし、キャラクターや戦闘シーンをきちんと書ければ感動的な要素も入れられるかもしれない。展開が陳腐なのは、言い換えれば王道的だということでもある。王道的な展開はそう変わるものではないし、下手にいじるとオリジナルティを出すよりも先に破綻する危険もある。言うなれば王道とは絵におけるパースのようなもので、確かに意図的に歪ませて迫力を出す巧者もいるが、基本的には整っていた方が良いものだ。よって、これは「良し」としよう――。

 さて。そうであっても思いついた場面だけを書くわけにはいかない。主人公と敵、そして舞台となる世界観を考え出し、「書きたい場面」までの説得力のある経緯、さらに結末を用意しなくてはならない。



◆主人公をチート化させるのは避けられない。


 ここでほぼ全員が『ファンタジーな異世界に転移した現代人の主人公が活躍して悪を倒す』の最大の障壁に当たる。

 それは、主人公のチート化問題である。

 はじめに言っておくと『ファンタジーな異世界……悪を倒す』を選んだ時点で、主人公のチート化はある程度避けられない。何の特別さもない現代人が、異世界で武力をもつ敵を倒したり、魔王が引き起こす戦乱を収めたりするのは不可能である。チートが無い方が荒唐無稽だとも言える。特殊能力が嫌でも、最低限、ものすごく高い知能は必要だろう。主人公がチートを持つことは頻繁に批判の槍玉にあがるが、そのすべてが的外れではないにせよ「ゼロにできる」「ゼロの方が良い」と考えるのは間違いである。チートという言葉が些か問題を含むようであれば、「特別な才能」と言い換えても良い。これがない主人公が許されるのは、エンタメの分野ではせいぜいラブコメかホラーだけである。もちろん、純文学に挑戦するならまた別の話だ。

 ただし、例によってバランスは考えなくてはならない。

 適切なチート加減が、このジャンルの肝であると思う。



◆第一条件は『敵の力』とのバランス


 まず、チートの程度は、ある程度まで自動的に決まる面がある。主人公のチート能力の強力さと悪の強大さが対応関係を持っているからだ。悪を強大にすればするほど、主人公のチート能力も強化する必要があるし、逆もしかりで、相手が弱ければ、こちらも弱くなる必要がある。

 「惑星を破壊できるフリーザ」を敵にするなら、主人公はやはりスーパーサイヤ人孫悟空だ。逆に学校の不良少年程度が敵なら、「格闘技に熟練している」くらいでいいし、それ以上は程度にもよるがやりすぎである。少なくともヤクザをぶちのめすのにサイヤ人はむごい。コメディとしては面白いが、いま求めているのはコメディではない。



◆第二条件は『世界観』とのバランス


 『小説家になろう』で悪として選ばれるのは、たいてい魔王である。相手が軍勢を率いて広い領地を支配する魔王なら、個人または少人数チームでそれに対して良い戦いが出来るよう、かなりの能力を主人公に与えてやらなければならない。この「悪に魔王を選ぶ」ということが、主人公のチートを極端に大きくしてしまう原因である。そして――このやむにやまれぬ事情で――極端に強化した結果、世界観の方が悲鳴をあげる。――おい、こいつがその気になれば、独裁国家でも何でも作れるし、気に入らないヤツを殺して回ったって、誰も文句が言えないじゃないか――。

 これはバランスが崩壊したパターンである。

 ちなみに、個人的な見解だが『魔法先生ネギま!』の後半や、それには劣るが『とある科学の超電磁砲』は少々このあたりのバランスに問題があるように感じる。……ワナビ以下が偉そうに、と言われると返す言葉もないが。


 世界観とのバランスを考慮するならば、主人公のチートは出来る限り穏当にした方が良い。しかし、穏当にすぎると、第一条件『敵の力』により、敵もまた弱くせざるを得なくなる。そうすると物語全体が矮小化してしまう(『物語の大きさ』は第三条件といえるかもしれない)。少なくとも「世界の命運をかけた戦い」はいくらか困難になる。

 第一条件はチートを強化することを求めるが、第二条件はチートを弱化することを求める。

 裏を返せば、この二条件に適切なバランスを与えられれば、「チート乙」なる批判は基本的には避けられるはずである。



◆第一条件と第二条件のバランスを取る様々な手法


 私が思いつく限りを挙げると、次のようになる。例示部分は思いつくままにあげたので、異論はあるかもしれないが、参考として頂ければ幸いである。


1.敵は強大だが、主人公には劣ったチートしか持たせない。敵が「物語の大きさ」を維持し、主人公が「世界観の崩壊」を防ぐタイプ。劣った部分は他のチートでない要素で補って戦う。(例:初期の『ベルセルク』)


2.敵は強大で、主人公のチートも非常に強力だが、外の一般世界に敵やそれとの戦いを認知させず現実世界をあくまで背景に押しやっておく。(例:サイヤ人編後の『ドラゴンボール』、『Fate stay/night』)


3.敵も主人公もそこそこ強力なチート持ちだが、世界も大きくは見劣りしない程度に強く、存在を認識していても問題が少ないようにしておく。(例:『魔法少女リリカルなのはStrikers』、『ゼロの使い魔』)。


4.敵も主人公も即座に現実を壊すほどのチートは持たず、持つとしてもラストバトルの瞬間だけに限定する。組織規模も両者ともに小さいが、重要な局地戦をさせることで物語の大きさと世界観バランスを維持する。(例:『ジョジョの奇妙な冒険 第二部』『プリキュアシリーズ』)



 まとめると、「世界の命運をかけた強力なチートの戦い」を描くなら、外部世界は切り離し、小規模人数での戦いを局地戦的に書くのがひとつの解決策になる。一方、外部世界を切り離さずにおくなら、主人公と敵のチートは抑え気味にすることだ。抑えたくないのであれば、世界側も強くすること(『トリコ』は一般人は弱いが、猛獣が強く、それでバランスが一定保たれている)。ただしこの場合、外部世界の応答にリアリティが必要で、仮想戦記ものを書くようなそれなりの知識や想像力が要求される。

 なお、1-4以外のパターンもあるかもしれないが、これは私の想像力の限界である。何か別の例があればご教授願いたい。



◆さあ、書こう。


 本稿は『ファンタジーな異世界に転移した現代人の主人公が活躍して悪を倒す』を、可能な限り「チート乙」の批判を避けて書くための方法論に関する個人的な考察ないしは覚書である。

 まず、1-4のどれにするか考えつつ、それから次の設問を埋める必要がある。


一、なぜ、主人公は異世界に来たのか(召喚されたのか、迷い込んだのか)。

二、召喚されたのであれば、なぜ召喚者は召喚しなければならなかったのか。

三、敵は何者であり、なぜ主人公らにとって悪なのか。

四、なぜ、主人公は敵と戦うことを決意するのか。

五、主人公と敵は、それぞれどのような力があるのか。

六、『世界の他の人たち』は主人公や敵と比較して、どの程度強い、あるいは弱いか。

七、『世界の他の人たち』は主人公と敵の戦いを認識しているか。認識しているなら、どう感じているか。


 これくらい決定されていれば、プロットも組みやすく、とりあえず書き始めてみるなんてことも出来るものと思う。


 以上、現状の覚書でした。

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