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ミーナさんの営む食材店でカエルの脚を売り払おうと村の中を歩いていると、モーガンさんに声をかけられた。
「おう、ケイスケか。どうだったよ初戦闘は。見たところ怪我もしてねぇし余裕だったかぁ?」
こんなフレンドリーなモーガンさんなんて知らない。初めて会った時はもっと無愛想だったはず。四角い顔にヒゲ面も合わさって苦手な部類の人間だったのに。そういえば称号が変わったんだった。知名度が上がったみたいだけど好感度も上がったのかもしれない。名前も教えていないし、ドレイクさんから聞いたのかな。
「いやー何とか勝てただけです。最初なんて足が震えましたから」
苦笑いをしながら答える。カッコつけても得になることはないし、ありのまま答えても問題無いしね。
モーガンさんは豪快に笑い、モミアゲから顎まで繋がって生えるヒゲを撫でながら肩を叩いてきた。
「うんうん、誰だって最初はそんなもんだ。俺が若いときなんてファングに追われて泣きながら帰ってきたもんさ!」
それは何か違うんじゃなかろうか。というかこの人にもそんな時代があったなんて信じられない。
「まぁ今ならファングなぞ片手間に倒せるがな! がははは!」
それが本当なら冒険者より遥かに強い一般人になりますよ。そんな言葉は胸に閉まっておこう。ファングはかなり強そうに見えるんだけど、簡単に倒せる人が村に2人もいるのか。村人以下ってちょっとヘコむ。
そんな風に落ち込んだ僕を見てモーガンさんは彼なりに慰めてくれた。
「ケイスケもそのうちデコピンで倒せるようになるさ。最初から強い奴なんていねぇからな。だが、あっちに見える森には入るんじゃねぇぞ。かなりやばいのがいやがるからな」
指差した先には確かに森が広がっていた。村の裏手にあり、またフェンスがあったことで目に入りづらかったみたいだ。なんとなく嫌な感じもしているので大人しく頷くことにする。デコピン部分には賛同できないけど。
お、と何かを思い出したようでモーガンさんは口を開いた。
「そういやモンスターは何か落とさなかったか? 俺に扱えそうなモンがあったら加工くらいしてやるぜ」
インベントリを見るとカエルの脚に舌、ウサギの毛皮と角が1つずつ。この中から角と毛皮を見せてみた。
「一角獣の素材か。本当ならもう少し数が欲しいんだがな。初勝利の祝いだ。適当に作ってやるから後でウチの店に来な!」
僕の手から角と毛皮をぶんどりモーガンさんは店に戻っていった。もしかしてこのためだけに来てくれたのかな。ちょっと感動した。苦手とか思ってごめんなさい。
心の中で謝罪をし、ミーナさんの下へと向かう。途中で村人たちに初勝利おめでとう、と声をかけられる。良い気分で足取りも軽くなった。
「こんにちは。食材の買取をお願いします」
カウンターにいるミーナさんに声をかける。ミーナさんはウェーブがかったロングヘアーを持つ、40代くらいの少しばかりふくよかな女性だ。明るい性格らしく、初対面でもすぐいろいろと話を聞かせてくれたことを覚えている。
「おやおや。モンスターを倒したっては聞いたけど食材まで拾ってきたのかい。運が良いじゃないか。どれ見せて見せて」
カエルの脚をカウンターに置く。いろんな人に褒められて、なんだかこの戦利品も誇らしく思えてくる。
「フロッグの脚かい。なかなか品質も良いね。ケイスケはファングと一緒に来たってドレイクさんも言ってたし食材に好かれるのかねぇ」
そんな冗談を言いながらミーナさんは脚を奥に運んでいった。いや、あれは不可抗力ですから。もしかするとイベントかもしれないし。
「さて、買取額は120パールだね。本当は100パールなんだけど質が良かったし初勝利の祝いさ。少し色つけておいたよ」
みんなが祝ってくれる。そんな人情に触れて視界が潤みそうになるけど、普段どおりを装うことにする。
「ありがとうございます。モーガンさんから店に来いって言われてるのでこれで失礼しますね」
「あいつがねぇ。ケイスケ、気に入られたんじゃないか。滅多に無いよそんなこと」
見た目どおりだったのか。町にすぐ向かってたらこんなことはなかったな。ちょっとだけ得した気分だ。店から出てモーガンさんの店に向かう。食材店と武器屋は実は真向かいにあるため、そのまま出て真っ直ぐでいい。あまり時間が経ってないけど大丈夫かな。
「あの~、モーガンさんいますか」
誰もいない店内に声をかける。店番はいいのか。村人しかいないから心配無いのかもしれないな。
「おう!ケイスケか。早かったな。まぁ出来上がってるから見てけ」
店の裏から声が聞こえ、そちらに歩くと木製の作業台に手袋と杖が乗せられていた。
「こいつは一角獣のミトンに、こっちが一角獣の杖だ。魔道師って聞いてたからな。金属製の装備は俺もお前も扱えねぇからちょうど良かった」
暖かそうな真っ白の手袋に、先端に赤い石が装飾されているこげ茶色の杖。ミトンの手のひら部分は物を掴みやすいようにでこぼこになっていた。顔に似合わず仕事が細かいね。
「足りない素材は在庫から出しといてやった。心配すんな。ドレイクもいるしまたすぐ在庫は戻せる」
在庫から出したと聞いて悪いなと思っていた僕の考えなんてお見通しだったみたいだ。遠慮なく甘えることにして2つの装備を手に取る。ミトンはしっかりと手に馴染み、ふかふかした手触りは幸せな気分になる。手に持つ杖からは温かい魔力を感じ取れた。
「一角獣の武器は炎の力が基本能力にプラスされる。炎魔法使えるんだろ? 我ながらいい仕事だと思うぜ」
装備してみると確かに情報画面に炎属性がついていた。モーガンさんには感謝だな。こんな武器までもらったのなら試したくなってくる。そんな気持ちもすぐに見透かされ、試し撃ちしてくるよう勧められた。
「ありがとうございました! ちょっと行ってきますね!」
「おーう。気ぃつけてな」
入り口に向かいながらステータス画面をもう一度確認する。
・ケイスケ
・職業:魔道師
・称号:ドレイクの友
・スキル:炎魔法Lv1+1・水魔法Lv1
・装備:一角獣の杖(炎+1・炎魔法詠唱破棄)・布のローブ・一角獣のミトン・布のズボン・革の靴
杖には詠唱破棄のスキルまでついていた。このスキルはデメリットである威力半減を3割減少にまで抑えてくれる優れものだ。炎魔法のみという制約があるけどこんな序盤では強すぎるだろう。
入り口に着くとドレイクさんからも声をかけられる。モーガンさんからの贈り物を見せると驚かれた。やっぱり珍しいみたいだ。過信はしないようにと念を押され、送り出してもらった。
草原には以前と同じように座っているカエルが目に入った。杖を構えると本当に魔法使いになれた気がする。スキルを発動させ、僕はカエルとの戦いに入っていった。




