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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第1章 始まりの地
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 放心状態のまま5分くらい経ったか、ようやくのろのろと動き出す。


 ここで座っていてもどうしようもない。だいたい勝利に終わったのに落ち込んでいることがおかしいんだよ。

 そう考え立ち上がる。すっかり足の震えも納まって、戦闘前となんら変わりはなかった。


「そうだ。カエルに触らないと」


 ドレイクさんがやっていた倒したモンスターに触れる行為。そうすることでアイテムを回収できるらしい。攻略掲示板では気持ち悪いと、もっぱらの評判だった。

 

「確かに気持ち悪いな。しかもカエルだしなんかヌメヌメしてそう」


 できるなら立ち去りたいけど、初勝利の報酬だ。我慢して……。

 人差し指を伸ばし、震える先でちょんと触れる。ほんの指先だったため幸運にも感触はほとんど無かった。


 カエルの体が光り、消えた後には大きな舌と太ももから先の脚が落ちていた。

 思う。あのまま死体の方が良かったんじゃないかと。無造作に置かれたそれは生きていた時よりも数段きついものがある。


 ポーンと頭にまた音が響いた。大人しく次に流れるアナウンスを待つことにする。


「クエスト『初めての戦闘』を達成しました。インベントリが使用可能になりました」


 何も無かった腰に小さな袋が現れる。掲示板では村長にもらえると書いてあったけど、クエスト達成の報酬でもあるみたいだ。

 地面の舌と脚を入れようと持ち上げるとそのまま消えてしまった。慌ててインベントリ情報を確認すると確かに舌と脚が入っていた。


「ブラウンフロッグの舌とブラウンフロッグの脚か。舌は魔法アイテムの素材で脚は食材になるって。これ食べるの?」


 この世界ではカエルを食べるのか。いや、カエルの脚をメニューに載せてる居酒屋もあるって先生が言ってたな。鳥肉みたいって言ってたけど食べたいかどうかは別問題です。

 ただ、脚といってもかなりの大きさになる。丸ごとではなく切り取ったりして出されたら分からないかも。もし食事に出されたら気づかないことを祈ろう。


 この「Another World」では食事を取ることでステータスボーナスが発生する。噂では調理スキルもあるらしく、説明書にもそれらしいことが書いてあった。

 生産スキルの一部が紹介されていたが武器や防具を作ることのできる鍛冶や木工、回復アイテムを作る調合くらいだった。


「冒険の中で調べていってください、が基本スタンスだからなぁ。最低限は書いてあるから文句は言えないけどさ」


 インベントリも使用できるようになったため、ドロップアイテムを取り逃がす心配も無くなった。戦闘に慣れるのが目的で村の外に出たんだからまだ戻るわけにはいかない。

 そう心に決めて、次のモンスターを探すことにする。こんな短時間で戻ったらドレイクさんに笑われてしまうかもしれない。他人からの評価を気にするのは日本人の悲しい性か。


 辺りを見回すと少し離れた場所に動くものがあった。僕はできるだけ静かに、気づかれないように近づくことにした。  

 

 



 相手を確認できる距離まで近づいた僕の目に飛び込んできたのは、カエルよりは小さな白い毛をしたウサギだった。額に角が生えているけど気にしたら負けだ。

 名前をつけるなら一角ウサギって感じ。草をもぐもぐ食べている姿は愛らしい。ペットとして飼われているウサギの一種にもあれくらいの大きさのがいたはずだ。


「でもモンスターなんだよね。今回は油断しないようにしてと……」


 野生動物は火を怖がるってテレビで言っていた。けれどまだ使っていない水の魔法を使ってみようと思う。

 いつかは使うことになるだろうし、それが今だったという話なだけだ。今でしょ! と叫ぶどこかの塾講師が浮かん……でない。

 短く息を吐き、ウサギに集中する。頭に浮かんだ詠唱を気づかれないようそっと唱えた。


「生命の源 我が願いを聞き入れよ ウォーターボール」


 僕の周りから水分が集まり出し、バスケットボール大の水の塊が手のひらに生まれて飛んでいく。一応腕を伸ばしていたけど正解だった。


 飛んだ先でぶつかり、弾けることで生まれたつぶてがウサギの体に赤い染みを作りだす。ようは散弾銃のようなものらしい。こちらを見るウサギの赤い目が僕を睨みつけた。

 頭を低く構え、突進してくるウサギ。それを横に移動することで上手くかわし、ウサギが急ブレーキをかけ振り返るまでの時間で魔法を唱える。


「赤き願いよ 焔とならん フレイムスピア!」


 いつも通り、肩の辺りから生まれた槍がウサギに命中する。水と違って腕を無視してくれるヤツだ。

 しかし少しよろめいただけでそんな効果があったようには思えなかった。僕の中では毛皮を燃やす予定だったんだけどな。


「まさか……。最初に水で濡れたから? 魔法に物理現象とか持ってこないでよ」


 ファンタジーに現実味がぶち込まれていた。ゲームなんだから関係無いと思っていたそれは正しかったようで、濡れいてる体には炎は通じにくく、衝撃だけが伝わったらしい。

 残念ながら水はモンスターに当たっても消えないようだ。となれば水魔法で押し込むしかない。頭を切り替えてウサギの突進をかわせるよう身構える。ふと、頭によぎったものがあり、試してみることにした。


 ウサギの突進を左に軽く飛んでかわす。通り過ぎていく瞬間、右足で力いっぱい横っ腹を蹴り上げた。普段の僕なら絶対にやらないことだ。でもゲームのモンスターならいいだろう。相手も僕の命を狙ってることだし。


 ギャンと鳴き声をあげ、ウサギが浮き上がってそのまま飛んでいく。そこまで距離は取れなかったけど十分すぎる。


「生命の源 我が願いを聞き入れよ ウォーターボール!」


 浮いたままの体に命中し、踏ん張ることの出来なかったウサギは錐揉みをしながら大きく吹き飛んだ。頭から着地したためか角は折れ、ぐったりとして動かない。

 緊張感に包まれていた体が一気に緩む。そんなつもりはなかったのに何故かそうなってしまった。これは戦闘終了の合図かもしれない。そう思ってウサギに近づいて触れてみる。

 思ったとおり、ウサギは光になって消え、角と毛皮が残された。

 

「なんとなくわかってきたかも。そろそろ村に戻ろう。なんだか疲れてるし。魔力を使い過ぎたのかな」


 インベントリにアイテムを入れると村へと歩き出した。ドレイクさんにはカエルとウサギ、一角獣と言うらしい、を倒したことで褒められた。褒められた経験が少なかったのでむずむずしたのは僕だけの秘密にしておこうと思う。


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