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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第6章 箱庭の解放
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 あちらこちらに穴が空き、足を取られてもおかしくない大広間。

 時間だけが過ぎたが、ファルバウトの攻撃範囲はある程度つかめていた。俺は距離を取り、翼が来ない位置からぼんやりと眺めている。あとの2人は飛んでくる翼を切りつけているがどうも芳しくない。剣が弾かれる音が何度も鳴り響いている。


「どうしたらいいのかな……。というか、あいつはあれだけで俺たちを倒せるとか思ってるのかな? もうだいぶ慣れてきてるしスタミナも大量に消費する訳でも無いし」

 

 はっきり言って詰みだ。でもこの状態を維持すればこれ以上何も起きないのかもしれない。それはそれで良いけど、俺たちが現実に戻れなくなることでもある。さっさとこんな所からはおさらばしたいんだけどな……。

 


「あっ!」


 ちょうどその時、サラさんの焦ったような声が聞こえた。

 窪みに足を取られ、バランスを崩したサラさんに翼が待ってましたとばかりに襲い掛かった。頭が真っ白になり慌てて魔法を発動させる。だが、爆発にひるむことはなく、そのままサラさんの左肩に突き刺さった。

 すさまじい衝撃だったらしく、ふわりと体が浮き上がり壁に激突する。その光景に満足したように、翼はするするとまた霧の中に戻っていった。


「サラさんっ!」


 駆け寄った俺たちが見たものは、左肩から先が消滅しぜぇぜぇと息を切らせて苦しそうにしているサラさん。左手に持っていたはずの剣もどこにも見当たらない。


「くっ……そ。これはまずったね……」


 ポーションを使ってみたが、消えた左腕が戻ることはなかった。少しだけ呼吸が楽になった様子のサラさんが、オートクレールを杖代わりにして立ち上がる。その顔には憎らしげな表情がありありと浮かんでいた。


「たぶん『食われた』のかな。あんな奴の食事を提供するなんて最悪だね」


 ポーションはゲームとしての設定でしかない。あの翼は俺たちを形作る生命力、マナを吸収するようだ。となればポーションを使っても腕が消えたままなのは頷ける。しかし、これで一層ファルバウトに触れることが出来なくなった。とりあえずは攻撃が飛んでこない距離まで離れようとサラさんに肩を貸す。

 入り口に移動しようとした俺たちだったが、突然突き飛ばされ倒れこむ。


「痛っ! 何……を?」


 今はふざけてる場合じゃないと言おうとした俺の目に飛び込んで来たのは、地面からいくつも生えるように伸びた黒い骨だけの翼。そしてそれがいくつもサラさんの体を貫通している光景だった。


「あ……」


 シンさんがふらふらと手を伸ばす。俺は言葉さえ出すことが出来なかった。

 足元からサラさんがどんどん消えていく。呆然とする俺たちを見て、サラさんは弱弱しいがいつものような笑顔を作った。 

 

「……ふふ、後はお願い。……ごめんね」


 その小さな声が聞こえなくなると、からんとオートクレールが地面に零れその場には翼だけが残った。


「う、うわぁぁぁ!」


 遠くで聞こえるのは俺の声かシンさんの声か。俺たちは目の前に生えた翼を武器で思い切り殴りつける。岩を殴ったような痺れを感じたがそんなものはどうでも良かった。何度も何度も殴りつけるが効いた様子はなく、するすると地面に消えていく。力が抜け、どさりと俺たちはうずくまるように座り込んだ。


「……」


 声を出すこともできない。ただ無言でその場に座っているだけだった。

 付き合いはゲームだけの、一般的言えば浅い関係なのだろう。だが、俺たちにはそんなつもりはない。こんな状況で一緒に過ごしてきた大切な仲間だった。それが一瞬にして奪われたことが信じられなかった。

 

 ざざぁっと、落ち葉が風で揺れたような音がした。

 音の主はファルバウト。黒い霧が晴れ、肥大した右腕は元に戻っている。俺たちの攻撃で破れた衣服も直っていて無表情で俺たちを見つめている。


「ふむ。回復だけに絞って使ったが、あれはなかなか良いマナの持ち主だったな。ここまで修復できるとは思ってもみなかった。……何を呆けているのだ?」


 その言葉にシンさんが激昂する。


「何を呆けているだと? 仲間が消えたんだから当然だろう! お前にはそんなこともわからないのか!」

「私にとってみれば管理している牧場の家畜を食料にしたに過ぎない。お前たちの世界でも同じようにして糧を得ているだろう? それをいちいち気にしているのか?」


 刹那、大爆発と共にファルバウトが煙の中に消えた。気づくと俺は魔法を発動させていたらしい。いつ立ち上がったのかわからないくらい、俺の体は怒りに満ちていた。


 広間に風が発生し、煙を散らしていく。左腕が少し焦げたファルバウトは面倒だという表情を隠そうともせずそこに立っていた。


「質問の答えがこれとはな。まぁ気が済んだのなら良い。ついでに私の糧になってくれると尚良いがね」


 ファルバウトが両腕を掲げると、空中に1メートルを超えるような巨大な火球が現れた。そこから感じる魔力は底知れないものだった。俺たちに向かって投げつけようとしたが、寸前、その火球が霧散し大きな金属音が広間に響く。


「させるかよ。てめぇだけは絶対に許さねぇ」


 腕と剣の鍔迫り合い。シンさんが切りつけたおかげで俺は助かったと言ってよかった。そのまま一息吐いてその光景を見ていた俺の体が突然大きな脈を打つ。何度も起きるそれは手に持っていたレーヴァテインが原因のようで、怪しく宝玉が光を放っていた。それはレーヴァテインからのメッセージだった。

 たった1度きりの大技。いつ使うのか迷っていたがそれは今この時らしい。ぐっと体に力を込め、意識をレーヴァテインに集中させる。俺とレーヴァテインの中に流れる魔力が混ざり合ったような感覚に陥る。レーヴァテインの先端を今も剣戟を受けるファルバウトに向けた。


「どいてください!」


 

 叫ぶと同時に俺はレーヴァテインに強く願った。 


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