表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第5章 零れ落ちるもの
37/46

「私や、この世界で君たちプレイヤーと過ごす住民たち、NPCと言った方がいいかな? 彼らは永い永い時間を過ごしてきた。かつて、神と呼ばれる上位の存在が世界を治め、まさに理想郷と呼ばれる世界がここにあった」


 ドレイクさんは懐かしむような表情を浮かべ、静かに目を閉じる。記憶をかみ締めるかのように。


「我らは神の手足である精霊と名乗り、世界をマナで満たしていた。――命が溢れる世界だった。だが、我らを残し突然神は消えたのだ。世界に絶望が満ち溢れ、木々は枯れ、大地は豊穣を与えることをやめた。風は腐り、優しく命を包んでいた水は死の呼び込んだ。精霊である我らも、死が溢れる世界で存在を保てず一部が消えていった」


 不意に、深い悲しみが彼の全身からにじみ出てくるような錯覚に襲われた。口元が大きく歪み、これがあの朗らかだったドレイクさんだとは到底思えない。


「絶望に支配される中、精霊の中で最も大きな力を持ったものが我らに言った。精神体である我らならば他の世界に干渉することができるかもしれないと。恐らく、全く同じ目的で力を合わせるのは初めてだったのかもしれないな。世界をマナで満たしてはいたが、自身の領域だけという考えが多かったから。かくて、それは成功し、まだ若い、だがマナの溢れる世界を見つけた。――それが君たちの世界だよ」


 そこまで言うと、積年の何かが篭ったようなため息をついた。後悔に似たような感情がこの場を満たしていく。消えかかった世界で必死に行動したのはわかった。だが、それが何故このようなゲームを、状況を作り出したのかはわからなかった。それに、地球には精霊なんてオカルトな存在はいない。光るナニカがいたとしてもそれはただのプラズマや放電現象だとばっさり両断されて久しい。まぁ、今でも霊感商法なんて物が残っているから信じている人もいるのは確かなのだが。


「ふふ。夢物語だと言いたげだね。確かに信じられるものではないと思う。しかし、今この状況に自分がおかれて、それでも頭ごなしに否定はできないだろう?」


 その問いに黙って頷く。

 ログアウト出来ないゲーム。ヴァーチャルリアリティと現実が区別をつけられなくなった不可思議。だが、それでもこれは運営の悪戯心で作られたイベントだと信じたい俺もいる。


「君たちの世界、地球へ移動して見たのは2足歩行を始めたばかりの生物だった。そして世界からの強制排除。考えてみれば我らは異物だからね。すぐ受け入れられるわけがなかったのだよ。あの時、少しずつでも我らが変われば良かったのだが、そんな時間は無かった。そして最初に世界を探すと言い出した精霊が、その絶大な力で排除される寸前、地球から多少のマナを収奪することに成功したのだ。それは消えかかった我らに大いに力を与えた。……そこから我らは狂いだしたのかもしれないな。それから何度も侵入し、マナを吸収していった。世界の排除に耐えられる程に力をつけた彼は、この素晴らしいマナの質をさらに高めるため、あらゆる方法で干渉を始めたのだ。2足歩行の生物に知識を、火を与え、文明というものを与えてからは姿を変え、時に偉大な指導者、ある時は発明家として世界に入り込み、進むべき方向を操り始めた」


 学校で学んだことが蘇ってくる。生活を豊かなものへと変えた発明や、素晴らしい指導者の名前が浮かんでは消えていった。それが全てこの人の言う通り仕組まれたものだとしたら……。それは決して許されるものではない。俺たちの祖先が命をかけてきたものが、全てこいつらの掌上で踊らされていたと言うならばそれは冒涜だ。――俺たちを何だと思っているんだ。

 憎悪の感情が俺を動かす。インベントリから杖を取り出し、魔力を込める。しかし、何の反応も起きなかった。ならばと、杖を振りかぶってそのまま力いっぱい殴りつけるが、ホログラムを相手にしているようにするりと通り抜け床にぶつかった。


「さっきも言ったと思うが、ここはシステムから切り離されている。私もそこから独立した存在だと思ってくれていい。今の君には私に攻撃することはもちろん、触れる手立てさえ存在しないよ」


 奥歯が削れるほど噛み締める。こいつの全てが、髪の毛1本さえが憎らしい。何をしても許されると思っているような、そんなやつと笑っていた記憶が蘇ってさらに俺を憎悪の渦に飲み込んでいく。怒りで杖を持つ手が震えていた。


「続けよう。成長を続けた君たちの祖先は初期とは比べ物にならないほどのマナを持つようになった。マナを操り、超常の力を持つ者さえ現れた。我らは狂喜したよ。これほどのマナが我らにどれだけの力を与えてくれるのだろうか。我らを見捨てた神さえも超えることができるかもしれない。そうして我らは精霊と親和性の高いマナを持つヒトを厳選し、それを精神体へと作り変え吸収する手段を創造した。……それがこのゲームだ」


 あぁ。そういうことか。現実離れしたものが受け入れられるようになったのも俺の中身が変わっていったのだ。そうして完全に変わってしまった俺たちに残されるのは、こいつらの糧として吸収されることだけ。それを知ってしまった俺から力が抜けていく。どうすればその未来が変えられるのかわからず、その場にへたり込んだ。


「若いヒトほど我らと親和性が高いことに気づいたのもそれからだ。そしてこのようなゲームを簡単に受け入れてしまうヒトならば、すぐに我らと馴染んでいくだろうと結論付けた。テスター募集をうたい、選ばれたヒトから最高のマナを奪い、我らは精霊の枠を超えるほどの力を身に付けることができた。時を巻き戻し、安定したマナ供給の場を作り出す魔法。『AnotherWorld』これがその魔法だよ。幾度と無く魔法は発動され、我の糧として多くのヒトが消えていった。そして今回、悲願であった神の座を奪うことができるだろう」


 言葉が耳に入ってくるが、もうそれがどんな意味なのか理解したいとも思わない。ご大層な計画だ。吸いたければ吸えばいいさ。けど、いつか、いつか地球に住む人がお前たちを滅ぼしてくれるはずだ。壁にぶち当たっても人類は乗り越えてきた。これもそんな壁の1つだろう。俺たちは消えてしまうけど、未来の人類がきっとやってくれる。礎となるなら喜んでなってやろう。


「何を考えているかはだいたいわかるが、何故私がこんな話をしたのか疑問に思わないのかい? 面倒な説明などせずに何も知らない君たちからマナを奪う方が簡単だ。なのに説明したということは何かしらの目的があってのことだと」


 顔を上げてドレイクを見つめる。村に居た時と変わらない優しい表情で俺を見ていた。

 だが、それは上辺だけだろう。内心ではただの食料程度にしか思っていなかったに違いない。


「信用されないのはわかっている。他にも君以外のプレイヤーたちに伝えたが同じような反応だったよ。君の仲間にも伝えておきたい。そして私の目的もね。2人を連れておいで。この腕輪があればここにいつでも移動することができるようになる」


 そうして渡されたのは鈍く光る銀のブレスレットだった。シンさんとサラさん。あの2人だったら何か反抗する方法を思いつくかもしれない。そう考えて奪うように受け取るとドレイクは光の粒となって消えていった。


「さぁ、戻るといい。彼らには君から説明してもいいよ。もちろんここに来れば再度説明はしよう」


 その声だけが空間に響いた。

 そして気が付くと町の入り口に帰ってきていた。夢のような出来事だったが、悪夢と言い換えてもいいだろう。まずはあの2人に会うことが先決だ。俺は宿屋に向かって全力で走り出した。




「へぇ。そんなことがねぇ」

 

 シンさんの部屋に飛び込むと、驚いた様子だったが快く迎え入れてくれた。ドレイクから受けた説明を伝えていくと、いぶかしんだ様子になりサラさんも交えての説明会となった。


「まぁ長時間のログインで体が慣れただけじゃないか? 俺はただのイベントだと思うぞ」

 

 シンさんは特に問題視した様子は無い。突拍子も無いと言われればその通りだし、既にヴァーチャルリアリティは技術的には確立されたものとして現実に受け入れられている。実現できなかった時代の恐怖が混ざった可能性論議ならばともかく、今はログアウトできずに取り残されるなんて事態は起きていないのだ。


「まぁその線が1番かな。攻略サイトとか掲示板でもそんな話題が出たことは無いしね」


 サラさんはもうポーションを作りながらで、ほぼ信用していないようだ。これを想定していたのだろうか。ドレイクは連れて来たらまた説明すると言っていた。ならばブレスレットを発動させれば――。


「えっと、これがその時もらったブレスレットで。あの空間に移動できるって言ってたんですけど……」


 情報ウィンドウを立ち上げてみたが、ただの銀のブレスレットとしか書かれていなかった。触ってみても、叩いてみても何の反応も無い。本当に俺はあの人にかつがれただけだったのか。イベントで踊らされた痛いプレイヤーになっただけだったのかもしれない。

 

 そんなことが頭に浮かんだその時、部屋全体が強烈な光で包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ