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陽が燦々と降り注ぎ、それを反射して輝く黄金の大地。不毛の大地と想像していた砂漠が、宝石箱をひっくり返したような美しさであったことに俺は驚愕した。実際にはこの黄金の大地は多くの命を奪ってきたのだろうけど。
この町は元々小さなオアシスと休憩小屋程度だったのだが、増幅効果のある魔石と水を生み出す魔石を泉にふんだんにまいたことで、この砂漠探索の一大拠点として成長した。今でも砂漠に眠る古代遺跡を求めて各地から多くの冒険者が集まるという。
「ふぅーっ。太陽が痛いくらい眩しいぜ」
「でも気温まで再現されてなくて良かったじゃないか。もしそこまでリアルだったらすぐに動けなくなってるだろうね」
「特に俺なんて毛皮のミトンですからね。きっと全力で放り投げてると思いますよ」
「ほう? そうしてくれても私は一向に構わないよ? というか寄越せ」
未だにサラさんはこのミトンに未練があるようだ。うーん。似たような物ならすぐに知り合いに作ってもらえそうなもんだけど。
「その顔は誰かに依頼しろって顔だね。甘いよ。それほど真っ白にしようとすると毛皮の質がどうしても悪くなる。かといって質を重視すれば灰色のミトンにしかならない。既に多くの職人たちが挑戦しては夢破れていってるのさ」
遠い目をするサラさんだがやってることはしょうもない。いや、スキルレベルの上昇に役立っているからムダではない、のかな?
周りの人間はターバンを巻いたり白やベージュの布で包んだ住民と、それ以外の重装備のプレイヤーとしてすぐに判別できるようだ。一応、ここに住んでいるという設定なら暑さ対策は当然か。建築物は白やベージュの石壁が多く、熱を反射するように考えているのかもしれない。
この町にもギルドは当然あるのだが、その規模はソラリアとほぼ同じ。聞くと、ギルドの持つ大本の技術はこの砂漠から発掘されたらしい。なるほど、ある意味ここが本社で他は支社って訳か。この砂漠の大地で地下室を作り維持する技術なんて想像もつかない。どんだけ発達していたんだろ。
「まぁそれなりに情報は調べてきてるんだけど……。とりあえずはポーション素材が採集できる場所に行こうか。最悪、慣れるまではそれを売って分ければいいんだし」
「いつもすまないねぇお前さん」
「それは言わない約束でしょ。いいの。私がやりたいって言ってるんだから」
突然目の前で始まったコントをまるっきり無視して、俺は簡易地図を取り扱っている露店に足を運ぶ。これは大体の地形が描いてあり、詳細は自分達で描き込んで行く地図だ。この町と方角さえわかれば何とかなる。太陽は東から出て西に沈むのは同じみたいだしね。
「おーい。聞こえてらっしゃいますかー?」
食材も見てみたけど干物が多いのかな? 今の露店でも吊るしてあったし。まぁこの強い太陽光線を利用したってことなんだろう。食堂があったら入ってみたいな。どんな食事があるんだろう。
「あのー。会長さん? 悪ふざけが過ぎたと思っていますし少しこちらを……」
あぁ。やっと2人が帰ってきたみたいだ。やれやれ。最初が肝心なんだからばっちり決めないと。
「……ねぇ、なんか変わってない?」
「ずっと狩りばっかしてたから少し好戦的になったかもっす。いやでも引っ込み思案な感じよりかはいいかなぁと」
「リーダーシップといえばそうなのかな? 他人を引っ張るような性格になりかけ、かもね」
何かこそこそ話しているが気にしないでおこう。少しは反省してもらおう。
「ではコレがこの辺りの簡易地図ですね。何かあればどんどん描き込んでいきましょう」
「そ、そか。うん。そうしよう」
「なんかマスターらしくなってきたな。がんがん引っ張ってくれよ」
シンさんは嬉しそうな顔で近寄って来るとばしばしと肩を叩いてきた。いや意外とこれ痛いんですけど。楽しそうだからまぁいいか。
「さって。確か町から東の方に小さなオアシスがあるみたいだよ。そこにハーブやら何やらあるみたい」
「んっじゃそこ行くか」
「了解です。敵の強さも確認しながら行きましょうね」
そうして町を出ると、東に向かって歩く。現実と違って水分補給が必要ないのはかなり大きい。だけど、優しい砂漠じゃなかった。俺みたいな魔道師はそこまで感じてはいなかったが、戦士職、スタミナを重要視する2人には大問題だった。
「うーん。やっぱりそうだよねぇ」
「そっすね。普段の半分ってトコすか」
熱は実装されていないが、砂漠を進むことで本来起きるであろう疲労が2人を襲っていたようだ。スタミナ半減効果が永続的に発生しているらしかった。普段より慎重な戦闘が必要とされ、場合によっては逃走することも重要になってくる。もちろん、逃走するにもスタミナが必要なので判断がかなり難しい。
「モンスターが襲ってきたら、一撃必殺の勢いでやるしかないですね」
「だね。下手に長引かせるとこちらが危うくなる」
「……いつもより剣が重い気がする」
すでに1名、思い込みによって戦力が低下している。ただ、スタミナが減っているだけで他は変わっていないはずだ。筋力が低下している訳でもなし、まぁいざ戦闘になればいつも通り動いてくれるだろ。
砂漠は見晴らしが良く、いつもより索敵もしやすい。敵の確認と言ったがそれは帰りにやろうということで考えは一致し、かなり早めの回避行動を取っていた。
「もうすぐだね。確か岩場で囲まれたオアシスらしいからたぶんあそこだよ」
サラさんが指差した方角には確かに赤茶色に風化した巨大な岩があった。影が出来てるお陰でオアシスが枯れることがなかったのかな? 倒れかけて支えあっている箇所が入り口のようだ。辺りにモンスターの姿も無く、安全っぽいと判断するとシンさんが思いっきり走っていく。精神的に疲れてそうだったしな。あれくらいは見て見ぬふりをしよう。
だが、シンさんがもうすぐ入り口に着くといった時、突如足元の砂が盛り上がり、そこから5メートルはあろうかというミミズが姿を現した。
慌ててシンさんが後ろに飛び跳ね、俺たちも急いで戦闘体勢を整える。胴回りは1メートルくらいか、ピンク色をした巨体から砂が滝のように流れ落ちる。目は退化しているようで見当たらず、その頭の半分を占めるほどの巨大な口だけが見える。大きく開かれた口の中に、サメを彷彿させる鋭い歯が所狭しと並んでいた。こいつの生態は知らないが、ただ一つだけわかったことがある。
――こいつは間違いなく肉食だ。




